第71話 金色妹と可愛がりお姉さん


「全校集会の時から見てたけど…アレシアちゃんったらすっごく可愛い!」

「んにゅっ!?な、なにっ?なんなのお姉さん!?」


 ふわりと桜のような匂いが鼻を掠める。

 柔らかい感触が突然に顔全体を包み込むと、私は浮上するように顔を上げて抱きついて来たお姉さんを見る。

 乙木春乃…お姉ちゃんと同じ部屋で、お姉ちゃんの友達。

 私のことをお姉ちゃんから聞いていたみたいで、私のことを知っている変な人。


「柴辻ちゃんとおんなじ綺麗な金髪!それに幼くて可愛いの反則だよ〜!」

「わっ、ちょっ!?犬みたいに…わしゃわしゃってするのやめ…!」


 そんな変な人に、私は今髪をわしゃわしゃと犬のように可愛がられてる…。

 本当になんなのこの人!?と混乱していると、春乃お姉さんはその手をパッと止める。

 お姉さんは満足しきった表情で私を見ていた。


「アレシアちゃんったらすごく可愛い、柴辻ちゃんから聞いてた通りだね〜」

「きゅ、急になに…?私お姉さんのこと全然知らないんだけど…お姉ちゃんと友達なワケ?」

「あ〜そんな怖い顔しなくてもいいのに〜!可愛さのあまりにやりすぎちゃったのは謝るから!」


 ごめんね?と両手を合わせて謝られても私の不信感は既にマックス。

 なにこの人、本当になんなの?私とお姉さんは初対面なのに向こうだけが知ってるからって馴れ馴れしいにも程がある。

 だけど、お姉ちゃんと友達って言われると流石に気になってしまうもので…。


「…うん、とりあえず許すから顔を上げて」


 募る不信感を我慢して私は肩の力を落とすと、謝るお姉さんを相手に溜息混じりにそう言う。

 するとケロリとした表情でお姉さんは顔を上げると、反省してない様子で「許してくれるの?ありがとう!」と、ほんわかした笑顔でそんな事を言い始める。


 許すんじゃなかった……。


「…あの、お姉さんはお姉ちゃんの友達であってるの?」


 気を取り直して、私は疑問を思うままに投げつける。

 本当に友達なら、このお姉さんからお姉ちゃんのことをなるべく知っておきたい…!

 それに、あの厄介者の麗奈のことも色々知っておかないと!


「柴辻ちゃんとは同じ部屋だしね〜…いろんな話を聞いてるよ?アレシアちゃんと柴辻ちゃんは腹違いの姉妹なんだよね?」

「そう!私とお姉ちゃんは姉妹なの!お姉ちゃんもそのことを言ってたんだ!」


 私のこと避けてた感じだったから、私のことを話してくれて嬉しい!

 でも、そんな気分を悟られたくない私はぴょんぴょこ跳ねたい気分を抑えていると、クスクスと笑い声が聞こえてきた。


「ふふっ♪柴辻ちゃんに意識されてて嬉しいんだ♪すごく可愛い妹だねアレシアちゃん」

「なっ!?べ、別に嬉しくないけど!」

「いやいやぁ?バレバレだよアレシアちゃん♪本当に柴辻ちゃんの為に日本まで来たんだね〜」


 偉い偉い♡と柔らかい手がまた私の頭を撫でてくる。

 またぽわぽわとあたたかい気分に包まれながらも、今度は懐柔されまいと私は意識を尖らせると頭に乗っけられた手を取ってぽーいと投げ捨てた。


「あらあら…警戒されてる」

「そりゃそうでしょっ!ずっと私のこと可愛い可愛いって、大体私はお姉ちゃんしか心を許さないって決めてるの!」

「え〜?そこまで言わなくてもいいと思うけどなぁ…あ、そうだ!柴辻ちゃんの色んなこと知りたくない?私なら柴辻ちゃんの生活を見て来たからいろんなことを教えられるよ?」

「…え?」


 その言葉に心が揺れちゃう。

 お姉ちゃんの事、そんなの是が非でも知りたいに決まってる!

 警戒を思わず解いてしまうほど、喉から手が出るほど欲しいその情報に釣られそうになると、お姉さんは意地悪な笑みを浮かべて私を見下していた。


「柴辻ちゃんの好きなものとか、嫌いなもの…私なーんでも知ってるからアレシアちゃんの力になれるよぉ?」

「ぐぬっ、怪しいけど…それでも聞きたいっ!」

「ふふっ♪単純で可愛いねぇアレシアちゃんは……あ、それより気になってたのだけど」

「?」


 脈絡もなくお姉さんは何かを思い出す。

 すると、疑問を浮かべた表情でお姉さんは言った。


「アレシアちゃん、さっきすごく困ってたみたいだけど…あれはどうしたの?」

「…それ、今更すぎない?」

「今更じゃないよ〜!アレシアちゃんが可愛くて忘れてただけ!そもそもあんな困った表情でぶつかられたら気にならない訳ないでしょう?」


 だからほら、まずはその事から言ってみて!とお姉さんに迫られる私は言葉に悩んでいた。

 だって、私さっきまであの麗奈って邪魔者をどうしたらいいのか考えてたワケで…そんな悩みを言ったら、お姉さん経由から麗奈にバレて報復とかされかねない!


