第61話 夏祭りトライアングル③


「へぇー♪これが日本のお祭りなんだぁ♪」


 日本にやってきてから数日が経った。

 相変わらずパパからの連絡がうるさいから、スマホの電源を切っちゃった♪

 だから自由気ままに観光を繰り返して来たのだけど…まさかこんなところでお祭りがやっているなんて思わなかったわ!


 とりあえず、匂いに釣られて買っちゃったやきいか?っていうのかな?あまじょっぱい味が美味しいイカの串焼きを食べながら、私は知らない街のお祭りを楽しむ♪

 でも、このイカ焼きは味が濃すぎるなぁ…もう少しさっぱりしたのが食べたいかも?


「あ、あれなんて美味しそうね♪ちょうど冷たいものが食べたいと思ってたのよ!」


 ぐるりぐるりと辺りを見渡していると、イチゴのような甘い匂いが私をいざなう。

 ゴリゴリと重く削るような音が聞こえて来て、なにかなー?と思いながら近寄ると、それはジェラートとはまた違ったアイスのようなものがあった。


「かき、こおり?……へぇ美味しそう♪ねぇそこの人それ一つくださーい♪」


 かきこおり…不思議な名前だけれども、きっと美味しいに違いないわ!

 日本のお金を手渡してからかき氷を買うと、私は思い切って食べてみたの!


 だって頂上にある赤い部分が、一番美味しそうに見えたから!


 でも、頂上の部分だけ食べてしまったせいで、私はすぐに後悔してしまう。


「ひゃっ冷たい!」


 口の周りが凍ってしまうのかと思ったわ。

 それに、赤い部分がすごく甘い!いちご味のシロップかしら!?

 というかこれ、段々と溶かして食べるものなのじゃないの?一気に食べて、それでいてすごく冷たくて…頭が!


「き、キーーンってなってる!!」


 頭が割れるように痛いわ!?

 なんなのぉこれぇ!なんかの副作用!?みんな美味しそうに食べてるけど、こんな激しい痛みなんともないのかしら!?


 正体不明のキーンっとした痛みが私の頭を締め付けている。

 やがて痛みは引いて、ちょっと嫌な目に遭ったわ……と買った事を後悔しつつも、私は唇を膨らませて「ぷふっ♪」と笑みを吐き出したの。


「ふふっ…あははっ♪あっはっは!!ほんっと日本ってたのしー♪いろんなものがあって飽きないわ!イタリアはもう飽きてしまったから!」


 それに、私はずっとこの地に憧れていたの。

 だって仕方ないもの!ここには昔、パパが住んでいたところだから!

 おじいちゃんから与えられた責務から逃げて、家出の果てにやって来たのがこの国!そこで楽しい思いをして、運命の人と出会った地!


 ずっとパパが夢見ていた場所に私はいる。

 パパが投げ出してしまったここにいる。

 そして、私のお姉ちゃんがこの国にいる!


 そもそも、私がイタリアから飛び出してまでここに来たのはお姉ちゃんが理由だもの♪

 私の、腹違いのお姉ちゃん…パパが日本の女性と恋をして出来た一つ上の女の子!

 名前は分からないけれど、会ってしまえばきっとわかる!だって私、ずっとずぅっとお姉ちゃんに会いたかったんだから!


 ふふっ♪一体どんな人なんだろう?

 おしとやかなのかしら?それとも大胆かしら?

 私と同じ金色の髪で、きっとすごく綺麗なんだろうなぁ…♪

 それでいて、私のことをきっと"愛"してくれる!だって私はお姉ちゃんの妹なのだから!


「さぁて、お姉ちゃん探しを再開しないとねぇ…お祭りも楽しいけれど、まずはお姉ちゃんを探さないといけないから♪」


 残りのかき氷をその場で投げ捨てて、休んでいた身体を再起させる。

 けど、やっぱりお祭りっていうのは人が多くて……って人多すぎだよねぇ。


 でも、きっとこのお祭りにお姉ちゃんがいると思うの。

 だって、この街は昔パパが住んでいた街なのだから、きっとお姉ちゃんは見つかる!


 要は根気!頑張っちゃえ私!

 えいえいおーっ!


