4話 驚愕

「殺す気か!?」


「神様なんだろ?あの程度じゃ死なないって」


「貴様、もしや神の子が神そのものであると勘違いしているな!?ならば訂正しておいてやろう、私は神に近い存在だがまだ神ではない!あくまで神の子だ!寿命やら魔力やらはお前達小さき人々とは一線を画すが、まだ剣に選ばれてはおらんのだ!」


 壁をぶち抜くことには成功したが、やはりそう簡単に事は運ばなかった。壁を壊した瞬間、まるで時を巻き戻すかのように壁が再生し始めたのだ。


 セレニアをこっち側に引っこ抜くことは間に合わず、どうにかセレニアを押し出して壁の向こう側に退避させるくらいしか手は無かった。


 まあ、壁からは脱出させてやったのだから依頼は成功だろう、うん。


 現在は壁越しにギャーギャー騒ぐセレニアをいなしつつ、どうにか合流しようと進んでいる状況だ。ちなみに宝箱の中は想像通り空だった。彼女は随分落ち込んでいる様子だったが、この迷宮にそんなものを期待する方が悪い。


「剣に選ばれる、ねぇ。俺にゃ想像もできねぇ話だな」


「なに?お前も目指しているのではないのか、ライクよ。あの一撃、神々に比べれば遠く及ばぬが、小さき人々の中ではなかなかによい拳であったぞ。そこまでして鍛えるということは、剣に選ばれるのを望んでいるのではないのか?」


「そんなでかい夢なんて持ってないさ。俺はいろんなものを見るために……このラクシア中を旅するために、剣を鍛えているのさ」


「旅だと?」


「ああ。俺の剣の師匠がヴァングランツでな。その生き様に憧れて、俺もなりたいと思うようになったのさ」


 性根は最悪だが、生き方はかっこいい人だった。その日を気ままに生き、いろんな国を旅して、美しい景色に見惚れる。


 沢山の人々、幾つもの国々、地平まで広がる空!


 それらを見比べながらこの広い世界を歩くのは、一体どれほど楽しいのだろう。


「そのためには、力が必要だって師匠に言われてな。とりあえずの目標はドラゴンだ!あれを倒せれば、旅に出るくらいの力は身に付くだろうよ」


「ほう。最終的な目的は同じなのだな」


「うん?どういう──っと、ようやくあんたの顔が見れそうだな」


 道の先に、光が見える。


 おそらくは燭台の光だ。こういうあからさまな場所には、えてして迷宮の主とも言える強大な魔物や、豪華絢爛な宝箱、もしくはその両方が置かれていたりするものだが、多分今回は前者だけだろう。


「おお、広い場所に出るな。さて、我が見る初めての小さき人々の顔は、どのような面なのか。拝ませてもらおうじゃないか、ライクよ」


 ほぼ同時に、俺とセレニアはその広場へと足を踏み入れた。


 思ったよりも広い部屋だ。円状に広がった空間で、まるで闘技場のように各通路に繋がるであろう出入り口がある。


 そして俺が最も待ち望んだものも、そこにはあった。


「出口だ!」


 疲弊した体に熱が入る。ようやく、この迷宮から脱出することができる。その事実に、俺は思わず駆け出しそうになり。


「おいこら、待て。私との約束を破るとは無礼だぞ」


「っと、すまん。あまりにも嬉しかったんで、ついな」


 駆け出そうとする足を押さえて、一瞬忘れかけていた少女の方に向き直り。



「────」


 息を飲んだ。



「ほう。ナイトメア、とやらは角が生えているんだな。穢れを蓄積しているのか?なかなかに興味深いな」


 別に美しさに息を呑んだ、とかではない。彼女と同じくらい美しいエルフと、俺は既に出会っている。


 驚いたのは、あまりにも似ていたからだ。


「……シーラ?」


「なに?」


 俺の初めての仲間、シーラ。


 美しく輝く星空のように青い髪と、虹色の瞳。顔立ちも幼くはあるがよく似ていて、彼女の容姿を幼くしたような。


 そんな、表情以外はあまりにも彼女とよく似ていたセレニアに、俺は思わず彼女の名前を口に出してしまったのだ。


「何故お前が、奴の名を知っている」


 そして驚くことはもう一つあった。彼女もまた、シーラのことを知っている様子だったのだ。


「……あー、待て。とりあえず、情報の擦り合わせをしようぜ。そもそも、何でお前がここにいるかも碌に知らない」


「我もだがな。お前が何故このような場所に、それも碌や装備も持たずにいるのか不思議であった」


 お互いに、知るべきことは多いらしい。


「……それじゃあまあ、俺から話そう。何故俺がこんな迷宮に放り込まれるとこになったのか。何故、罪人になったのかを」


 彼女の謎を知るべく、俺は迷宮刑を受けることになった原因を。あの野郎がした仕打ちを、忌々しくも語ることにした。


 俺を裏切り、シーラを裏切ったあいつのことを。

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