第10話

この変な世界に来てから数日が経った。

未だにこの世界のことは分からないし、出られる気配もない。

だけど1つだけ分かったことはある。

私と花の環境は逆になっていることが多いということだ。

まず家での環境。

私の家は両親が私と妹に無関心だった。

というより両親が"家族"に対して無関心だ。

そのせいで妹は引きこもりになった。

だけどこの世界だと全くの真逆だった。

家はいまでも冷たいイメージの漂うマンションの最上階のまま。

だけど中に入るとそれは一変する。

私に無関心だったはずの両親がやけに構ってくる。

妹も、私が家に帰るなり「おねーちゃんおねーちゃん」と玄関まで出てくる。

最初はかなり困惑した。

『なんでこんなに馴れ馴れしいんだ?今更なんだよ』と思っていた。

『勝手に無視して勝手に構ってくる』

どうせすぐに無関心に戻るんだろうと思ってたから鬱陶しくて仕方がなかった。

でも今は構ってくれるのが嬉しいし、あったかく感じてる。

これが私の憧れた本来の家族の姿なのだろうか。


でも学校はどこか浮いている感じがする。

花とはいつも通り、というより前の世界で話してなかった分よく話すようになった。

その時の周りの目がキツい。

刺すような視線が私に送られている。

この学校での花は"ギャル"として認識されていて、カーストの上位にいるみたいだ。

学園モノのアニメでしか見たことがなかったけど本当にあるんだなこういうの。

前の世界でも嫉妬の視線を浴びたことは良くあったけどこれはちょっと比にならないなぁ。

さすがの私でもちょっとよわよわになってしまう。

休み時間とか空き時間はだいたい1人でボーッとしてるか嫉妬の視線をくらっている。

授業中はまた別の問題があった。

ここでもなんかおかしいことが度々起こる。



これは数学の時間の出来事だ。


「神崎

4×5を答えなさい」

「!?」

これ数学だよな?

しかも高校だぞ!?

花もなんかフリーズしている。

「え〜っと...

20?」

「正解だ!」

「「「パン!!!」」」

教師の正解コールと共にクラッカーが鳴った。

さらにどこからともなく吹奏楽部が現れ、壮大なクラシックを演奏し始めた。

ドヴォルザーク:交響曲第9新世界より

美しい演奏を指揮するのは...

は?教師かよ...

なんでチョークで指揮してんだよ...


なげぇ...

「皆!吹奏楽部と花に拍手だ!!」

いや、もう意味わからん...

花も立ったまま目をパチクリしている。

しかも顔も真っ赤になってる。

「良く正解したな!胸を張れ胸を!」

「は...はい....」

めっちゃ照れてる。

「さあ、英雄の着席だ!

神崎!どうぞ着席ください!」

なにこの話し方。

意味わからなさすぎてめっちゃ笑ってしまった。

「じゃあ次の問題は〜」

あ、やべ、教師と目が合った。

「お前でいいか、えっと名前なんだっけ

あー七瀬か」

はあ?なんだアイツ、私の名前覚えてねぇのかよ。

教師だろコラ。

「じゃあ問題なー」

明らかやる気がねぇ...

しかも椅子に胡座かいて座ってるし...

「これでいいや、教科書72ページの大問1の1行目に書かれてる二次方程式の気持ちを答えよ」

?????????

何言ってんのコイツ!?

数学じゃねーじゃん!

なんだよ二次方程式の気持ちって!

そんなのあんのかよ!

「なにそんなんもわかんないの?」

コイツ腹立つ〜!!

「ごー、よーん、さーん」

はぁ?カウントダウン始めやがった!

「え〜っと、たのしい...とか?」

「はぁ?ちゃんと授業聞いとけやカス」

『バキューン!』

「うぉ!?あぶねぇ!?」

コイツ発砲しやがった!

いやいやいやいや花の時と違いすぎだろ!!

変な汗でるわ!

「次は当てるからな」

こっわ!ふざけんな!

当たったらあぶねぇだろうが!

怒るのも疲れてきた...

もうやだこの世界...


って感じの授業がたまにある。

まだまだこの世界に慣れそうにないし、帰れそうにない。

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