第50話 迫れケッコン!

 

 ──ある日、一匹の龍は氷漬けにされた一輪の花に出会いました。

 最初こそは興味こそ無かったものの、気がつけばその龍は氷漬けの花に夢中でした。


 一体どんな花を見せてくれるのだろう?


 そう思った龍は氷が溶けるのを待ちます。

 ですが、長い時間氷に閉ざされたその花に溶ける兆しはあれど、完全に溶ける気配はありませんでした。

 龍は、早く満開の姿を見たいと考えます。

 であれば、どうにかしてその氷を溶かしてしまおうと考えました。

 

 そして、龍は考えた先に、自身の吐息ブレスで花を覆うその氷を溶かしてしまおうと考えたのです。

 どんな物をも溶かしてしまうそのブレスは、果たして氷を溶かすことは出来るのでしょうか?

 これは、そんな一匹の龍が氷に閉ざされた一輪の花の氷を溶かすお話……。

 


 ──結婚を前提に親友にならねえ?

 

 ウチの口から発せられたものは、ウチ自身信じられないものだった。

 それは、歴史的に稀な大寒波とか、何でも凍らしちまう絶対零度みてぇにウチと凛ちゃんの世界を氷の世界へと変えた。


「……えっと」

「おう」


 表情一つ変えずに、凛ちゃんは頬を掻く。

 目線は左右を反復横跳びするみてぇに動き回っていて、とにかくせわしない。

 声はいつもより上擦っていて、長い間延びが続いた後…凛ちゃんは頬を掻くのをやめて、振り返った。


「か、考えさせてください!!」

「は、はぁっ!?凛ちゃん!!」


 大きな声と共に水飛沫みずしぶきが踊る。

 それはまるで、モーセが海を割るかのように、プールを全速力で横断する凛ちゃんの姿がウチの姿に映っていた。

 なんだその力業ちからわざ!?

 たま飛び出る勢いで凛ちゃんの後ろ姿を追っていたウチは、そのまま呆気からんとしていると、本題を思い出す。


 そうだ、ウチは決めただろ。

 

 ──凛ちゃんの笑顔を見る。


 あの冷たい顔から、今よりももっと咲き誇るような…そんな笑顔を見たい。

 だから、そのために人間嫌いのお嬢様を恋愛バカにしちまう金色バカの行動を参考にしたんだが……。


「しくったかもしれねぇ……」


 参考元を間違えたか?

 まぁ、あれは悪い見本例みたいなもんだしな…と若干の後悔を覚えつつも、ウチは今もプールを爆走する凛ちゃんを追いかける。

 

 くそっ!凛ちゃんクソ速い!!

 純粋な体力差とか、筋力差でウチが追いつく暇がない。

 むしろどんどんと距離が離されつつある!


「くっっそ!!人が告白してんのに逃げるやつがあるかよぉっ!!」


 ──正直に言っちまうと、結婚する気があるか?と問われると「ない」と答える。

 そりゃそうだ、ウチはあの金色バカユウキとは違って思考が突飛な訳じゃない。


 まあ、もし凛ちゃんと結婚を迫られたりしたならウチは考えは揺らぐだろうな。

 でも、どうして「結婚を前提に」なんて答えたのか?と言われると、そうでもしないと凛ちゃんの氷を溶かすことは出来ないだろうと考えたからだ。


 氷を溶かすのに必要なのは、ユウキみたいな突飛な行動力と思考だ。

 ウチもユウキみてぇに『結婚』というとんでもワードを付け足せば、凛ちゃんの表情が少しでも揺らぐと考えたんだが……。


「まさか、照れる訳でもなく逃げるとか…」


 はぁーー…と特大級の溜息を吐きながら、ウチはガッカリと肩を落とす。

 凛ちゃんの姿は完全に見失って、ウチは広々としたプールの中央で息を切らしながら立ち尽くしていた……。


 しっかし、この感じだと…話を進めるのに時間が掛かりそうだな。

 というか、そもそもの問題で凛ちゃんは話を聞いてくれんのか?


「けどまあ、やるしかないよな…それで、今やるべきことは…!」


 凛ちゃんを見つけないとな!



