第7話 機関軍事部

 国際異星間交流管轄機関、烏丸支部は京都駅からほど近い北側の区域に存在する。

 烏丸通そのものが市内を南北に貫く通り名なのだ。

 瓦屋根に赤い壁、周辺の建物と比較しても一段と高い。広い敷地内には、軍事部の訓練用施設などがある。


 徹は九繰の案内で機関内部へ通してもらえた。

「俺の苦無のせいで、義足を壊してしまって悪かったな……」

 九繰は前を歩きながら、徹に謝った。どうやらあの一件を、ずっと気にしていたようだった。


「そんな、あれは事故だし、怪我にならなかったから運が良かったんだよ。それより俺を兄さんところまで運んでくれただろ?」

「ああ。新聞配達しているお前のことを知っている人が現場にいて、その行動範囲と照らし合わせ、聞き込みをしたんだ。義足の少年なんて珍しいからな」


 徹は九繰の苦無で、降って来る金属から一度助けられている。

 確かに義足が壊れたことは事実だが、それで九繰を恨むことなど考えもしなかった。


 案内された軍事部のうちの一室へと徹は通された。内部は洋風の造りになっており、執務を行えるよう木製の机や椅子、書類などが積まれた棚が置かれていた。

 九繰はその部屋にいた上司に一礼すると、すっと下がって行った。


「機関への所属希望を出しているのは、お前か?」

 軍事部の一人であり、九繰の上司である豊岡千代は、机の上に肘を置いて指を組み、鋭く尋ねた。あの日、西洋料理店の前で宇宙人を追い詰めたその人であった。その眼光に威圧感を感じながらも、徹ははっきりと返答した。


「はい! 貫井徹といいます」

「我が組織に無能はいらない。必要なのはただ一つ。仕事を遂行する力だ」

 その迫力に気圧されそうになりながらも、徹は考える。今の自分にそこまでの力はあるだろうか。それでも、徹も九繰のように町の人を守りたいのだ。


 千代は一枚の書類を徹に提示した。

「この間の騒ぎを起こした宇宙人、ラスパーは現在も逃亡している。おそらく市内に潜伏しているものと思われる。我々も見回りを強化しているが、市民に紛れてまだ見付けられていない」


「つまりその男を捕らえてくればいいわけですね」

 徹は書類を手に取り、尋ねた。千代は頷く。

「ああ。捕らえるもしくは、こちらの役に立つ手柄を立てれば一員として認めよう」

 徹は勢いよく返答した。

「わかりました!」



「といっても、この町から潜伏しているやつを見付けるのは至難の業だよなあ」

 翌朝、町に出た徹は、人通りの多い道を眺めながら唸った。

「あちこちに違法の料理店を作っていたみたいだな……」

 出現地は主に京都市内だが、店の名前はそれぞれ異なるという。


「九繰とか諜報活動も得意そうだなあ。見た目が忍者だし」

 だが今回の任務は徹自身でやり遂げなければならない。

「俺の仕事を遂行する力、強み……となると……」

 早速徹は動き出した。


「ウィザックの目撃情報?」

 仕事の合間に休憩をしていた幹太に尋ねる。

「うん、知ってる情報を教えてほしいんだ」

 徹はまだ機関の人間ではない。逆にいえば、警戒される可能性も低くなるため情報を集めやすくなるということだ。


 新聞配りで培った情報網は思っていたよりずっと役に立った。

 幹太を始め、あらゆる身分──知識人階級から商売人、機械技師関連の職人、身よりのない者など幅広い目撃情報を片っ端から集めた。

 身体的特徴の情報だけでなく、馴染みのない者からの食材の仕入れ先や、最近入れ替わりのあった店など、手掛かりになりそうな点は無数にある。


 その中からついに点と点が線で繋がり、接触出来る可能性が浮上した。

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