第11話

1時間目はスパナがとんでった。

3時間目はサバイバルナイフがとんでった。

そして今ゴルフクラブがとんでった。

どれも聖に飛んでった。

初めのうちは聖も真っ青になってたけど今は慣れてしまったみたいだ。

見てるだけの私は未だにドン引きしてる。

なんというか、慣れって怖いなと思う。

それを除けば私にとって学校は楽しいものになっている。

咲達だけでなく色んな人に声をかけられるようになった。

前の世界では考えられなかったなぁ。

"私以外みんな馬鹿"

最低だけどそれが私の心持ちだった。

でも今は変な計算や策略を考えることも無い。

ある程度強めの言葉を使ってもお互い様って感じだし、気軽に軽口叩いたり本音で話せる聖という友達もできた。

最近はここが私にとって本当の世界なんじゃないかと思う。

"あの家さえなければ"ね。

"家"と言う場所には私がこの幸せな世界にあと一歩のところで深入りせずに"正気"を保っていられるのかが詰め込まれている。

理由もなく引きこもっているらしい弟。

その弟と私に対して他人のような態度で接してくる最低な両親。

前の世界だとみんなニコニコしていて楽しい家族だったのが嘘のように冷えきった家。

嫌でも現実に引き戻されるような寂しい場所だ。

だから最近は家に帰っていない。

幸いお金だけは口座にあったので最近は学校が終わると1人でブラブラしている。

以前の私なら絶対に近寄らなかったであろう場所でも今は簡単に足が進んでいく。

繁華街、怪しいお店が並ぶ裏通りなどとにかく片っ端から見て回っている。

最先端のファッション?興味ない。

ほっぺたの落ちる行列のできる料理?お腹に入れば同じでしょ。

泣ける映画?私はあんなので泣ける脳みその出来に泣けるわ。

一通り世間の"売り"を小馬鹿にしたあと私はホテルに戻ってベッドに寝転んだ。

いろいろ見て回ったけど私の中の感情は前の世界と変わらないらしい。

「やっぱり私は寂しい人間だ」

気づくと思った言葉が口に出ていた。

慌てて口を抑えてると次は目から涙が流れて止まらない。

『寂しい』な...

こんな時に...が居てくれたら...

そう思うと勝手に体が動いていた。

ベッドから飛び退き、ホテルを出て、街を走った。

もう周りの目とか気にせず走った。

ここがどこなのか、どこへ向かってるのかも分からずただただ走った。

そしてコケた。

私ださくてかっこわるいなぁ。

「疲れたよ、ひじりぃ」

あ、また声に出てた。

「大丈夫?」

誰かに声をかけられ、手を差し伸べられた。

いや、誰かなんて声でわかってた。

「だいじょばない、構って」

今は甘えさせてもらおう。

なんでか分からないけど今はいつも馬鹿にしてるバカになっても許してくれる気がする。

「いいよ、花」

ありがとう、聖。

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