第5話

聖と出会って10分が経ったころ。

私は電車に揺られていた。

隣の聖は私の肩に寄りかかる形で寝ている。

なんでこうなったんだっけ。


あー、そうだ。

こいつのせいだ。

展開が急すぎてやっと理解出来てきた。

たしか...


スマホ泥棒を追いかけて走った私達は疲れて知らない街中でへたりこんでいた。

「あ、学校」

思ったことが口に出ていた。

「あー、遅刻だな」

なんでこんなに平然としてるんだ、学生の本文は勉強だぞ?

遅刻とか有り得ないだろ...

「まあいいじゃん、遅刻なんてよくあるって」

「よくあるって...私は遅刻なんてしたことないですけど」

私はお前と違って無遅刻無欠席だってーの。

「まあまあ、どうせ遅刻だしいっそサボってどっかいかね?」

「はい?なんて言ったの?」

「どうせ今からいったって遅刻だしいっそサボ」

「繰り返せとは言ってない」

「なんだ聞こえてんじゃん」

なんで私の発言の意図がわからな、いや分かって言ってるのか。

「無遅刻無欠席だったんならもう今いっても無駄でしょ?

じゃああたしとどっかいこーよ」

「まあそうだけど...」

「ならいいじゃん!ほら!」

そう言って聖は私の手を取って走り出した。


たしかこんな感じだった。

で、駅に連れてこられて電車に乗せられたと。

この電車どこに向かってるんだろ。

てか聖が寝てたらどの駅で降りるか分からないじゃん!

「ねぇ、ねぇってば」

肩を揺すっても聖が起きる気配はない。

「ちょっと、起きて」

「マカロニ....」

今度は寝言を言い出した。

名前、名前。

あ、思い出した。

「七瀬さん、起きて

どこで降りるの?」

これでもダメか。

めんどくさいなぁ。

すると、急に電車が大きく揺れた。

「んん!?なに!?」

揺れよりも聖のビクッとした動きの方に驚いた。

動物の防衛本能だろうか。

肩を揺すってもこっそりつねっても起きなかった聖がやっと起きた。

「わからない、地震かな」

「ふーん、ここどこ?」

ちょっと待って、嘘でしょ。

勘のいい私は気づいてしまった。

コイツ行先決めずに私を電車に乗せやがった。

普通「あー、まだここか」とか「今𓏸𓏸駅だから次で降りよっか」ってなるでしょ。

それがないってことはきっとそうだ。

なんてアホに着いてきてしまったんだ....

絶望しながら10分は経っただろうか。

「電車うごかないねぇ〜」

たしかにそれもそうだが、なにより車内アナウンスとか車掌さんが状況を説明しに来たりなどが一切ない。

「なんか変だね」

あ、嫌な予感がする。

「なぁ、降り」

「嫌だ」

やっぱりか。

「ダメ?」

「ダメに決まってるでしょ、大人しくしてなさい」

「ヘーイ」

私は保護者か。

かといって私もそろそろ座るのがしんどい。

「なあ?」

今度はなんだ。

「なんで駅についてんの?」

少し、動揺してる様子の聖が窓を指差しながら言った。

嘘でしょ?やだ見たくない見たくない。

そう脳内で自分に言い聞かせながらも私は窓に目を向けてしまった。

そこは学校前の駅だった。

いつもと変わらない風景。

「どういうこと!?なんで!?」

「さっぱりわからん、真逆の電車に乗ってたんだけど」

え、そうだったんだ。

にしてもコイツも動揺とかするんだ。

「まあいっか、ちっさいことは気にせず降りようぜ」

「え、ちょっ」

反抗虚しく私は手を引かれて電車をおりてしまった。


今思えばそれが私たちの短いようで長い物語の始まりだったと思う。

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