第53話 おぼれるふたり ①


 何度も…想像したことがあるんです。

 私の指が、結稀さんの身体を蛇のようにって、結稀さん自身も触れた事のないような場所に触れて…。

 あのぷくりと膨れた…果実のような唇を劣情のままに貪る想像を。


 欲望のままに、あなたの全てを支配したい。

 身体も、記憶も、心も、なにもかも全てを私のものにして…宝箱の中に入れて、大切に保管しておきたい。

 あなたの知らない全てを網羅し、私無しでは生きていけないよう支配したい。


 花のような香りを放つ黄金にも等しいその髪に、ずっと顔をうずめていたい。

 健康的で真っ白な、キャンバスのような肌を…その首筋を、私の唇で刻み込みたい。

 だって結稀さんは、私のものなのですからと、結稀さんの持つ全てを…管理していたい。


 黄金の髪も、白い肌も、果実のような唇も…私だけを映してくれる瞳も、長く美しいまつ毛も…私の声を聴いてくれる耳も、私に愛を囁いてくれるその口も、私を抱きしめてくれるその手も、柔らかで豊満なその胸も…私に歩み寄ってくれるその足も…。


 全部大切に管理して、全部私のものにして、全部全部全部全部全部私だけを満たしてくれる…生涯の伴侶でいて欲しい。


 でも、それが全部汚い欲望だと、私自身よく理解しています。

 貪欲で強欲で、私自身が一番嫌っている感情に身を焦がしながら…そんな想像に頭を膨らませて、夜な夜な密かに行為に耽るのです…。


 ベッドの奥に潜り込んで、自己嫌悪に苛まれながらも…私の指は淫らな音を立てて、ずくずくと疼く秘部を必死に慰めます。

 結稀さん…結稀さん…って、熱を込めたうわごとを何度も何度も呟いては、指を必死に動かす…。


 結稀さんと抱き合う想像をして、キスをする想像をして、無防備なその身体を蹂躙する想像をする。


 ダメだと頭では分かっているのに、なのにやめられない。

 恋というのはここまで病的なのだと、改めて実感し…尚且つ恐怖さえしました。

 以前の私なら、貴重な時間を割いてでもこのような行為はしなかったでしょう…。


 なのに、どうしてこのような行為をしてしまうのか?と問われるならば…。

 人間嫌いである私が、今までの私を投げ捨ててしまうほどに柴辻結稀を愛し、溺れているからでしょう…。


 そんな…私を深い海の底へと溺れさせた結稀さんが、紅色に頬を染めて、ふいっと視線を逸らしながら、ぼそぼそと小さな声で言いました。


「濡れちゃった…」


 その言葉の意味をすぐに理解して、心臓が大きく跳ね上がる。


 …ああ、また溺れてしまう。


 何かが壊れた音が内側に響き渡って、一瞬…思考が出来なくなりました。

 そして、私は。



「ぬ、濡れ…」

「…は、はしたないよね…私」


 両目を大きく見開いて、私を凝視したまま固まる麗奈に私は視線を逸らして自己嫌悪に浸る…。

 だって、麗奈とキスして…めちゃくちゃにされちゃうんだって思った途端に、こんな興奮しちゃうの…なんか、えっちな子なんだなって幻滅されちゃうじゃん…。


 だから…そんな私を見て、麗奈に嫌われたら嫌だな…って怖がっていると、逸らしていた視線がぐいっと無理矢理麗奈の方に向いた。

 麗奈の小さな手が、私の顎をきゅっと掴んでいる。


 なになになにさ!と驚いていると、視線の先には一面麗奈の顔で埋め尽くされていて…次の瞬間、私の唇に…生暖かくて大好きな感触が私の意識に蓋をした。


「んむっ!?んん……ぁ、む…」


 と、突然キスって…どうしたの!?

 しかもなんか…いつもより強引じゃない!?

