第5話 追憶の

 それから数日後。わたしは論文を書き終えて。意識がフラフラしていた。


 すると、浴衣姿の女性が立っていた。浴衣は紺を基調としたアサガオの淡い茜色が印象的であった。


「楓先生、また会えましたね」

「周平くんも元気そう」

「元気そうか……お迎えかと思ったよ」


……―――。


「先生!先生!」

「周平くん、先生は止めて」

「本を出版しているのだ、作家先生だよ」


 わたしの高校時代はとある田舎で過ごしていた。そこで出会ったのが楓先生だ。ただ、家が隣と言うだけで直ぐに意気投合して恋に落ちた。


「楓先生は今日の夏祭りに行くよね」

「うーん、どうしようかな、周平くんが行くなら考えようかな」


 夏祭りデートだ、この好機を逃すわけにはいかない。楓先生は高校生の時にデビューしてそれからは作家家業に勤しんでいた。まだ、若手でなかなか売れないが、立派な作家先生なのだ。


「楓先生の浴衣姿を見たいな」


 ここは押の一手だ、こんな素直で淡い恋心は抑えられない。


「はい、はい、そこまで言うなら行きましょう」


 その後、夕方になり、楓先生は浴衣に着替えていた。わたしも浴衣で揃えたかったがTシャツと短パンであった。


「先ずは出店を見てその後に花火を見ようよ」


 わたしの提案に楓先生は頷き、二人で出店に向かう。途中、二人で歩いていると自然と指先が触れ合う。


「四つも年上でいいの?」


 少し恥ずかしそうに楓先生は問うてくる。


「はい、この恋に偽りはないです」


わたしの言葉に顔が赤くなる楓先生であった。それから、薄暗くなると出店にあかりが灯る。先ずはお腹に溜まる焼きそばを買う事にした。その後、スーパーボールすくいをして楽しむ。一つもすくえなかった楓先生はしょげてしまった。


「お嬢さん、これはおまけだ」


 店主が数個のスーパーボールを袋に入れて楓先生に手渡す。いっきに笑顔になる楓先生は子供の様にはしゃいでいた。


「楓先生、もう直ぐ打ち上げ花火の時間だ、少し離れた所に絶景スポットがある。そこに行こう」

「はい、周平くん」


 わたし達は大きな道路に出ると山を目指す。


『ドン、ドン』


 ありゃー、打ち上げ花火が始まってしまった。


「ちょっと、コンビニに寄ってもいいかな?」


 急ぐ、わたしに楓先生が声をかける。


「ああ」


 楓先生は大きな道路の反対側にあるコンビニに向かう。すると、道路の真ん中で下駄に小石にでもぶつかったのか、楓先生は転んでしまう。その時である大型トラックが楓先生に突っ込む。


 それからの事はよく覚えていない。


 騒ぐ周りの言葉はわたしの記憶を奪い。


『ワ、タ、シ、ガ、コ、ロ、シ、タ』


 その後の絶望の日々にその言葉がグルグルと回っていた。

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