第59話 夏祭りトライアングル①


「お祭り…ですか?」

「うん、毎年この時期になるとね近くでお祭りやるんだよ!おっきくて楽しいんだよ〜!」

「へぇ〜」


 少し遅めの昼食…もといそーめんをちゅるちゅるとすすりながら、ふと思い出した夏祭りの事を麗奈に提案してみる。

 毎年この時期になると、海沿いの方で開催するお祭りはかなり人気があって、県外からも沢山の人が来る大きなお祭りだ。

 

 私も、昔は朧ちゃん達と遊びに行ってたりしてたなぁ…。

 その時に、ちょっと気合いを入れて浴衣なんて着て一緒に回ったこともある。


 私が夏祭りを麗奈に提案したのは、浴衣の事を思い出したからだ。

 きっと麗奈が着たら似合うんだろうな。

 それに、夏祭りは花火大会もあるし…麗奈と一緒に花火の下でデートとか、めっちゃロマンあっていいんじゃない!?


 それに、勘違いの事とか…私の気持ちとか、夏祭りの時に私は全部を麗奈に伝えたい!


「ということでさ!一緒に行こーよ夏祭り!」


 いぇーい!と、勢いのままに任せて麗奈を夏祭りに誘う。

 頭の中では夏祭りデートのことしか頭になくて、屋台はどんな風に回ろうかな〜なんてことばかり考える。

 だけど……。


「うーーん……夏祭りですか」

「あり?」


 返ってきた麗奈の反応は、思っていたよりもテンションが低いものだった…。

 顎に手を添えて、悩むように頭を捻る麗奈に私はぱちくりと瞬きをして見つめる。


 だって、こんな反応されるなんて…思ってもなかったから。

 麗奈の事だし、二つ返事で行きます!って言ってくれると思ってたから、この反応はすごく意外だった。

 そうして、私が驚いていると…麗奈は申し訳なさそうに言った。


「私…お祭りって行ったことないんですよ」

「へ?そうなの?」

「はい…以前までは人混みなどは避けていたので、お祭りとかは特に興味ありませんでしたし……」

「あーー……」


 なるほどー…と静かに納得する。

 私の知らない過去の麗奈は、今よりももっと静かで人間嫌いをこじらせた女の子だったらしいし…。

 初めて会った時も、まぁ孤高って感じの女の子だったけど…まさかお祭りとか行ったことなかったんだ。


「なので、夏祭りを楽しめるかどうか…と悩んでいたんです」

「いやいや!きっと楽しめるよ!ていうか私が麗奈をリードするから!」

「リードって…昨夜私にされてた結稀さんがそれを言いますか……」

「そ、それは今関係ないじゃんかっ!!」


 確かには麗奈にリードされっぱなしだけど、それは夏祭りと関係ないしここで言わなくてもいいでしょうがぁっ!!

 危うく吹き出し掛けた麦茶を静かに飲んで、私は湧き上がるツッコミをなんとか抑える…。


「と、とにかくっ!絶対楽しいからいこーよ!」

「まぁ、そこまで言うなら……でも私、あまり楽しめないかもしれませんからね?あらかじめ言っておきましたからね?」

「はいはい…」



「きゃーーっ♡結稀さんの浴衣姿すっっごく可愛いです!好きです!素敵です!」

「めっちゃ楽しんでんじゃーーん」


 黄色い歓声飛び交うのは、昼間までぐだぐだと乗り気じゃなかったお嬢様の口から。

 浴衣に着替えて来た矢先、麗奈はこんな感じでテンションアゲアゲマックスな状態で私を褒めまくっていた。


 ちなみに、私が着てる浴衣はレンタル屋で借りたもの。

 青色の紫陽花の刺繍がされた、水色の綺麗ですずやかな印象の浴衣で、私の一目惚れで借りた浴衣だ。


「そんな麗奈だって、その浴衣超似合ってるよ♪」

「そう、ですか?」

「うん、好き!」

「……そ、そーですか」


 ふふっ♪照れてる照れてる♪

 顔真っ赤にして髪をいじいじと弄っちゃってさ♪ちょーかわいい、すき♡

 

 麗奈が着ているのは私とは対照的な赤色の紫陽花が刺繍された赤色の浴衣。

 元々、超絶美人でおしとやかな雰囲気を持つ麗奈と浴衣が持つ和の雰囲気をしたら…なんかもう、あれだよね?


