第66話 アレシアの行方、そして静寂へ…
「へぇ、腹違いの妹のアレシアちゃんって女の子が出てきて色々修羅場だったんだぁ」
「うん、今までなんの接点もなかったから、お父さんに繋がりのあるアレシアが現れて大変だったんだよ」
回想終えて寮の一室。
ケーキを食べ終えて紅茶を飲んでる私を横に、春乃ちゃんは「大変だったんだねぇ〜」と感嘆の息を溢して紅茶を啜る。
「じゃあ、その後にアレシアちゃんとは会えたの?」
「ううん、また会えるかと思ってたけど…全然見当たらなくてさ」
「そうだったんだ、結局アレシアちゃん見つけられなかったんだね………あ、アレシアちゃんって柴辻ちゃんと似たような女の子なんだよね?」
「うん、私と少し似てるよ?それがどうしたの?」
春乃ちゃんは、まるでアレシアに心当たりがあるかのように聞くと、顎に手を添えると銅像の考える人みたいな感じで「うーん…」と考え込む。
それから数秒ほど待つと、春乃ちゃんは「思い出した!」と目を見開いて私の肩を掴んだ。
「そうだよ!なんだか見覚えのある感じだと思ったらその子だったんだ!」
「へっ?なに、なになになに!?」
やっと思い出したー!と言わんばかりに、ぐわんぐわんと肩を振り回される私。
目を回す勢いで回されていると、春乃ちゃんは言った。
「私が寮に帰ってきたのは昨日なのは知ってるよね?」
「う、うん…学校に忘れ物があったとか、そんなこと言ってたよね?」
「そうそう、寮に帰ってすぐに学校に行くと柴辻ちゃんに似た女の子がいたの」
「え、それって…」
ドキッと心臓が跳ね上がる。
私に似た女の子なんて、そんなの街中を探しても全くいないだろう。
でも、該当者がいるとするならば、それはただ一人だけで…。
「うん、同じ金色の髪で緑っぽい目!身長は柴辻ちゃんより低かったからすぐに他人だって分かったのだけど………話の流れ的に、その子がアレシアちゃんなのかな?」
「いや、なのかなっていうかそれはもう…!」
完全にアレシアじゃんかっ!!
どれだけ探してもいなかったと思えば、まさか学校にいたなんて!
って、なんで学校にいるのさ!?色々とおかしいでしょ!?
「な、なんでアレシアが学校にいたのか分かる?春乃ちゃん…」
「さぁ〜…私はその姿をちょっと見ただけだったしなあ………あ、でも中等部の先生と一緒にいたから転校の手続きとかしてたのかな?」
「て、転校…!?」
「うん、明らかに私服だったけど先生に案内されて職員室に入っていったし、もしかたら夏休み明けに柴辻ちゃんのクラスまで会いに来ちゃうかもね♪」
「わ、笑い事じゃないよう!?」
うふふっと他人事のように愉しそうに笑う春乃ちゃんに、私は困り顔でつっこむ。
すると春乃ちゃんはきょとんと、不思議そうな表情で尋ねてくる。
「え?でも、探してたアレシアちゃんと会えるかもしれないのに…いやなの?」
「いやその、っていうか……麗奈がどうするか分かんないんだよおっ!」
「でも、天城さんって協力してくれてるのではないの?」
そ、そうだよ…協力はしてくれてるけど!
でもあくまでも私に力を貸してくれてるだけで、アレシアに対する怒りは消えてないんだよぉ!
私のことは大事だけど、それはそれとしてアレシアは許さんみたいなスタンス…。
あれはあれ、これはこれって感じで今アレシアに会ったら何しでかすか分からないっていうか…その、麗奈は今。
「それに今の麗奈は…スーパーデレデレモードだから!」
「スーパーデレデレモード…」
なにそれ?と春乃ちゃんが首を傾げる。
いや、私自身何言っちゃってんだって思うけど、言葉通りスーパーデレデレモードなんだよお!
「い、いやね?夏休みをきっかけに私達の距離はかなり縮まってね?元々あったわだかまりもなくなったというか…私自身、麗奈のことが大大大好きになっちゃった理由もあってね?」
「うん、長くなりそうだから手短に説明してほしいかな」
「ひ、ひどいっ!」
「だってバカップルみたいな愚痴聞かされるの嫌だから…」
いやあ…と引き笑い気味にそう言われて超ショック!
