第51話 断られたくらいなんだって
世界が止まっている。
時計の針が完全に停止したように、ウチらの世界は1秒たりとも時が刻まれない。
凍りついたとか、そんな表現で表していいレベルじゃないこの状況で、ウチは停止した世界に声を上げた。
「はぁ?…なんでお前らが」
いるんだよ…と言い切る前に言葉が
台詞を続ける以前に、今ウチの状況って…相当やばくないか?と俯瞰して今の自分を見下ろす…。
今のウチをはたから見れば、凛ちゃんを追いかけ回して、それで壁ドンをして執拗に結婚を迫っているあぶねー女だ。
どこぞの金髪バカを真似たせいもあるが、こうして俯瞰して見てみれば相当ヤバいやつだと自分でも理解する。
つーか、こんな状況で二人に誤解されない方法があるのか?なんて聞いても、誰も「ない」とバッサリ答えるだろう。
そして、目の前の二人は驚愕から目を覚まして、目を輝かせて言うんだ…。
「お、朧ちゃんと柳生さんって…そうだったんだ…!」
「お二人がお知り合いなのは分かっていましたが…まさか、そこまで関係が発展しているなんて!」
「あ、いや…これはちがくて!」
両手をぶんぶんと振って否定する。
加速する勘違いに必死に否定しながら、なんとか誤解を解こうとウチは学のない脳を必死に回転させる。
ウチが結婚を言い出したのはあくまでも手段のためだ…!
酷いことを言っているのは分かってる、でもウチは…ただ純粋に凛ちゃんの笑顔が見たいだけ。
その為なら、嘘だろうが何だろうが言ってみせる。
でも、今この場で二人に説明したところで意味はないだろう。
というか、この二人は天才のくせにバカなとこあるし…。
「…その、まあ冗談みたいな?」
「いやいや!そんなので誤魔化せないからね朧ちゃん!」
「そうですよ!柳生さんも説明してください!」
「わ、私ですか!?」
ドキッと話を振られた凛ちゃんが肩を飛び上がらせて天城の方を見る。
天城は「早く説明してください」と興味津々な目で、
「と、突然…告白されました」
「なんとっ!」
「まあっ!」
「いや、だからそれは…!」
驚きを隠すように手で口元を覆う二人を見て、ウチは
だけど、それよりも早く凛ちゃんはウチの方をチラリと見て言った。
「最初は、何かの冗談なのかと思ったのですが、目が本気と言いますか…冗談を言っているようには見えなくて…」
「それで?なんで柳生さんは逃げてたの?」
「そうです!私達は逃げてる柳生さんを見て追いかけて来たんです!」
「み、見られてたんですね…。その、どうして告白されたのか分からなかったのと…頭の整理をしたくて逃げ出したと言いますか…」
じわじわと溶け出した氷みたいに、慌てた様子で凛ちゃんは心境を語る。
平坦な声とは違う、困惑と驚愕で早口になった声で言っていると、ユウキが声を上げた。
「それで、柳生さんは考えが整理出来たの?」
「…それがまだ分からないんです…。どうして朧さんが私に告白してきたのか、まだ分からなくて…」
「それに…私は大人です、歳の離れた朧さんの想いに
ウチを見ながら、たどたどしい声でそう言うと凛ちゃんはふいっと視線を逸らす。
「だから、逃げてたのか…」
「はい…その、朧さんは本当に私と…そのような関係を望んでいるのですか?」
「…そうだよ、ウチは凛ちゃんの笑顔が見たい。その為ならウチはなんだってする」
真剣な眼差しでそう言い切ると、凛ちゃんの頬が僅かに熱を帯びた。
氷が、少しずつ溶け始めてる…。
堅牢なその外面から垣間見えるその表情に、ウチの心は更にときめいて…凛ちゃんの手を取った。
「だから、とりあえず逃げんな」
「は、はい…」
ぎゅっと、掴んでいた手の力が強くなる。
凛ちゃんはか細い声でこくりと頷くと、その姿を見てウチは一息吐く…。
どうやら、もう逃げる気はないようだと一安心したのも束の間…そういえばとウチは思い出す。
「…つか、いつまでいんだよ」
ギロッとウチらを囲って見ていた金髪とお嬢様を相手に、ウチは睨みつける。
二人はびくっと小動物みたいに体を縮こまらせて驚くと、金髪を揺らしてユウキが抗議の声を上げた。