 だから、私は口を噤んで首を横に振った。


「言わない、別にお姉さんはカンケーないもの」


 黙秘権を行使する…そんな感じで私は黙り込む。

 だけど、お姉さんはそんな私を見て、なぜか笑顔のまま私を見ていた…そして。


「柴辻ちゃんは後ろから抱きつくと可愛い声を出すよ♪」

「へ?」

「あと驚いた時に「へ?」って声を出すの姉妹共に似ててすごく可愛いね♪」

「いや、急になにを…」

「え?柴辻ちゃんのことを聞きたいんだよね?今のは体験版として言ってみたんだけど…嫌だった?」

「べ、別に嫌じゃないケド…」


 むしろ良い情報を聞けて嬉しいのだけど!

 お姉ちゃん後ろから抱きつくの弱いんだ!

 …でも、突然そんな事を言い出したってことは、もしかしてだけどこのお姉さん…。


「お姉ちゃんの情報で…私のこと釣ろうとしてる?」

「あれ?バレちゃった?やっぱり一本釣りってわけにはいかないよね」

「一本釣りって…私魚じゃないんだけど!」

「でもそれくらいチョロそうだったから」

「むかっ!」


 なにを笑顔で言ってるのこのお姉さんは!

 やけに馴れ馴れしいし、本当になんなのこの人は!

 怒りマックスに達しそうな私は揶揄うお姉さんから逃げようか考える、けどそれを決行するよりも先にお姉さんが声を上げた。


「天城さんのことで悩んでたんしょう?」

「天城…って麗奈のこと?」

「そうそう、天城麗奈さん!柴辻ちゃんの婚約者だね」

「…ッ!」

「婚約者に反応した瞬間すごい怖い顔になっちゃった……もしかしてさっき喧嘩したの?」

「喧嘩って…べつにしてないけど、ただ」

「ただ?」

「喧嘩を売ってきた…」


 お姉さんに言い当てられて、尚且つ嫌な現実を言われて目の前が見えなくなる。

 やっぱりあの女…お姉ちゃんの婚約者なんだ。

 なんであんな品のない女がお姉ちゃんの婚約者なの?意味がわからない…!

 それに、お姉さんからさっきまでの出来事をそのまま言い当てられてしまった私は…観念してさっきまでのことをポロッと溢してしまう。


「あらまあ」


 お姉さんの驚いた声が聞こえる。

 そしてすぐに、お姉さんから質問が返ってきた。


「天城さんのこと嫌い?」

「そんなの…当たり前よ、あんなのお姉ちゃんに相応しくない!だからなんとかしてお姉ちゃんから引き離さないといけないの!」

「あらら…天城さんってばすごく嫌われてる」

「ちなみに、どうやって引き離す予定なの?」

「それは……」

「未定なのね…」


 あらま…と苦笑混じりに返答が返ってきて恥ずかしい。

 だって仕方ないでしょ…私なんにも知らないもの。

 初めて来たこの日本の地で、私は何をしたらいいのかサッパリ分からない。

 日本語は幼い頃から勉強してたから誰よりも上手い自信はあるけど…結局私はそれくらちしか詳しくない。

 だから、勝負を叩きつけた反面どうしたらいいのか分からなかった…。


 そんな時だった。


「じゃあアレシアちゃん、私が協力してあげよっか?」

「へ?」


 お姉さんが私の顔を覗き込んで、そんなことを言い出す。

 怪しい…すごく怪しい。

 だけど、柔らかく笑うお姉さんの姿は思わず安心感を感じずにはいられなくて…私は警戒を忘れて呆けてしまう。


「私なら柴辻ちゃんのこと知ってるし、天城さんのことも知ってる…」

「それにアレシアちゃん可愛いもの♡頑張る女の子には応援してあげたいからね♪」

「…ほ、ほんと?」

「うん、ほんと♪」


 どうしよう、お姉さん怪しいのに…優しいからつい気を許しちゃう。

 付け込まれる…!日本に来た時に食べたソースカツみたいに優しさに漬け込まれる!

 こういうの、気を許しちゃだめなのに…!

 で、でもお姉さんからお姉ちゃんのこと聞けるし、それにお姉さんはお姉ちゃんの友達なんだから……いいよね?


「…じゃあ、手伝ってよお姉さん」

「私、どうしてもあの女に勝ちたいから…だからいろいろ教えて」

「〜!うん、わかったよアレシアちゃん!私に任せてね?」


 ぱあっと太陽みたいに明るくなったお姉さんに抱きつかれて、私はお姉さんの胸に溺れそうになる。

 こうして、私は現地で協力者を得たのだった…。

 そして、ここから私の天城麗奈との戦いが始まるのだった…!



久々に書いたのでキャラの雰囲気が掴めなくてすみません。

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