第6話

電車の外はいつもの駅、でもどこか違和感がある。

なのにいまいち違和感を特定しきれない。

大して良くもないあたまで必死に考えていると「なあ、あれ変じゃね?」と聖が言ってきた。

聖の指さした先を見てようやく違和感が確信に変わった。

「あれなんて言うんだっけ、鏡文字...?」

『駅のあらゆる文字が反転している』

厳密に言うと文字が左右反転かつ上下が逆さまになっているのだ。

しかし、不思議なのは『なぜかその文字を普段見ている文字と変わらずに読める事』ということだ。

「あれ読めるの?」

「おん、フツーに読める」

この駅にある時計、ポスター、広告などすべて書かれている文字が反転しているのに違和感なく読めてしまう。

というか文字を見た瞬間に、さっきまで抱いていた違和感がすっきりと消えている。

「てか時間!なんで8時!?」

さっき見ていたのに気づかなかった。

時間が戻っている?

「なぁ」

そろそろ読めてきた。

聖の「なぁ」は私をどこか引っ張る時、いや巻き込む時の合図だ。

「学校?」

「よく分かってんじゃん、行ってみようぜ」

まあよく分からない夢だろうが、現実だろうが皆勤賞が途切れないかもしれないなら行く価値はある。

なによりどこまでこの錯覚が続くのか分からないし。

行動あるのみだと思う。

なにより行動力の塊に見える聖にならついていってもいいかもしない。

私たちは学校へ向かった。


そしてすんなり学校に着いた。

通学路に特に変わったことは無かった。

相変わらず文字は反転しているけど...

学校も文字が反転しているだけで外観や生徒達に特に変化は無い。

というか聖がずっと着いてくる。

靴箱まで着いてくる。

あ、同じクラスの靴箱。

「ほんとに同じクラスだったんだ」

「え!?嘘でしょ!?さっき言ったじゃん!」

適当言ってるだけかと思ってた。

「ご、ごめん」

ちょっと反省しよう。

聖はボソボソ「え〜、あたしに興味無さすぎでしょ...」とボヤいている。

ごめんを繰り返しながら聖と一緒に教室に入ると誰かが私に抱きついてきた。

「おはよーーー!花ちゃん今日もいい匂いだねぇ!」

え、誰?

「あの、誰ですか?」

一瞬私の周りがシーンとなった。

やばい、素で言ってしまった。

「もう花ったら〜、由紀だよっ」

なんで?由紀は中学からの同級生だ。

でもクラスは別だし、私に飛びついてこない。

なにより髪をピンクに染めたりするような子じゃない。

びっくりして不意に聖に顔を向けてしまった。

聖も口を開けたままポカーンとしている。

あ、目が合った。

ちょっと見つめ合うと正気に戻ったみたいで顔を振っていた。

視線をチラッとクラスの方へ向けるとチラホラとド派手な髪色の子達がいる。

しかも何人か由紀の様に私でも話したことのある人達がいる。

「も〜、どうしたの?さっきからキョロキョロして

花ちゃんらしくないよ〜?」

「え、ごめんごめん。

急に抱きついてくるからビックリしちゃったよ〜」

とりあえずいつも通り話を合わせる方向でいこう。

「急にって、いつもやってるじゃん」

嘘でしょ。

「てかさ〜、楽しみだよね

今日からの射撃の授業」

ん?今物騒なワードがでなかった?

「し、射撃?」

「そうだよ?一限からドンパチだよ?」


その言葉で私の頭は考えるのを停止、聖でさえ固まっていた。

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