第9話

「よく撮れてる」

「うん!ありがとな!」

素人の私が見てもいい写真だと思う。

ニコニコ笑顔の私と鏡文字の看板や電光掲示板。

にしても写真の中の私がこんなに笑ってるのは意外だった。

でもこれで1日も終わりか〜、変な体験したな〜。

そう追憶しながら電車を降りた私は、気がつくと叫んでいた。

「って違ーーーう!!」

電車から降りると、そこはいつもの見慣れた駅。

あ〜、やっと戻ってこれた。

いい体験したな〜で終わるはずだった。


"まだこの世界から抜け出せていない"


目に映る広告や看板は鏡文字。

しかも電車に乗る前とまた変化が起きている。

悪化していると言った方がいいのかこれ。

例えばマンションやビルといえば大体コンクリートの灰色やレンガに近い茶色のものを思い浮かべるだろう。

いやいや、なんで蛍光色なんだよ。

イエロー、オレンジ、ピンク。

目が痛くなるわ!

まあ、世界中どっか探せば個性の塊みたいな配色の家もあるだろうけどさ。

でも家やビル、マンション。

さらにいえば駅に電車、電柱まで蛍光色なんですけど。

ファンタジーでもこんなのないわ!

「なに!?なにかあった!?」

私の叫びに気づいた花も遅れて電車から降りてきた。

「え、なん、は?」

だよな、そうなるよな。

「あたしらまだこっちにいるみてぇだ」

「あ、うん理解した」

え、慣れた?

「意外ね、ギャルなら『きゃ〜、なにこれー!可愛いんですけど〜!!!』ってなると思ってたんだけど」

私にどんなイメージ持ってんだ花のやつ。

「いや、さすがのあたしもそこまで振り切れねぇよ」

たしかに可愛いものは好きだけどこれはちょっと...

なんか違うじゃん...

「なんか冷静だな」

「まあ、一応頭の隅にいれてたから

帰れないかもって」

「まじか...」

あっけらかんとしている花に私はなぜか違和感があった。

なんでこんなに落ち着いているんだ?

普通もっと取り乱したりしそうなもんだけど。

どこか花は他人事のように思ってる感じがする...

「ねぇ」

「え、ん!?」

「帰らないの?」

「どこへ?」

「家よ」

「え、あ〜そっかそっかそうだよな

家だよな!」

「変なの」

花は不思議な顔して私のことを見てる。

でも、私からしたら異様なくらい落ち着いていて、どこか"受け入れている"感じがする花の方が不思議に見える。

「はは、まあいっか

帰ろ」

そうして私と花は歩き始めた。

気がつくとずっと一緒に歩いている。

比喩じゃなくてマジで。

どうやら家も同じ地区にあるっぽい。

「お互い興味なかったんだな」

「そうね、おかしな話ね」

そこから色んな話をした。

学校ではいつもどんなだーとか、家族はこんなんでーとか、話し始めて一日未満のやつにする話じゃない様な話までいろいろした。

周りから見ると十年来の親友同士のように見えてたと思う。

「あ、ちょっと寄り道しようぜ!」

そう言って私は花の手を掴んで走り始めた。

花は「もう、また?」って顔をしながらも嫌がる素振りは見せずに着いてきてくれた。

花の手を引きながら、私が1番好きな場所に連れてきた。

朝いつもお菓子を食べてる土手だ。

「あたしここ好きなんだ」

ここはちょうどいい風が吹くんだ。

嫌なことがあった日だろうが幸せだった日だろうが関係なく、包み込んでくれるような優しい風だ。

「へぇ、いいじゃない」

そういった花の顔は夕日に照らされて、すごく綺麗だった。

それくらいいい顔で微笑んでいた。

「な?花の通学路だと通らないだろうし、いい寄り道だろ?」

「うん、ありがと」

そう言いながら花はまたカメラを取りだした。

「どう?もう1枚」

「いいね、かわいく撮ってくれよ」

「任せて」

そう言って、花はシャッターを切った。

1番好きな場所で撮ったその写真は、私史上1番いい笑顔だった。




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