第3話 危険な展開
朝読書の時間は終わり、ホームルームも終了した。ふと教卓の上にある時計を見る。一時間目の始まりまで、まだ十分ほど時間があった。
周りの子たちがお喋りをしている。そのせいで教室の中はとても騒がしかった。自分の席を離れて、友達の所へ行っている子もいる。
僕はその様子を横目に、一時間目の用意を始めた。ふと前を見ると、藤原先生が川原純也の席へ近づいている。
「川原君。ちょっとお話がある。先生に付いてきて」
僕は川原純也の席から近いため、藤原先生の声がここまで聞こえてきた。川原純也が、ゆっくりと椅子から立ち上がる。
すると藤原先生は、そのまま教室の後方へと向かい始めた。その後ろを、川原純也が怪訝そうな顔で付いていく。今度は吉原琢磨と倉田祐飛の席へ向かっているようだ。
「吉原君と倉田君。ちょっと話があるけん付いてきて」
僕の予想通り、今度は吉原琢磨と倉田祐飛に声を掛けた。二人とも戸惑った様子で椅子から立ち上がる。何故自分達が呼び出されたのか、全く理解できていないようだ。
藤原先生が三人を引き連れて、後ろの扉から教室を出た。そしてそのまま、美術室の方へと向かい始める。三人の歩いていく姿を、僕は呆然と眺めた。
歩いていく三人を呆然と眺めていると、僕は大変なことに気が付いた。西松さんが先程の様子を見ていたかもしない。焦りを覚えた僕は、慌てて西松さんの方を見た。
だが西松さんは、隣の女子と楽しそうに会話をしていた。先程三人が出て行ったことに、全く気が付いていない様子だ。周りの子たちもお喋りをしているため、ある意味騒がしさが助けになったのかもしれない。
だがそれでも、僕は気を抜くことはできなかった。藤原先生と三人が帰ってきた時に、今度こそバレる可能性があるからだ。僕は彼らが帰ってくるまで、周囲の騒がしさが続くことを祈った。
*
授業開始の二分前になった。既に英語の先生が教室に来ている。それでも周りの子たちは、変わらずお喋りを続けていた。
するとその時、藤原先生が三人を連れて教室に戻ってきた。三人とも浮かない顔をしている。僕はその様子を見て、自分達のしたことに反省したのだろうかと思った。
三人が椅子を引いて、そのまま腰を下ろす。西松さんの方を見ると、相変わらず気が付いていない様子だった。そのことに安堵して、僕は思わずため息が出た。
だが同時に、西松さんにバレるのも時間の問題だと思った。先生が西松さんにだけ、話を聞かないというのは考えられないからだ。
そろそろ西松さんも、呼び出しを受けることになるだろう。そのことを考えると僕は気が休まらなかった。
「もう少しで授業が始まるぞ。席に着いて準備をしなさい」
藤原先生が腕時計を見ながら皆に言う。皆がお喋りを止め、教室が静まり返った。友達の所に行っていた子は、速やかに自分の席へ戻っている。
藤原先生が、英語の先生に会釈して教室を出た。するとちょうど、チャイムが鳴って一時間目が始まった。
僕はいつも通り、用意しておいた教科書を開いた。そして予習ノートも開き、訳を再確認していった。
*
全ての授業が終わり、いつも通り家に帰ってきた。外は既に薄暗くなっている。街灯が順番に点灯しているのが、自分の部屋の窓から見えた。
僕はその様子を見ながら、いつも通りの場所に荷物を置いた。するとちょうど、ポケットに入れておいたスマートフォンが鳴った。
通知音を全て分けているため、すぐに分かる。これは誰かからメールが来たときの音だ。
ポケットからスマートフォンを出し、パスワードを入力する。そしてそのまま、掛かっていたロックを解除した。画面に表示されている差出人を見て、僕は心臓が飛び出しそうになった。
――なんで川原純也のこと、先生に言ったん? 誰にも言わんって約束したよね? 放課後、藤原先生に私まで呼び出されたよ!
差出人は西松さんだった。かなり怒っている。僕は慌てて本文を入力していった。
――ごめん西松さん。僕が悪かった。でも黙っとくことができんかったんよ。本当にごめん。
僕は文章の内容を確かめて、送信ボタンを押した。体の力が一気に抜ける。立っていることができなくなり、そのままベッドに倒れ込んだ。
予想していたことが現実になった。西松さんからの返信が怖い。布団に顔を
すると再び、通知音が鳴った。恐る恐るロック画面を解除する。西松さんから、二件のメッセージが届いていた。
――別にしんたろーのことを責めとるわけやないよ。
――それより、学年主任の増田が川原達に言ったらしい。しんたろーから話を聞いたって。もちろん私が、しんたろーに話したこともバレてしまった……。明日からどうしよう。
僕は二件目のメッセージを見て、思わず息を飲んだ。学年主任の
これは深刻な事態になってきた。下手をすれば仕返しされるかもしれない。僕は混乱の余り、スマートフォンから目を離した。
こうしてはいられない。僕は深呼吸をして、ベッドから起き上がった。落ち着きを取り戻し、文章を入力していく。
――とりあえず、
最後に確認してから送信ボタンを押す。そして画面を下にした状態で、スマートフォンをベッドの上に置いた。
どうにかならないだろうか? 僕は薄暗い部屋で考えを巡らせた。だがバレてしまった以上、良いアイデアが全然思い浮かばない。
ため息をついて、部屋の電気を点ける。西松さんと話をすれば、何かいい案が出るかもしれない。とにかく明日の課題を終わらせようと、僕はカバンの中をまさぐった。
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