なんでさぁっ!私達の関係応援してくれてるじゃんか!
でも、今の私がバカップルみたいだなっていうのはよく分かる…。
だって私、夏休み前の私と比べると明らかに変わってるんだもん!麗奈に対する気持ちとか、今まで抱えていたわだかまりが消えてスッキリしている所とか!
ふふっ、私ってば完全に麗奈の虜だよ…。
「まあ、麗奈ともっと仲良くなれたから麗奈のアプローチがすっごくグイグイ来るんだよ!」
「あの天城さんが柴辻ちゃんにグイグイと?なんだか信じられないなあ…」
「信じられないなら明日私のクラスを覗きに来てよ、麗奈に迫られてドギマギしてる私が見られるから」
「それもう確定してるんだ!?」
そうだよ、だって麗奈私のこと大大大好きなんだもん。例え人前であっても今の麗奈なら色んなことをしてくるよ。
「つまりね?今の麗奈は私じゃ手が付けられないくらいのデレデレモンスターになってて、そこにアレシアが出てきたら戦争になるんだよ」
「デ、デレデレモンスター……許嫁相手にそんなこと言っちゃってもいいの!?」
だってそうだもん。
今のデレデレモンスター麗奈に、グイグイ妹モンスターアレシアが現れたら、きっと学校は火の海に包まれるだろう。
そうなったら私にすら手が出せない…というか、夏祭りの時に私は見てるだけだったし…二人ともめっちゃ仲悪そうだし!
あの二人あれだよ、犬猿の仲ってやつだよ。
犬と猫というか、光と闇というか、ライバル関係的なやつなんだよきっと!
「でも、本当に春乃ちゃんの言う通りなら…アレシアは学校にいるってことだよね」
「うん…ちゃんとこの目で見たから、絶対だよ」
「それにしても、どうしてアレシアが学校に来ているのか不思議だけど。それでも明日、中等部の教室に行ってみようと思う」
アレシアは私より二つ下だし、中等部の教室に行けばきっと見つかる。
なにせ私と同じ派手な見た目だもん、すぐに見つかるよ。
それで…見つけた時に、お父さんについて詳しく聞かないと…!
◇
次の日。
いつも通りの時間に教室にたどり着くと、クラスはいつもより活気で満ちていた。
「おお、お嬢様学校でもこの雰囲気はどこも同じなんだなぁ…」
夏休み前とは明らかに変わったクラスメイト達を見渡しながら、私はそんな感想をこぼす。
前の学校もこんな感じで、夏休みデビューをしたクラスメイト達を見て「すごいなー」なんて幼稚な感想を溢したっけ…。
一夏の思い出とか、恋のお話とか。
ちょっとはっちゃけていつもの自分を変えた人とか、そんなのが沢山……。
「夏休みどうでした?」
「私は別荘で休暇を…あなたはこの夏休みの期間どうしていられましたか?」
「私?私は海外に…やはり日本の夏は暑いですからね、涼しいところに行って休んでました」
……ん?
「私は会社の手伝いかなぁ…やっぱこの時期は色々考えなきゃならないし、いい勉強になったよ」
「まあ、素晴らしいですね!私もあなたと似た事を……」
んなっ…!?
なんか、私が思ってるよりもみんなすっごくいい夏休み送ってた!?
いや、みんなお嬢様なんだから私なんかよりも比べ物にならないけど、みんなそんな凄いんだ!!
浮いた話ひとつも聞かないし…!
「ん?」
そんな時だった。
お嬢様が送る夏休みに圧倒されてた私を横に、聞き覚えのある三人の声が聞こえたのは。
「あ!おはようございます柴辻さん」
「お久しぶりです、元気にしてましたか?」
「どうも、天城様とは進展ありました?」
「んにゃっ!三人とも!ひっさしぶりー!!」
私の前に現れたのは、一学期の時に高級旅館の一泊チケットを送ってくれた恩人三人組だ。
あの時はまだ許嫁という関係ではなく、友達欲しさに三人に話しかけていたら麗奈に勘違いされて嫉妬されたっけ。
もしかしたら、あの時には既に私のことが好きだったのかなぁ?
きゃーっ!麗奈ってばほんと好きー♡
っとと、それはそれとして…!
三人組に話しかけられたの、なんだかすっごく久しぶりかも…!
いや、一学期の時は結構話してたし…そんな久しぶりって訳じゃないんだけど、なんだか久しぶりすぎて涙が出そうかも!