「だ、だって気になるじゃん!」
「そうですよ!このような場を見せられて帰る人などいませんよ!」
「み、見せ物じゃねえんだよッ!」
天城達の恋愛を嬉々として見てるウチが言うのもあれだが、二人の邪魔者を追い返そうとウチはキレ散らかしながら、しっしっと追い払う。
二人はキャンキャンと鳴いていたが、知るかと無視して追い払う。
ったく…めんどくさいやつらだ。
手をぱんぱんっと叩いてから、疲れのあまりに肩を落とす。
でも、これで邪魔者はいなくなった。
息を吐きながら振り返ると、そこには居心地が悪そうに佇む凛ちゃんがいた。
そんな凛ちゃんに近付いて、ウチは口を開く…。
「とりあえず…その、凛ちゃん」
「はい」
「返事…聞かせてよ」
恥ずかしさを隠しながらも…隠せなくて。
響く心臓の鼓動に耳を傾けながら、ウチの目はジッと凛ちゃんの方だけを向いている。
それで、ウチと違って凛ちゃんは、なんて言葉を返したらいいのか分からないようで視線があっちこっちと忙しなかった。
頬を染めて、少し溶けた様子で凛ちゃんがあたふたとしていると…決心が決まったのかウチを見つめる。そして。
「その……私は朧さんの気持ちに応えられません」
凛ちゃんはそう言って、頭を下げた。
「そもそも、私とあなたは大人と子供…明確な差があります。お気持ちは嬉しいのですが、私にはそのラインを超えることはできません」
「………」
つまり、ウチの想いに応えてくれないのは子供と大人だからなのか…。
頭を下げる凛ちゃんに、私は不思議と冷静でそんなことを思っていた。
というより、そこに焦りはなかった。
だってそうじゃん…断る理由が年齢との差なら……。
「なら、その差がどうでもよくなっちまうくらい凛ちゃんを堕としてしまえば問題ないってことじゃん」
「へ?」
「流石にど直球に断られたらどーしよーとか考えてたけど、なんだ年齢の差かよ…」
「いや、いやいや…!朧さん、何を言って!」
目を点にして驚く凛ちゃんに向かって、ウチはニヤッと子供っぽい笑みを浮かべる。
凛ちゃんは年齢の差で悩んでるみたいだけど、ウチの目的は凛ちゃんが笑顔になる事だ。
ならそんなの関係無しにガンガン行っちまえば簡単だろ?
「わるいけど、たかが年齢の差でウチが諦めると思ってんの?」
「い、いや…でも」
「いやもでももないでしょ?まぁ、そうやってイヤイヤがってなよ、ウチが絶対に凛ちゃんを堕とす♪」
これは確定事項だと言わんばかりに言い切って、ウチは更に口角を上げる。
凛ちゃんは驚いた様子でぽかんとしていると、その隙をついて頬に触れる…。
「え?朧さん…なにを……」
そして、背伸びをしながら顔を近づけて…。
ちゅっと…もう片方の頬に音が弾けた。
「へへっ、口にされると思った?思っただろ〜♪」
「なっ…!」
ほのかに赤くなった頬を見て、悪戯成功と言わんばかりに、にやける。
凛ちゃんは声にもならない声をあげて驚いていると、じろっとウチを睨んだ。
「と、突然なんですか!」
「なにって、頬にキスだけど?別に減るもんじゃないし、いーじゃん」
「よ、よくありません…!といいますか、私ちゃんと断りましたよね!?」
「断られたけど、別に潔く諦めるとかウチ一言も言ってねーからなぁ」
それに、例えなにを言われたってウチは諦めるつもりはないしな。
ふるふると震える凛ちゃんを見て、ウチはそんな凛ちゃんを指さす。
そして、声を高らかに宣言した。
「言っておくが、告白に応えてくれなかっただけでウチが諦めるなんてありえねーからな」
「そんで、ウチは絶対凛ちゃんを笑顔にしてみせる…!一度断られたからって諦めてたまるか!」
だから覚悟しろ!とウチは言い切る。
その宣言は、夏の暑さを吹き飛ばすほど活気に満ち溢れていた。
久々に燃え上がる心を胸に、ウチの視線は凛ちゃんだけを見つめている。
これが、ウチと凛ちゃんの始まり。
そして、両者が恋に堕ちる一歩手前の…そんな恋のスタートラインだ。
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