「なんちゃって?ゆっくりじっくりお姉ちゃん探し開始〜♪」


 やる気全開も束の間。

 秒速でやる気失った私はスローペースでお姉ちゃん探しを開始する。

 でも、その次の瞬間だった。


「あー!結稀お前そんなとこにいたのかよ!探したんだぞ!」

「って…朧さん、その人…柴辻様ではないようですよ?でも…少し面影は似ていますが」

「…………誰?」


 二人の日本人が、私を止めたのは。



「すまん!友達と間違えて呼び止めてしまった!!」

「えぇ〜?全然大丈夫〜!むしろ日本人のお友達出来て嬉しいくらい?」

「ほんとか?てかアンタ…めっちゃ日本語上手いな!?もしかして日本住み?」

「違う違う♪私はイタリアから来たの!日本語はずっと昔から日本に憧れてたから、自然とマスターしたの♪」

「へぇ〜!すげーー!」


 おぉーー!と拍手喝采を送って私を褒めるのは一房ひとふさの髪を赤く染めあげた、一見不良みたいな女の子。

 その隣には黒のスーツを少し着崩して佇む男装をした大人の女性……。


 二人ともちょっと怖い印象があるけれど。

 私をと勘違いして声を掛けてきた二人に一瞬で仲良くなった私は、日本語の事を褒められて思わず照れちゃっていた。


「ふふん♪ずっと昔からパパに聞かされてたから、全然苦ではなかったわ!」

「それにしてもすげーよ!憧れで努力出来るとか普通に尊敬だわ……にしても、どうしてここに来たんだ?東京とか京都とか、観光するとこ沢山あるくない?」

「東京!京都!!東京は空港に着いたあと楽しんだけど…京都はまだ行っていないわ!でも、それよりも先にここに来る理由があったの!」

「「理由?」」


 二人が首をひねって聞いてくる。

 私はふふん♪っと愉快そうに口元を緩ませると、声を弾ませながら大きく手を開いて自慢するように言ったの!


「うんっ!私ね?おねーちゃんに会いに来たの!」

「お姉ちゃん?あなた、お姉さんを探しに一人でここまで?」

「そう!私のお姉ちゃん!腹違いで日本で育って、今もここで暮らしてると思う私のお姉ちゃん!」


 意外そうに目を見開く冷たい顔のお姉さんに私が軽く説明すると、二人は少し興味を持ったのか「へぇ〜」と相槌を打ちながら私の話に食いつく。


「しかし、見たところ高校生くらいのようですが…よく一人で来ましたね、というか…ご両親は止めなかったのですか?」

「別に?ママはパパに愛想尽かして出て行ったし、パパは心配するフリして日本にいる好きな人ばかり考えてるから、実際はなーんにも心配してないわ」


 今だって、鬼のように電話しているけど実際のところは何も心配なんてしてないのよ。

 ママもパパも私の事なんて見ていない、パパは日本の事ばかり考えてるし、ママは元々愛のなかったパパに愛想を尽かしている。


 …私、パパとママに祝福されて生まれた子供じゃないのよ。

 だから、私を連れ戻すなんて強行に出ずに好き勝手させている、これが証拠。


「今はパパとママの事なんて関係ないの!それに私は一人で日本でやっていけてるし、お姉ちゃんさえ探せればそれでいいの!」

「なるほど……あまり詮索はしませんが、あなたは理由があって、ここにいるんですね」


 少し納得してない顔してるけど、男装のお姉さんは息を吐いて納得したフリをしてる。

 なんだか、ルールとかそういうの守りそうな人だわ…目を付けられないようこのまま逃げちゃおうかな?

 でも……。


 気になることが…一つあって。


「ねぇ、二人とも!」

「ん?なんだ?」

「なんでしょう?」


 呼び止めた途端、二人の視線が私に集まる。

 まだ話して数分くらいの関係だからか、ちょっと話すのに喉が詰まり掛けて…一度息を呑んでから、私は喉につっかえる疑問を吐き出した。


「二人は私を誰かと勘違いして声を掛けてきたみたいだけど…もしかしてその人って、私みたいに金色の髪をしてるのかしら?」


 そうでないと、私に声を掛けるなんてありえないのだから。

 だってそうじゃない?最初に声を掛けられた時に、まるで私のこのの事を知っているみたいな感じだったんだもん。


 ということはだけど…もしかして、この二人って……!


「ええ、そうですよ?ちょうどあなたみたいに色の濃い綺麗な金髪のお方でしたから」

「おう、ちょーっと身長低いかなーとか思ってたけど、髪の色ならウチが間違えたヤツとまんま同じだからなぁ」

「金色の髪……私と同じ」

「「………ん?」」


 二人も何かに気付いたみたいで、頭を捻らせながら私の言葉をゆっくりと解釈していく。

  それよりも先に、二人の断片的な情報から…とっても大事な話を聞いて、私の心はぴょんぴょことウサギのように跳ね上がる!


 いた!いたのね!!いたんだね!!!


 やっぱりこの町にいた!お姉ちゃんは確かにいる!!

 目の前の二人は、私のお姉ちゃんを知っている!


「も、もしかしてだけどさ…凛ちゃん」

「は、はい…私ももしやとは思ったのですが……!」

「あれだよな??」

「あれですね…」


 顔を見合わせて、とても大事な事に気付いたのか二人の頬に汗が伝う。

 やっぱり、二人には思い当たる節があって…その人は確定でお姉ちゃんなんだ!


 じゃあもう、こうしちゃいられないよね?


「ねぇお二人とも」

「な、なんだ?」

「なんでしょう?」

「まだ自己紹介がまだだったよねぇ?私、名前を♪アレシア・デ・ガルツァーロって言うの♪」


「ねぇ二人とも♪二人のお名前と…お姉ちゃんがどこにいるのか……教えてくれない?」


*あとがき

急いで書いたので文字数少なめです

なるべく5000文字以上書けるように頑張りたいです……


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