「ね、ねぇ麗奈ぁ…やっぱりやめない?」

「急にそんなことを言われましても、もう次は私達の番ですよ?」

「そ、そうなんだけどさぁ〜!!」


 ぎゅう〜っと麗奈の身体を抱きしめながら、ふるふると捨てられた子犬みたいな声を出しているのは…そう私。

 麗奈とウォータースライダーに乗ろう!なんて言い出した私は、勢いに任せて長い行列を並んでたんだけど…。


 それが段々と怖くなって来たと言うか…。

 ウォータースライダーって結構高い位置にあるんだよね〜…。

 なにこれ、見上げてた時は大したことないな!なんて思ってたけど、いざ来てみたらめ〜〜っちゃ怖いんだけどぉっ!?


「わ、私別に高所恐怖症な訳じゃないんだけどさ…!こういうところって怖くない!?急にグラってなったらどーしよー!とかなるくない!?」

「そ、そんなこと言い出すと連想して私まで怖くなるじゃないですか!」


 やめてください!と眉を寄せて怒る麗奈に私は震え声を絞らせて「ごめぇん…」と弱々しく答える。

 そんな私を見てた麗奈は、可愛いなんて思ったのか頬を染めてから…私の腰に手を回した。


「きゃっ!」


 ぐいっと身体が引っ張られる。

 口から可愛い声が出て、思わず恥ずかしがっていると、私達は密着するように抱き合う。

 麗奈の良い匂いが…鼻をかすめた。


「怖いなら、私に抱きついていてください」

「へっ!?」

「私は、結稀さんが大切なのでそんな怖がる姿を見たくはないんです。だから、私に抱きついていれば少しは怖さがやわらぐでしょう?」

「ひゃっ!」


 あまりのイケメンぶりに…心がドッキン。

 いつもの可愛い姿からは想像できないような、凛々しくてカッコいい麗奈の姿に私の心臓は鷲掴みにされてしまう…!

 え、なにこの子!なにこの許嫁!!

 私の麗奈…めっちゃカッコかわいいんてすけどぉっ!!


「だからほら、結稀さん…もう少し抱きついてもいいんですよ?」


 キュンキュンしてると、麗奈はクスッと微笑んでそう言う。

 な、なんだとこのお嬢様〜!なら遠慮なく抱きついちゃうぞ〜っ!!


