第67話 バカップル
静寂が世界を支配してる。
クラスメイト達はぽかーんと、目を点にして私と麗奈二人を見つめていた。
それもそうだ…だって私と麗奈はキスをしたんだから。
みんなが見てる中でディープキスをしたんだから、みんなに注目されるのは当たり前。
でも、でもでもでも!なんで突然…!しかもみんなが見てる前でキスするのさ麗奈ぁっ!!
「そんな目で見ないでください結稀さん、突然キスをした事は謝ります…ですが」
ニッコリとあどけない笑顔でそう言うと、視線をクラスメイト達の方へと戻す。
そして、可愛らしい笑顔から一転…鋭い顔つきになった麗奈は棘のある声で告げた。
「結稀さんは私のモノです、私の許可なく触れるのはやめてください」
麗奈の白い手が私の腰に当たってる。
そのまま麗奈の身体の方へと寄せられると、腰に当てた手がきゅっと強くなった。
麗奈の瞳が私に注目して、強張った顔が一気に緩んでく…。
瞳の奥がキラキラと輝いていて、それはまるで宝物を大切に扱うみたいに愛情で満ち溢れていた。
「私、考えたんです」
「へっ?」
「もう二度と、あの様な出来事を起こさない為にはどうしたらいいのかを…」
ふふっと優しく微笑むと、麗奈は顔を近付けて首筋にチュっとキスをする。
リップ音が弾けて、私は目を点にしながら麗奈を見つめていると続けて言った。
「見せつけてしまえばいい♡そうすれば誰もあなたを奪ろうとなんて考えない♡別に隠してる訳ではないのですから、この場でキスするくらい何も問題ありませんよね?」
「にゃ、にゃにゃ…!」
にゃに言ってるんだこのお嬢様はぁ〜!?
た、確かに私達の関係って隠してる訳じゃないけど、みんながいる前でキスする必要ないじゃんかあっ!!
で、でもそれだけ私を独占したいって気持ちを感じですごく嬉しいとこあるけど……。
だからってそれはそれ!これはこれぇ!!
「こ、この状況どうしたらいいのさぁ!みんな固まってるっていうか…って三人とも何故か倒れてるし!?」
「ぐふっ…直で百合キス、とうとい」
「独占欲強めなの良い……」
「あの天城様がこんな一面を…うつくしい」
「し、死んでる…!!」
ばたんきゅーっと仲良く川の字になって死んでいる三人。
なんだか幸せそうに死んでるけど大丈夫なのかなぁっ!?AEDとか使った方がいいんじゃない?誰か助けてあげてーー!
「まさか…お二人がお付き合いなされてたなんて」
「しかもあの人嫌いで有名な天城さんが!?」
「一体いつから付き合ってたんだろー?」
死体となった三人に慌てふためく私を他所に、静寂が解けてざわざわとざわめきが溢れてゆく。
みんな好奇心に満ちた、キラキラとした表情で私と麗奈を囲うとクラスメイト達はずずいっと麗奈の前に顔を近付けた。
「あのっ!柴辻さんを好きになった理由を教えてくれませんか!?」
「あ、ずるい!私だって色々聞きたいことあるのに!」
「だったら私も!柴辻さんとどこまで進んだんですか!?」
きゃーきゃーきゃーと、麗奈を囲うクラスメイトがぞろぞろと集まって黄色い声が響き合ってる。
まるでアイドルの握手会みたいだ。
まあ、麗奈はこのクラスで一番目立ってる女の子だし、存在感すごいからねぇ…。
……でもちょっと、麗奈が囲まれてるのはなんかヤダ。
「む、むぅ…!」
「ええ、皆さんの質問には順番ずつ答えます…ですがその前に♪」
「へっ!?きゃっ!」
「嫉妬してる猫ちゃんを甘やかしながらでもいいでしょうか?」
自慢げに笑って、私の手を取る。
指先と指先が絡み合って、するすると麗奈の指が私の腕を這っていくと、そのまま腋の方へとくるりと回って絡みつかれる。
ふわりといい匂いがして、思わず心臓を跳ねらせていると、麗奈は私のことを猫呼ばわり。
にゃ、にゃに言ってんの!?
「嫉妬してるのバレバレですよ?まるでフグのように頬を膨らませて…♪」
「にゃっ、そ…そんなことないけど!?」
「そんなことあります♪ほら、強がってないで甘えてもいいんですよ?いつもみたいににゃあにゃあって鳴いてみてくださいな♪」
な、ないてないが!?
ないてませんが!!?
いちゃいちゃする私たちを横に、置いてけぼりになったクラスメイト達はぽかーんと目を点にして立ち尽くしている。
そんな私たちを見つめながら、クラスメイトの一人が口を開いた。
「あの天城さんが、あんな顔を見せるなんて」
「元々柴辻さんと仲が良かったのは知っていましたが…」
「まさか、ここまでラブラブとはね…」
「「「……………」」」
(((恋って…こわ〜〜〜……)))
◇
夏休み明けに待っているのは、もちろん全校集会だ。
初等部、中等部、高等部全ての学年を集められた体育館はまさに箱詰め…というわけではなく、少し間があるくらいでまだまだ入りそうといったところ。
流石はお嬢様学校…建物が広いってすご。
それにエアコン完備ってどうなってんの?もはや体育館の意味がないのでは!?
