第79話 She couldn't hide her envy of me
「ひひっあはははっ!アレシアってばやりすぎだよ!もう原型留めてないってぇ!」
「ふふん♪まだまだだよぉ?お姉ちゃん!パパなんてこうしてこうやって…こうするんだから!」
「ぷふっ…!ぶふふっ…!!アレシアちゃん絵の才能ありすぎ…!」
抱腹絶倒、拍手喝采。
私達の笑い声が部屋中に響き渡る中、悪戯っ子なアレシアの指は私のお父さんをおもしろおかしな姿へと変えていく。
一体どれだけ案があるのか、ここ数十分間、絶え間なくお父さんの顔がラクガキにより姿を変え、私達を笑いの渦へと飲み込む。
今までの言動から察するけど…アレシアって相当お父さんのこと嫌いなのかな?
「ふふふ…どう?お姉ちゃん?スカッとするでしょ?」
「ぶふっ!や、やめて!これ以上笑かさないでっ!腹筋痛い!あははははっ!」
いや、ほんとにこれ以上はやばい。
だって腹筋に力入りすぎてすごい痛いんだもん。
アレシアも分かっててやってるから余計にタチが悪いよねこれ!?
「で、でも…うん、すごいスカッとした!」
「でしょっ!」
既にお父さんに対しての怒りはなかった。
さっきまでの気まずい雰囲気は一体どこにいってしまったのか?アレシアの振る舞いに私の荒んでいた気持ちはどこかに消えた。
アレシアの明るいところを見るに、私達って姉妹なんだなって思わせる。
そう思いながら、私達二人は屈託のない笑みを浮かべて親指を立て合う。
そんな私達の間に春乃ちゃんがうんうんと大袈裟に頷きながら割って入ってきた。
「うんうん…!二人とも仲良くなれて何よりだねぇ」
「確かに、ほんとに全部おねーさんのおかげ。そこのとこはありがと…」
「わ…みてみて柴辻ちゃん!アレシアちゃん照れながらお礼言ってる!しかもちょっと恥ずかし気だよ?めちゃ可愛いかよッ!!」
「春乃ちゃんやば…いやでもアレシアってそんな顔するんだ、照れ顔カワイイね…」
「ふ、二人してカワイイって言わないで!」
指をもじもじしながら、恥ずかしそうにお礼をするアレシアは春乃ちゃんの言う通りベリーキュート。
いやね?そもそも年下の金髪女の子が可愛くない訳ないんだよ!考えてみればそうだよね!?
…って、私も思わず春乃ちゃんみたいにテンション上がりかけちゃったよ、恥ずかしい恥ずかしい。
しかし、私達二人にカワイイって言われて恥ずかしさのあまりに地団駄踏んでるアレシアかわよい…。
「〜〜っ!もう、からかうならもうおねーさんには口聞かないから!」
「あ〜!それはだめだよぉ!絶対だめ!てかなんで私だけなの!?柴辻ちゃんだって同罪じゃない!?」
「私!?」
「お姉ちゃんはいいの!おねーさんは別!」
突然の指名に驚くものの、すぐにアレシアが否定してくれて安心する。
同時に自分だけはぶかれたことにショックを受ける春乃ちゃんを見て、私は思わず吹いてしまった。
だってまるで世界の終わりかのような顔をしているのだ、吹き出してしまうのも無理もないと思う。
でも、よくよく考えれば私とアレシアがこの短時間の間に仲良くなれたのも春乃ちゃんのおかげだ。
もし麗奈がいれば修羅場間違いなしの大乱闘が始まりかねなかったけど、春乃ちゃんとアレシアが出会ったのもなにかの縁なのかもしれない。
ここは春乃ちゃんの味方をしてあげよう。
私としても、アレシアに仲のいい友達が出来るのは嬉しいし、それに私はアレシアだけのお姉ちゃんにはなれない。だから。
「まあまあ、そう言わないでよアレシア」
「む…まぁお姉ちゃんが言うなら許すけど」
「…むしろ、アレシアは春乃ちゃんになにかお礼をするべきじゃあないかな!」
「お、お礼?」
「そう!私達がこうして会えてるのも全部春乃ちゃんのおかげだしね!春乃ちゃんを無碍にするのは可哀想だよ」
私がそう言うと、アレシア自身も覚えがあるのかばつが悪そうに顔をしかめると、こくりと頷く。
そしてアレシアは春乃ちゃんの手に優しく触れた。
「ご、ごめんね」
「! そんな謝らなくてもいいよ!むしろ私は二人にとっては部外者なんだし!」
「…私ってあまり仲良い人いないから警戒してたけど、そのおねーさんなら安心できるから、その…」
アレシアの声が少し高くなっている。
ほのかに頬が赤くなって、ぽつりぽつりと言葉を吐く。
それは隠していたアレシアの本音だった。
「おねーさんのこと、春乃おねえちゃんって呼んでいい?」
「春乃、おねえちゃん…」
春乃ちゃんが復唱してる、目がまんまると開いていて今起きている事実にフリーズしているようだ。
対してアレシアは恥ずかしそうに春乃ちゃんを見ていて、第三者である私はこの歯がゆい展開に心臓が痒くなってまいりました!