 奇跡的な調和マリアージュつてやつだよね!?

 めっちゃ美人で可愛すぎて、もうこのまま抱きついちゃいたいんだけど!!


「も、もう…結稀さんは相変わらず褒め上手ですね…」

「実際可愛いんだから、褒めちぎるのも無理ないと思うけどなぁ…」

「ふふっ、本当に私のこと大好きすぎますよね?結稀さん ♪」

「えへへ〜♪一目惚れで大切な女の子だからね、大好きになるのは当たり前だよ」

「………恥ずかしげもなく言うんですからほんと酷い人ですよね…」

「へ?」


 口元を尖らせて、ブツブツと呟いた麗奈に反応すると、少し不機嫌ながらも顔を赤らめて「なんでもないですよ」と否定される。

 何言ってたんだろ?と思いながらも、まあいっかと楽天的になって、私は麗奈の側に寄る。


 肩と肩が当たる距離感、まじわる赤と青の紫陽花の色彩。

 このまま溶け合ってしまうくらい縮まった距離感で、私と麗奈の手は優しく絡み合う。


 少しくすぐったい指先と、高鳴る心臓の音。

 子恥ずかしいけど、今はそれが心地良くて…このまま伝わってくれたら嬉しいなぁ、なんて思いながら指先と指先が指の間を埋めていく。


「…えへへ、こうやってさ二人でデートするの…初めてだよね?」

「確かにそうですね、最後に二人で遊んだのは温泉旅行以降でしたから」

「温泉旅行かぁ…あの時の麗奈、すっごく可愛かった♪」

「結稀さんだって、あの時からずっと素敵ですよ ♡」


 夏の夜は少し涼しい。

 でも、昼間の蒸し暑さの残滓はまだ残っていて、どこか空気はじめっぽい。

 なのに、そんなじめっとした空気から来る暑さとは違って、身体の奥はとくとくと熱が溢れてくる。


 恥ずかしさと愛おしさを煮詰めたこの熱は、私をあっためて離さない。

 