(けど、中等部の子達も集まるって聞いてたから心してたけど…アレシアの姿はないか)
きょろきょろと中等部の子達がいる方を覗き込むけど、あの目立つ金髪は見つからない。
基本、生徒はみんな黒髪だからあの髪は一発で見つけられる自信があるけど…やっぱりアレシアはいないのかな?
でも、こんな風にキョロキョロしてたら明らかに不審だよね…注意されるの嫌だしそろそろやめないと。
「っ…!」
アレシア探しはまた今度…と思いかけたその時、私のふとももにするりと滑らかな感触が走った。
突然のことで、あまりのくすぐったさに肩をびくんと震わせた私はすぐさまその相手である横の女の子を睨んだ。
(なにやってるの麗奈!)
ぽしょぽしょと、ボリュームを落として麗奈を叱る。
全校集会に紛れてセクハラをしてきたのは、私の許嫁の麗奈。
相変わらずの手癖の悪さは健在で、今のセクハラもきっと気まぐれだ…。
そしてもっとも悪いところがあって。
(ごめんなさい結稀さん♪だってすごく可愛らしかったからやってしまいました♪)
それは当の本人に悪気が一切ないこと!
(だ、だからってこんな時にしなくてもいいでしょ…!)
(…私、前から悪戯する人の気持ちが分かりませんでした)
(でも、今の結稀さんを見てると…そうしたいって気持ちが湧き出てくるんです♪ですから結稀……イタズラするので耐えてくださいね♡)
「にゃっ!?」
ギラリと、麗奈の瞳が獣のように鋭くなる。
嫌な予感と同時に背筋が凍えて、猫みたいな声が一瞬喉から飛び出ると麗奈の白い手が私の太ももにぴたりとくっ付いた。
(柔らかい♡)
唇がゆっくりと動いて麗奈の目が細くなる。
にんまりと小悪魔みたいな笑みを浮かべながら、麗奈の手つきは更に悪くなってゆく。
すりすりすりと、優しくゆっくりと太ももを撫で回す。
太ももの弾力を楽しみながら、時々指でつついてぷにぷにしたりとやりたい放題。
しかも。
(すき♡)
(すきです結稀♡)
甘く囁くの…ずるいっ!
麗奈の唇が私の耳元にくっ付いて離さない。
言葉一つ一つから漏れ出る吐息が肌をくすぐってくるし、なにより愛を囁かれると身体の芯がぐらぐらと揺れる感覚がする…!
心が動かされて、頬が緩んじゃう!
(や、やめ…だめだって麗奈)
(やめません♪それに結稀さんだって喜んでるくせに♪)
(そ、そんなわけ…)
(そんなわけあります♡だって少し撫でただけでもビクビクって震えて可愛い姿をしてるのですから♡)
(か、かわっ…!)
可愛い…そう言われて肩が跳ねる。
そう言われるからには今の私は麗奈にとって可愛い顔をしてるということ。
あまり自覚がないけど、麗奈の目には私がどう映ってるんだろう?
ああもう恥ずかしい…!というか全校集会中にセクハラやめーーい!!
(ほんとに、怒られるから!)
(それでもやめたくないです…だって結稀さんに触れてる時が一番心落ち着くんですから)
(そんな子供じみた言い訳を…!)
(む…言い訳じゃないです、事実です!どんな時でもどんな場所でも、私はあなたに触れてないと落ち着かないし満足できないんですっ!)
(なっ…!?)
な、なにそれ…そんなこと言われると、嬉しくて許しちゃうじゃんか!
じゃあ麗奈は、私に触れてる時が一番落ち着いて、一番楽しい時間ってことなのか。
…………あぁもう、ほんとにこの女の子は私のことが好きすぎて仕方ないっ!
(………ば、バレない程度でやってよね?)
(!…許してくれるんですか?)
(べ、べつに麗奈の本音を聞いて許したわけじゃないからねっ!ただ…その)
(〜〜〜!やっぱり結稀さん大好きです!愛してます♡)
じゃあお言葉に甘えて♡と麗奈の手つきがより一層激しくなっていく…。
くそう、可愛すぎて甘やかす癖…どうにかして治さないとなぁ。
でも、それはそれとして手つきがやらしい…。
(♡すき♡ 結稀さんだぁいすき♡)
(……………)
ううっ、太ももがぞくぞくする…。
くすぐったくて小刻みに震えて、それでいて時々お尻を撫でてくるから予測が付かない。
…私、肌を触られてもそこまで敏感じゃなかったんだけどな。
それもこれも、麗奈に触れられたりされたからなのかなぁ…もはや調教だねこれ。
(………好きな人に調教されるの、ちょっといいかも)
(?なにか言いました?)