なにこれ!なんか甘酸っぱい!!
「私のことおねえちゃんって呼んでくれるんだ」
「ま、まぁ…信頼できるし、安心できるから…その、だめ?」
「ぜ、ぜんぜんダメじゃない!むしろ呼んで!絶対呼んでほしい!」
「なんなら柴辻ちゃんに負けないくらい良いお姉ちゃんになるね!約束するから!」
「わ、私のお姉ちゃんはお姉ちゃんだけなんだけど!?って、ちょっと急に抱きつかないでってばぁ!?」
春乃ちゃんの熱い抱擁がアレシアを包み込んでる。
心の底から嬉しそうにしている春乃ちゃんは、アレシアの静止に聞く耳を持たずにぎゅーっと抱きしめていた。
アレシアと春乃ちゃん…これはもしかしてだけど、良い雰囲気になっちゃったりしてね?
ふふっ、私も麗奈っていう好き好き大好きな女の子がいるからねー♪こういうのには少し敏感になっちゃうんだよねー♪
ふんふーん♪と目の前の光景に鼻歌を鳴らしてゴキゲンな私。
だけどこれから2秒後…私の携帯に不穏が訪れた。
『Prrrrrrrrrrrrr!』
「わっ、びっくりした」
不意を突いたのは私の携帯。
突然鳴り響いた着信音に私の心臓はバクバクと着信音に負けないくらい音を出している。
なんで急に鳴る携帯はこんなにも心臓に悪いのだろうか、こういうとこを改善すればいいのに…。
なんて思いながらスマホを手に取ると、画面には大好きな名前が書いていた。
「あ、麗奈からだ!」
「……麗奈?」
一瞬アレシアが怖そうな顔をしたけど無視しよう。
それはさておき、許嫁からの電話に私は犬みたいに目を輝かせると、すぐに電話に出た。
「もしもし麗奈?どうしたの!」
『あ、もしもし?結稀さんですか?突然のお電話申し訳ございません…今大丈夫ですか?』
「今?ぜんぜん大丈夫だよ!」
「グルル…麗奈ぁ!」
「アレシアちゃん!ステイ!ステイだよ!」
「あはは…ぜ、ぜんぜん…だいじょうぶダヨ」
うーん…前言撤回、大丈夫じゃなさそうになってきたぞ?アレシアが狂犬みたいになりだしたし…。
『ん?今なにか声が聞こえたような…』
「い、いや?そんなわけないと思うよ?」
ま、まずい!ここでアレシアがすぐ近くにいるってバレたら麗奈が暴れかねないよ!
咄嗟に嘘をつくと、私は立ち上がってアレシアの声が聞こえない距離まで移動する。
これで一安心だ、と息を吐きながら私は弾む心のままに麗奈に話しかけた。
「ところでどうしたの?あ♪麗奈ってば寂しくなって私に電話しにきたんでしょ〜♪」
『さ、寂しいは余計です!まぁその通りですけども!』
「正直じゃんか♪麗奈ってば可愛いなぁ♡」
『そ、そうなんです!あとで頭撫でてくださいね?』
「うんうん♪後で麗奈も頭を撫でてあげるからね♪」
んぎゃぁ〜〜っ!!私の許嫁が超絶可愛くて困りゅ!!
