第4話

意外かもしれないけど私は朝が好きだ。

日光が人を健康にするって本当だと思ってる。

早起きだって好きだ。

引きこもりの妹は寝てるし、親も昼にしか起きてこない。

つまり私1人だけの誰にも邪魔されない最高の時間だ。

起きてまず私はリビングのテーブルから無造作に置かれた5000円を手に取り財布に入れる。

親いわく私の1日の食費らしい。

私に興味が無いからどれだけの金額が必要なのかも分からずにとりあえず置いているっぽい。

最初のうちは無視ってた。

でも『聖のお昼代』って書かれたメモを見てから迷いながらも貰ってた。

慣れって怖いね、もうなにも思わずに財布に入れるのが習慣になってる。

毎日置いてくれてるのは感謝してる。

『お弁当作ってくれたりするかなぁ』とか淡い期待をしていた高校入学前の私が見たら泡吹いてひっくり返ってるだろうな。

お金を財布に入れたあとは大分早いけど制服に着替えて家を出る。

駅に着く前にやることがあるからだ。

まずコンビニでお昼に食べるサンドウィッチとカフェオレ、それに朝ごはんのお菓子だ。

朝ごはんをお菓子で済ましてるのはただ少食なだけ無理なダイエットをしているとかじゃない。

買ったあとは朝の気持ちいい風が吹いている土手に腰掛けてジョギングしているおじさんや、朝練をしている野球少年立ちを見ながらお菓子を食べている。

金髪制服美少女が土手に腰かけてお菓子をチビチビと食べる。

私はなにも頑張っていない。

だから他人の頑張っている姿を見て自分に足りないなにかを埋めようとしている。

他人が私に足りないなにかを埋めてくれるわけじゃないのにね。

自分でもこれになんの意味があるのか理解できないけどなぜか続いている。

ここで大半の時間を潰して私は駅に行く。

人でごった返してる駅、電車内は私には関係ない。

この髪色とかわいい女子高生ってだけで勝手に道を開けてくれる。

そういう時だけはこの容姿に産んでくれた親に感謝してる。

にしても今日は人多いな、座れなかったし。

まあいっか、スマホでも見て時間でも潰...

ん?よく見たら向かいに座ってるの同じクラスの"神崎 花"じゃん。

目立つやつじゃないけどなんか知ってるんだよな。

なんかわかんないけど周りを見下してる感じがする。

陰口叩かれまくってるウチらのグループをまったく気にもかけてないある意味平等なやつ。

同じ電車乗ってたんだ、今までぜんっぜん気づかんかった。

すっごい姿勢いい座り方してんな、てか目ェ瞑ってるし寝てんのか?

少しの間、私が花を見ていると目の前におっさんが入ってきた。

まるで花を周りから隠すように目の前にでてきたおっさんに私はすごく嫌な予感がした。

まさかこいつ痴漢野郎か!?

でも決めつけんのはさすがにダメだよな。

金髪の私が言っても説得力無いけど見た目で判断しちゃいけないよな。

もう少し様子見てみ...あ、カバンからスマホ抜いた。

こういう時って考えるより先に手が出るんだな、学んだわ。

「な、なんだね君は!」

気づいたら私はおっさんを睨みながらおっさんの手を掴んでた。

「盗っただろ!お前その子のスマホ盗っただろ!」

「そんなことしない!言いがかりだ!」

はあ?私お前が盗るとこ見てるんですけど。

「お前がその子のカバンから抜いてたの見てたんだよ!それ返せって!」

「ふざけるな!これは私の携帯だ!くだらん言いがかりはよしてくれ!」

こいつ〜!この期に及んでシラ切るつもりかよ!

そうだ!こいつなら!花なら自分のスマホだって分かるはずだ!

「なあ!あんた起きて!」

肩を叩くと不機嫌そうな花が目を開いた。

「え、わたしですか?」

「そうだよ!こいつ!このおっさんのもってるスマホ!

これあんたのだろ!?」

私がそう言うと花はなんとなく事情を察したようだ。

おっさんの握りしめているスマホとカバンのポケットに視線を交互にやっている。

そしてため息をついて口を開いた。

「ちょっとスマホのホーム画面を見せて貰えますか?」

おっさんの目が泳いだのを私も花も見逃さなかった。

私も

「おいおっさん!見せてみろよ!」

と続けて言った。

それでもおっさんは黙ったままだ。

花は続けて

「私達次の駅で降りるんで今なら返すだけで許しますよ」

と言った。

こいつサラッと嘘ついた、こわ。

ちょっと口角上がったし、いい性格してんじゃん。

それでもまだおっさんは黙秘を続けるみたいだけど。

さすがに花もイラッとしたみたいだ。

「顔写真撮っていいですか?私もう1台スマホあるんで」

あ、その手があったか。

私も撮ってやろうかな〜。

次なんか誤魔化すようなこと言ったらスマホ構えてやろっと。


長っ。

まだ黙ってんのかよ、と思っているとおっさんがやっと重い口を開いた。

「すみません」

声ちっさ、さっきまでの威勢はどこいったんだよ。

おっさんはハエの羽音よりもちっさい声で一言謝ると花にスマホを渡した。

と、同時に駅に着いたようでおっさんは改札の方へ全力で逃げ出した。

「ってぇな!」

しかもあの野郎私にぶつかっていきやがった。

許さん、断固許さん。

「なぁ、あのおっさん追っかけようぜ!」

私はなぜか花の手を掴んでそう言っていた。

そして私は花と一緒に走り出した。

すごく嫌そうな顔をしていた花だったけど次に顔を見るとちょっとニヤけていた

「はあはあ、あのおっさん足はえぇ!」

ちょっと想定外だった、めっちゃおっさんの逃げ足が早い。

さすがに健康な女子高生でも男の脚力には適わなかった。

街中で見失ってしまった。

「はぁ、はぁ...

あのおっさんマジ足早すぎだろ....

意味わかんねぇ....」

あー、限界足もげそう。

花も疲れたみたいで力尽きたように膝をついている。

「はあ、はあ...

追いかける必要ありました...?」

花が話しかけてきた。

何気に花から話しかけられたのは初めてだ。

私は思ったことを正直に答えた。

「おもろいじゃん」

この時の花の『嘘でしょ、このバカギャル』って隠す気もない顔は忘れられない。

敬語で話すくせに表情だけは隠せてない。

いや、教室ではこんな顔見た事ないな。

「てかなんで敬語なの?同じクラスじゃん

タメでいいよ」

そういうと花はきょとんとしていた。

なんでだ?そりゃ話はした事ないけど...

「すみません、ちょっと名前がでてこないです」

は?嘘だろこいつ。

同じクラスだよ?なんで名前も知らないんだよ。

これでもクラスで浮いてる方なんだけど!

あー、自分で言ってて悲しくなってきた。

「嘘でしょ!?マジ!?

それネタで言ってんの?ウチら半年は同じ教室にいんだよ?」

多分こいつの頭の中だと『そういえばいたような...』とかなってんのかな。

どんだけ周りに興味無いんだよ。

でもなんかこいつおもろいし、友達にしてみようかな。

「まあいいや、あたし聖」


これが私とこいつ

"神崎 花"とのファーストコンタクトだった。

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