白の弁護士
シモルカー
第1話
――超能力者。
3人に1人が超能力を持って生まれるとされる現代ではそれほど珍しくはなく世界的にも認知されている。
しかしながら「異質」で「特別」である事は変わらない。
*
「――ゆえに、犯行は彼にしか不可能だ」
静かな悪意が蠢く法廷に、若い検察官の男の声が響いた。
法廷の中央に立つ、黒髪の青年がビクッと肩を震わせた。
青年の名前は、
つい先日まで証券会社で勤務していた派遣社員だったが、この事件がきっかけで解雇されている。
それが、傍聴席にいる人達が知る彼の情報。
それともう一つ――
「被告人、久能 悟。異能ID00839・・・…『テレパシスト』」
――超能力者。
その存在は世界中に認知され、詐欺だと疑う者はいない。
そして現在、超能力を使った犯罪も多く――
「他者の思考を読み取る力を悪用し、自分の建設会社が優位になるよう、入札情報を抜き取った……現に、彼の建設会社は該当会社の落札額と全く同じ数字を提出し、請負工事の権利を獲得している。これは『異能法』における盗聴であり、『読心術禁止法』に該当します」
異能法――それは超能力者専用の法律である。非能力者と超能力者では、犯した罪の内容が同じだったとしても、罪の重さが違う。
「盗聴と談合禁止法……超能力を使ったとなれば、無期懲役が妥当かと」
「なっ!?」
検察官の男の言葉に、悟だけでなく、傍聴席も騒ぎ始めた。
「え? 流石に罪、重くない?」「でも超能力者だし」「超能力者の犯罪じゃあ仕方ないよね」
そんな言葉が囁かれる中、悟は悔しそうに拳を握った。
「静粛に!」
裁判長が傍聴席に向かって叫んだ。
一瞬でシンと静まり返った法廷内で、裁判長は静かに告げる。
「超能力を悪用した犯罪は重罪! これが世間の常識! よって被告人を……」
「待ってください! 俺は無実です!」
「黙れっ!」
悟が発現した瞬間、検察官の男が叫んだ。その目には暗い敵意が宿っており、まるで親の仇でも見るような目つきだった。悟だけでなく傍聴席にいる人達も思わず息を呑んだ。
「それはそうと……あなたの弁護士はどこですか?」
「えっ……」
「ずっと気になっていたんですよ。なぜ、裁判が始まっても、あなたはたった一人で、弁護士がいないのかと」
「それは……」
検察官の男の言う通り、悟はずっと一人であり、弁護士の席は空席だった。なぜか書類と荷物だけはあるが。
「あぁ、そうか……引き受けてくれる人がいなかったんですね。無理もない。超能力者が起こした事件の弁護なんて……引き受ける人なんて……」
「さっきから、いますけど」
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