第2話

「……っ!」

 すぐ傍から声が聞こえて検察が振り返ると、そこには黒髪の少女が立っていた。

 陶器のような白く滑らかな肌に、大きな瞳をした少女。

 白いブラウスに、紺色の膝丈スカート。両肩に羽織ったブレザーには桜を模したデザインの校章と、弁護士バッジが光る。

「高校生?」

 検察の男は目を細めて、真後ろに立っていた少女を見る。

「あら、検察のわりに、疎いのね」

 見た目に反して大人びた口調で、少女は言った。

 そして肩の位置で揃った髪を左右に揺らしながら真っ直ぐ被告人の青年――悟の元へ向かう。

「っ……! べ、弁護士さん! 遅かったじゃないですか! 俺、もう来てくれないかと」

 悟は涙目で言った。

「ごめんなさいね。学校に裁判の事いうの忘れてて。ちゃんと提出書出さないと、欠席扱いになっちゃうからさ」

「ほんと、しっかりしてください! 俺の人生、かかっているんですからね!」

「えー、学生にとっての単位も大切なんだけど。ほら、うち、私学だし?」

「知りませんよ!」

 そんなやり取りをした後、弁護士の少女は裁判長を見上げた。

「遅れて申し訳ございません。特務弁護士・雪白 真白ゆきしろ ましろ……只今より、業務に戻ります」

 両足を交差し、淑女のように彼女――真白は頭を下げた。

 その上品な動きに、法廷の空気ががらりと変わった。


 「え? あの子が弁護士?」「女子高生だよね?」「いや、特務弁護士は12歳から受験可能だから、違法では……」「へへっ、あの足は違法したくなっちゃうけどな」


「せ、静粛に!」

 裁判長が少し慌てながら叫んだ。

「弁護士殿。確かに、学生のあなたは遅刻は許可されていますが……通常は代理の弁護士をたてるのが……」

「ごめんなさいね。間に合うつもりでいたんですけど……でも問題ありませんよ。この裁判、我らが勝利で確定ですから」

 真白がフッと笑みを浮かべながら、挑発するように検察を見た。

 案の定、検察官の目つきが鋭くなった。

「大体のお話は聞いてました。私の依頼人の悟さん。彼が超能力だから、今回の事件は彼にしか出来ない、それが検察側の言い分で合ってますか?」

「当然だ。談合に関わった会社の中で、超能力者は被告人のみ。よって……」

「それだけ、ですか?」

 キョトンとした顔で真白は言った。

「彼が疑われた理由はそれだけですか? 他に証拠とかは?」

「あ、あるわけないだろ! 超能力者ってだけで、立派な証拠だ!」

「はーあ……マジかよ」

 真白は深くため息を吐いた。

「超能力者を犯罪に利用する人は確かに存在します。ですが、超能力者だからといって必ず犯罪に手を染めるわけではなく、むしろ非能力者の犯罪率の方が高い」

 そう言って、真白は傍聴席をちらりと見た。

 身に覚えがあるのか、全員が気まずそうに視線を逸らした。

「あなたも検察なら、超能力者の冤罪率の高さは知っているでしょう? あー、これ誰のせいかな? 誰のせいで、こんなに冤罪率高いんだろー」

「ち、超能力は……立派な凶器だ。読心術による盗聴、瞬間移動による窃盗、念力による殺人。挙げればキリがない」

「まあ、否定はしませんよ。非能力者からしたら、超能力は未知の力。知らない事は怖い事。知らないものに恐れ、攻撃する、その人としての弱さを、私は否定しません。証拠もなく、超能力者ってだけで疑い、逮捕した警察を、私は責めません」

「……っ」

 検察の男が反論の言葉を失い、息を呑んだ。そのスキを見逃す、真白は続ける。

「では、前半は検察が散々彼を超能力者ってだけで責め立てただろうし……もう反撃してもいいですよね? ねえ、裁判長」

「あ、ああ……反対弁論があるなら、構わないが」

 真白の勢いに呑まれ、裁判長もたじたじになり、曖昧に頷いた。

「それでは、早速……弁護を始めます」

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