(い、いや言ってないよ!?なーんにも言ってないからネ!?)
(む、なんか怪しいですね…隠し事ですかぁ?)
べ、べつにそんなわけないじゃん!
今のはそう、あくまでも想像の話で…突飛な思いつきで!!
きっと、私自身が求めてるわけでは…きっと、きっと……。
(………////)
…ほ、頬があつい。
(ほらやっぱり、なにか隠し事をしてるんじゃないですか!)
(いやこれは、別になんともないから!というか詮索禁止!)
こそこそと二人して小さな喧嘩が起きる。
壇上には学園長が何か偉いことを言っているけど、私達は私達の会話しか眼中にない。
だから、今壇上でどんな話をしていたのか私達は分からなかった…。
内容は、あとで知ったんだけど…留学生が来たとか、そんな話。
この学園は設備が整っていて、それでいて常に成績がいいから海外からの留学生が度々やってくる。
だから、そこまで気にするような話ではなかったのだけど…。
『こんにちは!日本のみなさん、私はアレシア!アレシア・デ・ガルツァーロ!たった一年ですがこの学園に通うことになりました、よろしくお願いします!』
「「……へっ?」」
聞き覚えのある明るい声。
少し私に似たその少女は、明るい金色の髪を靡かせながらキラキラと輝くエメラルドグリーンの瞳を大きく見開かせていた。
歳は私たちより二つ下、学年で言うところの中学三年生……。
そして、その名前は…私が探していた妹の名前で…!
「あ、アレシアだ…」
「ま、まさかこの学園に来てたなんて…」
『日本に来た理由は日本のことをよく知りたいのと…この学園にいる私のお姉ちゃんに会うことです!』
ほんとに、春乃ちゃんの言う通りだった…。
私は、これから訪れる学園生活にぶるりと背筋を震わせる。
だって仕方ないじゃんか…横にいる許嫁が、眉間に皺を寄せてすごく怒ってるんだから!!
※おまけ『質問責め』
麗奈との関係がクラスメイトにバレた。
そうなると一夏の思い出よりも、会話の内容は全部私達の方へ向いてしまう…。
夏休みで過ごしたバカンスも、経験も…あの天城麗奈が実は私と結婚の約束を交わしてて、教室の真ん中でキスをしたらみんな気になって仕方ない。
だから、麗奈の周りにはクラスメイト達が興奮気味になって囲んでいた。
そんな麗奈達を私は遠目で見る。
ちなみに私は既にもみくちゃにされた後で、質問責めされて疲れ果てた状態だ。
さて、麗奈はどんな風にもみくちゃにされるんだろう?
少しいじわるな気持ちを芽生えさせながら、私はみんなを眺める……。
Q「いつからお付き合いを?」
A「転校してから時が経って、二人で温泉旅行に行ったときの事です♪」
Q「じゃ、じゃあどんな風に告白したんですか!?柴辻さんから来たんですか?」
A「最初に想いを告げてきたのは結稀さんから…最初は私も不審がっていましたが、結稀さんの想いに惹かれて私から告白しました♡」
Q「あ、あの天城さんが告白……では、き…キスはしたんですか?」
A「それは答えられませんが…そうですねぇ、結稀さんの首筋を見ていただければ分かるのではないでしょうか?」
Q「く、首筋?………あ、遠目だけど柴辻さんの首にたくさんキスマークが…か、噛み跡もたくさん……天城さんってすごいがっつくタイプなんですね!」
A「ええ、だって結稀さんは私の許嫁ですからね♡」
Q「お、思ってた以上に愛が重いですね……では最後の質問ですが、柴辻さんのどの部分が好きなのか伺ってもいいですか?」
A「好きなところ、ありきたりな答えを言うならそれは全部……ですがそれはあまり面白くないので真面目に答えますが、私は結稀さんの明るい姿勢と辛抱強さが好きです」
A「私自身、最初は結稀さんのことが苦手でした。でも、結稀さんの明るい姿と私相手に引かないその姿勢に私はだんだんと好きになっていったんです」
A「それが例え勘違いでも…結稀さんは私に向き合ってくれた、私をずっと見てくれた」
A「だから好きなんです、私を想ってくれる結稀さんが…隣にいてくれるから、結婚したいんです」
Q「……天城さん、なんだか完全に恋する乙女ですね」
A「ええ…完全に恋する乙女です♡」
………む、むずかゆっ!
な、なんなのさ麗奈のやつ!めっちゃかわいいこと言ってさ、そんなの…!そんなのぉっ!
「わ、私だって麗奈のこと大大大好きーー!!」
「「「!!?」」」
「はい!私も結稀さんを愛してます!」
「あ、あのお二人方…まだ質問は、って二人とも凄い勢いで抱き合ってる…」
「………まあ、あれですね結論から言うと」
「「「バカップルだ……あれ」」」
完
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