 

 舌を無理矢理ねじ込まれ、口の中で舌と舌が絡まり合って、のたうち回る。

 じゅわじゅわと溢れるあまぁい唾液が口内を埋め尽くすと。

 唇を離した瞬間、天井の照明に照らされて…ぬらりと橋を掛けた唾液の線が、滑らかに煌めいていた。


「…結稀って、どうして私を煽るのが上手いんですか?」

「へ?れ、麗奈?」


 目を細めて、静かに怒るように…全身を凍らせるような、低く感情のない声で麗奈は私を見つめながらそう言う。

 瞳に獣みたいな…鋭い眼光を宿した麗奈は、まるでサバンナに潜む肉食獣のようで。 

 その眼光に当てられた私は、思わずビクッと全身を跳ね上がらせる。


 それと同時に…その眼光を前に、あまりのかっこよさで私のあそこが…また濡れちゃう。


 麗奈が私のことを「結稀」って呼ぶ時は、大抵完全に我慢が出来なくなった時だけ。

 私のことが、大好きで大好きで仕方がなくなっちゃう時に発動してしまう狼なモード。


 そんな状態になっちゃったら、どれだけ私が言っても……止まらない。


「結稀、服脱いでください」

「え?い、今ここで?」

「そうです…脱いでください」


 ほんとに?

 今ここで…服脱ぐの!?


「い、いや…ここで服を脱ぐのは、第一恥ずかしいし…それに、麗奈ってば興奮してる私を見て…はしたないとか、嫌いとか…思わないワケ?」


 言ってて…結構卑屈だなって思う。

 私ってこんなやつだっけ?って思いながら考える。

 だって以前の私なら、こんなにも下げる発言しなかったし…。


 でも、こんな事を言い出すのは、純粋に麗奈に嫌われたくないからだ…。

 こんな私を見て、もし麗奈が「はしたない」とか「淫ら…」とか思ったらどうしよう?軽蔑されたら…どうしよう?


 もしそう思われたら私…きっと立ち直れないよ。

 せっかく好きって気付いたのに、麗奈のことが…こんなにも大切で愛おしいのに、麗奈に拒絶されたら…なにも出来なくなっちゃう。


 指をいじいじと弄りながら…私は自分の気持ちを吐き出していると、麗奈の眼差しが一際ひときわ鋭くなった…


「…はしたない?」

「れ、麗奈?」

「はしたない訳…ないじゃないですか!あなた自身が、私の大切な人を下げる発言をするのはやめてください!」


 ぴしゃりと…悲しそうな声で、叱られる。

 くしゃっと顔を悔しさと悲しさで歪ませて、馬乗りになった麗奈は…私の服のボタンを勢いよく掴んだ。


「えっ!?ちょっ…!」

「もういいです、結稀は肝心な時に弱気になるの…知っていますから!だからもう!このままやります!」

「や、やるって…なにをさぁっ!?」


 ちょいちょいちょぉぉーいっ!とぶちぶちボタンを外されながら私は慌てる。

 なんか怒ってるよね?怖いんだけどぉっ!?と困惑していると、麗奈は言った。

 

「抱きます」




「……へっ?」

「結稀を今から抱きます…私に、全てを捧げてください」

「え、は……へっ!?」


 真剣な表情で…麗奈はサラッとすごいことを言う…。

 あまりにもすごすぎて、私の脳では処理が出来ず…困惑しながらも、私の頭の中では宇宙が広がっていた。


 星屑煌めく暗黒空間に…ふわ〜っと猫が一匹二匹〜〜。


「って!いや、抱くって…!」

「ええ、文字通りあなたを抱きます」

「…ハ、ハグとか?」

「いいえ、性行為の方ですね」

「ほ、ほんとにやるのっ!?」

「結稀もその気なのでしょう?なら…ぐだぐだ言ってないで…!!」

「わ、わあっ!?」


 両手を掴まれて、塞がれて。

 足元は麗奈の足がガッチリと押さえ込んでいて、完璧に逃げ場が封じられた…。

 