 かき氷とか、食べたいな…なんて思いながら、私は麗奈と一緒に手を繋いで夏祭りへと足を運ぶのだった。



「……なぜ、来てしまったのでしょう」

「そりゃ、今は仕事がないからだろ?」


 鈴と太鼓の音が混じった祭りの音を背景に、感情の死んだ冷たい声が疑問を抱いてウチに尋ねにやってくる。

 ウチはするりと答えを返すと、冷たい声の主は「そうですね…」と苦し紛れに肯定した。


「天城のやつ、家から抜け出したんだっけ?何があったんだよ」

「…詳しい事情は分かりませんが、麗奈様のお父様…もとい旦那様曰く『放っておけ』と言われており、全く分からないんですよ」

「ふーーん…まぁ、詳しく聞くならあいつらにって感じだな」

「そうですね……では、もう一度聞きますが、なんで私…朧さんと夏祭りに来てるんですか?」


 もう一度聞かれたら、まあ答えてあげるが世の情け。


「そりゃ、ウチが夏祭りデートに誘ったからな」


 さらりと目的を話して、ウチは手に持っていたたこ焼きを一つ頬張る。

 うん、屋台のたこ焼きはソースが濃くて口の中がしょっぱく感じるな…。

 が、青のりの風味が効いてて…なにより紅生姜のピリッとしたアクセントが効いてるからうまい。


「で、でーと……デート」


 もぐもぐとたこ焼きを頬張っているウチとは違い、凛ちゃんはまごまごと身体を揺らして「デート」の言葉を何度も反芻はんすうさせている。


 表情はあまり変わらないが、どことなく動揺している雰囲気を感じられて、ウチは思わず嬉しい気分になった。

 やっぱ誘って正解だったぜ、夏祭りデート。


 仕事が仕事だから結稀達も付いて来るのかと思ってたけど、まさかウチと凛ちゃんで二人きりになるなんて思いもよらなかった。

 ウチは凛ちゃんの笑顔が見たいという目的があって、その目的の為に今日デートに誘ったんだ。


 凛ちゃんは渋々承知で来てくれたけど、まあ来てくれて嬉しい。

 それに、せっかくの二人きりのデートなんだ、凛ちゃんの冷たい表情をどうにか揺さぶって、笑顔を見てやりたい。


 つまりは今回の夏祭りデート、凛ちゃんの笑顔を見る為の布石なんだ。

 その為なら、ウチはどんな事だってやってみせる!


「ほら、凛ちゃん!祭りはまだ始まったばかりだろ?他の屋台も見て回ろーぜ?」

「…まぁ、来てしまったものは仕方ありませんね…」


 はぁ、とため息を溢す凛ちゃん。

 そんな凛ちゃんにウチは悪戯っぽく、にひっと笑うと凛ちゃんは困ったように眉を寄せた。


「そう怪訝そうな顔すんなって、可愛い顔が台無しだよ凛ちゃん」

「か、かわいい…私が?」

「…他に誰が居るんだよ……それに、ウチの前ならもっと力抜いてもいいんだぜ?そんな堅苦しい喋り方イヤだろ?」

「別にイヤって訳では……」

「ウチの前でくらい、もっと弾けてもいいのになぁ?」


 ニヤニヤと笑って、詰め寄る。

 凛ちゃんは唇をきゅっと噤んで、そして考え込んで……その果てに辿り着いたのか、はぁ…ともう一度息を吐く。


「…わかりましたよ、朧さん」

「なんなら朧ちゃんって呼んでもいいぜ?」

「それはなんかやだ…」

「ケチ」

「……朧さん、柴辻様に似てきましたね」


 あいつに似てきたって……まぁ、あいつを真似てる所はあるけど、言われたら言われたですっげーやだな。


「……と、とりあえず!!ほら、手出せよ」

「手?それまたなんで……」

「人混みばっかりだし、はぐれたら大変だろ?なら…手を繋いで一緒に回ろうぜ」

「っ…!」


 差し出した手に、凛ちゃんの手が伸びかける。

 でもウチが目的を言った途端に、凛ちゃんの頬が赤くなって、伸び掛けた手がひゅっと戻っていった。


 そんな照れなくてもいいじゃん…と少しムカっと来たウチは、無理矢理凛ちゃんに近付いて、凛ちゃんの白い手を掴む。


「あ、あの…!別に気をつけるので手を繋がなくても!」

「ウチが繋ぎたいから繋ぐんだよ!それに…今日はデートだし……デートっぽいことしたいだろ?

「り、凛って…呼び捨て!」

「いいから、行くぞ凛!ウチがもっと楽しませてあげるからさ!」


 白い手を引き連れて、人混みの中を駆ける。

 背後で凛が何か言ってるけど、ウチは耳を貸さずにきゅっと手に力を入れる。

 優しく…熱が伝わるくらい、ぎゅっと。


 それと同時に、どこか胸がむず痒い気分になって…どこか焦燥に駆られる感覚に襲われる。

 凛の手を繋いでる時だけやけに早くなって、だけど落ち着いて……。


 そんな矛盾を抱えながら、ウチらのデートは始まった。


※あとがき


 投稿遅れて誠にすみません。


 最近謝る事しか出来てないですね…。

 しかし、今月カクヨムで公式の百合コンテストやるらしいんですが、私個人としては結構興味があって…やってみようかな〜なんて思ってます。


 その為に、コンテスト用の話でも書いてみようかな…と思っていて、もしかしたらそっち優先で投稿止まるかもしれません。

 とはいえ、現状考えてるだけなのでまだ分からないんですけどね……。

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