なんでだろ、ずっと会ったばかりなのにここ最近は話してなかったような寂しさがあったせいか、麗奈の声を聞くといつも以上に私がキモくてなっていく。
でも仕方ないよねぇ!?だって麗奈ってめちゃ可愛いんだもん!
なので麗奈にあったらもみくちゃになるまで頭を撫でてあげよう!そうしよう!!
…てか、アレシア揃って麗奈も頭を撫でてほしがるとは。
ハッ!?もしかして私…頭を撫でる天才なのではなかろうかっ!?
っていやいや…どんな才能だよ!
『……ねえ、結稀さん♪』
「ん?なぁに麗奈ぁ♡」
『麗奈"も"というのは…どういうことでしょうか♪』
「………………………………………」
すーーーーーーー……。
甘々気分から冷や汗ダラダラの地獄に変わった。
あ、余計なこと言ってた。
麗奈って凄く勘がいいし、なにより私よりもスペックがいいから…!
『それに先程、うっすらとですが…』
『アレシアさんの声がしましたよね♪』
「あ、あの…」
『今、どういった状態ですか♪』
「れ、麗奈…さん」
ぜ、ぜんぶ気付いてるーーーーーーー!!!
ご機嫌な口調だけどすっごいキレてる!どうしよう!?浮気してないのに浮気現場見られてるみたいになってるよぉ!!
『ねぇ結稀さん?急にどうしたんですか?』
「いやあのそのえと、これはですね…」
『………………結稀さん♡』
「は、はいっ!」
『廊下に出てください♪』
「へ?な、なんで?」
『早く出てください♪』
ゴゴゴゴゴゴと電話上なのに圧がすごい。
よく分からないまま私は麗奈の言う通りに廊下に出た。
一体どんな意図があってそんなことを言い出したんだろうか、廊下に出ても広がっているのは相変わらずの景色だけで、何も変わってない。
「…?」
『結稀さん、そのままでいてくださいね♡』
でも。
何も変わってないのは、あくまでの私の視線の中だけの話だ。
麗奈の声に気を取られて、周囲に気付かずに…次の瞬間私の手に小さくて白い手が掴んでいた。
そして、それはさながら蜘蛛の巣に捕まった蝶みたいに…その手は私の身体に巻きついた!
「へっ!?な、なになになにっ!?」
『はい♡』
「つ か ま え た ♡」
「んにゃっ♡」
鼓膜を揺らす甘い声。
なんども聞いた湿っぽい囁きは、一瞬で私の腰を砕き骨抜きにする。
ついでにその声の主は私の耳をちゅるりと舐めると、その子は私に姿を現した。
「ゆ う き さーん♡」
「れ、れれれれ…!!麗奈っ!?」
「私以外の女の頭を撫でた結稀さん♡私に内緒で嫌いな女と会ってた結稀さん♡その嫌いな女と仲良さげにしてた結稀さん♡」
「あなたの飼い主で恋人でご主人様で未来の妻で婚約者な私が…来ましたよー♪」
首に巻いたチョーカーを引っ張って、闇深そうな麗奈の瞳はグルグルと渦巻くように私を映している…。
あれ?これ…もしかして一部始終ぜんぶ聞いてた感じ?
てことは…ずっと、ずーーっと麗奈は。
「はい♪ずっと聞いてました♪ 結稀さん達が楽しそうなところを♪」
「…わ、わーーい、言えばよかったのにー」
「そうすると喧嘩になりかねないじゃないですか♪それに私は誓いましたからね… 結稀さんの力になりたいと…」
「でも、あれはあれ…これはこれ」
「私以外の女と出会うなんて… 結稀さんは私の物である自覚はありますか♪」
あー、これやばーい。
過去一番に…。
「とりあえずはアレシアさんにお礼をしなければいけませんね…そのあとに」
「じっくりねっとりと…♡」
「その身体と心が誰のものなのか…教え込んであげます♪」
嫉妬してる…。
「ひゃ、ひゃい…」
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