「ってか、三人ともすっごく焼けたね〜?」
「あはは…肝心な日焼け止めをあまり塗らずに歩いてたので、全身がヒリヒリします」
「ですが、私達は戦いに勝利しました…!日焼け?水分補給?熱中症?そんなものは戦場の前では関係ありません!」
「薄い本の為なら私達は溶岩の中だろうと突き進みます!」
「……え、えっと、なに言ってるのかさっぱりなんだけど、水分補給しないとほんとに大変なことになるから気をつけようね?」
なんだか三人とも、歴戦の猛者みたいな雰囲気があるね…。
一体どんな場所でどんな事をしていたのか、少し知りたい欲はあるけど…聞いたら聞いたで沼に引き摺り込まれそうだから聞かないでおこ。
「柴辻さんはこの夏休み、どんな事をされてたんですか?」
「そうですそうです!柴辻さんと言えばあの天城様との恋路!一体どこまで行ったのか知りたいです!」
「そこのところkwsk!!」
「へ、へっ!?急にグイグイ来るじゃんか!」
突然の質問責めにびっくりして、私は迫る三人に囲まれてあたふたと慌てふためく。
こういうとき、言っていいのか分からない。
だってこの三人、私達の関係の話したらものすごい興奮しだすんだもん!
火に油をそそぐというか、そそいだ瞬間もの凄い勢いが溢れ出してくるというか!
「ささっ!どこまで行ったのか聞かせてください柴辻さん!」
「「さぁさぁっ!」」
「にゃ、にゃあ…!わ、私と麗奈は…」
押しの強い三人に追い込まれた私は、指先をくねくねと遊ばせながら観念したように夏の出来事を話そうとする。
心の内で、麗奈と私だけの秘密にしてたいのに…なーんて密かな独占欲を燻らせながら、私は口を開いた…その瞬間だった。
「良ければ、私が話しましょうか?」
「にゃっ…!麗奈ぁっ!」
大切で大好きで、この世で一番愛してる私だけの婚約者が私を守ってくれたのは。
「あ、天城様!」
「お願いします!どんなことがあったのか聞きたいです!」
「悶絶するくらいの尊い百合を聞かせてくださいっ!」
「相変わらず三人とも変わってないですね」
この場にいる誰もが綺麗と謳うほど美しい亜麻色の髪を靡かせながら、麗奈は私の前に立つと呆れた様子で小さく息を吐く。
すると、視線を私に寄せて麗奈はくすりと小さく笑った。
「おはようございます結稀さん♪今日も一段と可愛らしいです♪」
「ありがと麗奈ぁ…♡麗奈だって一段と綺麗だよ、もっと好きになりそう!」
「ふふっ、ありがとうございます♪」
「おお…お二人ともすっごい距離が近いですね…」
「柴辻さんなんて、もうメス顔ですよ…」
「一体なにがあったらあんな表情するのでしょうか!?」
愛し合う私達を横に、三人はやいのやいのとよくわからないことを言っている。
めす顔?なにそれ?私なんかすっごい顔してるのかな?
不思議に思う私、その前に麗奈が三人の前に立ちはだかるとニッコリと笑って尋ねてきた。
「ふふっ♪知りたいですか?」
にっこりと、笑顔をそのまま貼り付けたような笑顔で麗奈は尋ねる。
三人は一瞬息を呑むと、無言のままこくりと頷いた。
「そうですね、言葉で語ると長くなりそうなので…ここは簡単に行動で示しましょうか♡」
「にゃ?れい……にゃっ!?」
途端…私の唇に柔らかい感触が支配する。
何が起きたのか全然わからなくて混乱していると、埋め尽くされた柔らかいものからにゅるりと気持ちいいものが入ってくりゅ…♡
「にゃ、れい…にゃ♡みんな、見てる…からあっ♡」
「ええ知ってます♡んっ、んむ…っ、だってこうしないと…他の人に目をつけられてしまいますから♡あむ、あっ♡」
「ぷはっ…だ、だからって!三人ともどころか…みんな注目して!!」
急いで唇を離して、私は視線をぐるりと一周させる。
三人はもちろん、談笑していたクラスメイトの皆々までもが私達のことを凝視していた…。
人の声すら許さない、静寂が支配する。
そんな静寂の中で、唯一許される麗奈は鋭い目つきと鋭い声で一言言い放った。
「結稀は私のモノ、誰にも奪わせない」
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