 照明の明かりが…麗奈を照らしている。

 ドールのように精巧な美しさを持つ麗奈が、フッと微笑を浮かべると…低い声で私の耳元に囁いた。


「…もう「待て」は出来ませんからね?今から結稀をとろとろに溶かして…甘やかします」

「と、とろとろ…?」

「はい♪結稀がどれだけ美しく…綺麗で、可愛いのか…私が証明します。二度と卑屈になどならないように…存分にあなたを愛しますから………だから」


 ──私に身を委ねてくださいね?結稀♡



「〜〜ッ!は、恥ずかしいよぉ…麗奈ぁ!」

「いいえ♪恥ずかしくなんかないですよ?だって…こんなにも可愛いらしいのですから♡」


 結稀の希望で、部屋の照明を切った後…薄暗闇が部屋を支配し、私達の声だけが木霊する。

 私は、暗闇に慣れた目を光らせながら…可愛らしいお姿となった結稀に、思わずうっとりとした声を出して褒め称えます。


 暗闇の中でも黄金のように輝く、結稀の象徴とも言える髪に触れて…もう片方の手は、しなやかですっきりとしたお腹に優しく当てます…。


 すりすりと…全ての指に意識を向けて、白く美しい肌の感触を撫でながら味わいます。

 結稀はお腹を触られることに、不満と羞恥を浮かべていましたが、そんな感情を表す必要などありません…。


 だって…あなたの、結稀の全てを見て、私が嫌がることなどないのですから。


「結稀♡」

「う、うぅっ…」

「ほら、恥ずかしがってないで…その足を開いてください♡」

「………で、でも」

「でもじゃないです、結稀だって…もう我慢出来ないのでしょう?それに、私だって…ほら」


 結稀の手を取ると、そのまま下の方に移動させます。


「…わ、すごい濡れてる」


 そして、ぴとっと…結稀の指が触れたのは、私の秘部…。

 とろとろと、我慢が出来ずに溢れた…大切な場所。


「ね?結稀と早く交わりたいって…ずっと思ってるんです♡ですから…ほら、結稀…足を開いて…」

「さ、囁やくの…きん、しぃっ…♡」


 ぽしょぽしょと結稀の可愛らしい耳に囁き掛けて、足を開くよう命じると結稀は恐る恐る足を開く。

 結稀も…私と同じで、我慢が出来ない様子で愛液で溢れていました…♡


「ふふっ♡お互い爆発寸前ですね♡」

「…あううっ…そ、そうだよぉっ!私だって、麗奈と…ごにょごにょ…するの、楽しみに…してたもん……」

「ん?なんて言ったのか聞こえませんでした♪」

「き、聞こえてたでしょ!その反応!」


 んにゃぁ!と照れているのか怒っているのか分からない様子で結稀が暴れますが、私は頬を緩ませながら、はてさてなんのことやら?ととぼけます。


「聞こえていませんでしたので♪ほら、もう一度言って?結稀♡」

「…こ、このぉっ!」

「ふふっ♪はやくはやく♪」

「…ほ、ほんとは…卑屈になって、嫌われるの怖がってたけどぉっ!」

「けど?」

「麗奈に抱かれるの…楽しみにしてたんだよぉっ!」


 ぞくぞくっと…照れて叫ぶ結稀の姿を見て、私は恍惚とした笑みを浮かべます。

 ああっ…なんて可愛いのでしょう?なんて愛らしいのでしょうっ!?

 

 このような一面を見てしまったらもう!


「ふふっ♪よく言えました♡」

「ちょあっ、麗っ…んっ♡あむ、んぁっ…♡あちゅ…んむ、っあ♡れぃ、なぁっ♡」


 抱き潰したくなるじゃないですか…♡



3日ほど投稿遅れてすみませんでした。

少し体調悪くしてたので書くことが出来なかったのと、純粋にどう話を展開したらいいのか悩んでました。


本当なら、ここで二人がすることはなかったはずなのですが……なんか自分の知らないところでものすごいスピードで進展してますね…。

なんなんだこの二人……。


話の流れを考えても、二人がことごとくその先を行くせいでうまく書けない状態が続いていますが、まだまだ続きます。

投稿頻度は以前より落ちます。私生活の問題なので謝ることしか出来ません。

それでも、この二人と…あともう二人の関係を眺めていただいたら幸いです…それではまた。

 

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