「…な、なら!お言葉に甘えて抱きついちゃうからね!」

「はい♪来てください……って、ちょっと抱きつきすぎでは!?」


 わわっ!と慌てる麗奈の声が聞こえてくるけど、そんなこと知ったことかと麗奈の背中に手を回して、胸を押し付ける勢いで抱きしめる。

 このドキドキとうるさい心臓の音が、このまま麗奈に伝われーーってくらい密着し合うと、麗奈は予想外だったのか顔を赤らめる。


「な、まさか…結稀さんからこんな抱きしめてくれるなんて…!」

「なにさ、私が抱きつくのこんなに意外?」

「その、はい…普段は結稀さんの恥ずかしがる姿しか見ないので…私が攻めても尚ぐいぐい来るなんて思いもしませんでした」

「ふふっ♪それは舐めすぎだよ麗奈!だって私はぁ、麗奈に恋する乙女なんだからさー!」


 むきゅうー!って更に身体を押し付ける。

 肌と肌の境界線がわかんなくなっちゃうくらい密着しあって、お互いの体温にドキドキしていると、腰に手を回していた麗奈の手が…わずかに強くなる。


「…ず、ずるいです」

「ほんとのことだし?」

「……好きです、この場でなかったらその唇塞いでますよ…」

「私の首元に大量のあとつけてるくせに、よく言うよ」

「だって……結稀さんは私のものですよね?」

「…そーだよ?私は麗奈のものだよ?」


 ドキドキ胸が高鳴りながら、甘い言葉を囁き合う。

 頬が熱くて、恥ずかしい言葉が身体をくすぐる…。

 麗奈の熱い視線に思わずお腹の下がキュンってなって、私の頬は薪をくべたみたいに更に熱くなった。


「…肯定するの、ずるくないですか?」

「ずるくないよ?だって、麗奈は私のものなんでしょー?お互い自分のものなんだから…ずるくなんてない!ていうか…その…」

「どうしました?」

「わ、私も麗奈の首筋に…キスマークとか、つけてみたいな…」

「……!」


 くねくねと指をくねらせながら、麗奈の首筋を見つめながら私は言う。

 麗奈はびっくりしたのか目を見開くと、すぐに顔を手で覆って、大きな溜息を吐いて言葉を吐き出した。


「…そんなの、私からしてほしいくらいです!」

「じゃあさ…今からシちゃう?」

「そ、それはっ!」


 カッと麗奈の表情に苦悶が浮かぶ。

 我慢するような、唐突で準備が出来てないようなそんな顔を私に向けると、チラチラと周囲を見渡し始める。

 周囲は人ばっかり、こんなところでキスなんて出来るわけもない…。


 でも、いじらしく笑う私に麗奈は「ぐぬぬ…」って歯軋はぎしりするみたいに悔しがると、ふいっと視線を逸らした。


「こ、ここでは無理なので…後でお願いします」

「おお、我慢できた!」


 麗奈って私のことになると我慢できないのに、ちゃんと我慢できた!

 これは許嫁としても誇らしい!


「でも、私を煽った分…後で結稀さんをめちゃくちゃにしますから…!やめてって言ってもドロドロに溶かすまでやめませんからね…!」

「へっ!?そ、それはちょっとぉ…!」

「なんです?あれだけグイグイ来てたのに、随分としおらしくなったじゃないですか♪」


 にまにまと、気付かない内に攻守逆転…。

 麗奈の頬は緩みに緩んで、にまにまと私を見つめていると…私の耳に唇を近付ける。

 そして、脊髄を優しくなでるみたいな…ぞわぞわ〜ってする声で、麗奈は囁く。


「…覚悟しててくださいね?どれだけ汗とよだれだらしなく出しても…私は容赦はしませんから…♡」

「えあっと…その、今から謝っても…おそい?」

「ええ、遅いです♡確定事項なので♡」

「ひぇ〜〜〜〜っ!!」


 おちょくりすぎたーーーっ!!

 けど、後悔してももう遅い。

 まるで目標を狙い定めた飢えた獣みたいに、ギラギラとした瞳をしている麗奈はもう何を言っても聞かないと思う…。


 や、やりすぎた…と後悔する反面…実を言うと私は内心期待してた…♡


 ど、どろどろになるまでしてくれるんだ…♡

 麗奈はいじわるだから…きっとめちゃくちゃにしてくれるんだろうなぁ…♡


「……た、楽しみにしてるね?麗奈♡」

「っ!今日の結稀さん…やっぱり積極的すぎます!」


 へへっ♡だって私…さっきも言ったけど、恋する乙女だもーん♪



「はーい、次の人ー!」

「あ、はーい!」


 私達がいちゃいちゃしていると、係員の声が私達を呼んで…私は麗奈の手を引いて移動する。

 どうやら私達の番が来たみたいだ。


「このウォータースライダーは一人でも二人でも滑ることができます。でも、流れが激しいので抱きつきあうようにしてくださいね」

「へっ!?だ、だきつく!?」

「…へぇ♪」


 係員さんがサラッとそんなことを言い出して、私は驚く…。

 麗奈は興味深そうに声を弾ませると、私をチラリと見た。


「では、先程と同じように抱きつきましょうか?結稀さん♡」

「な、なんかイヤな予感するんだけどぉ!」

「イヤな予感はありませんよ?流れてる最中胸を…いえ、抱きつくだけですから♡」

「今胸って言い出さなかった!?」

「え?言ってませんよ?」


 言ったよねぇっ!?

 めっちゃはっきりと言ってたじゃん!


「ささっ!結稀さん、他の人達も待っているので行きましょうか♪」

「ちょっ、あっ!麗奈!どこ触ってんの!」


 むにゅっと私の胸に麗奈の白い指が当たってる。

 けど、私が声に出して言っても、麗奈は「きこえませーん」と言わんばかりに澄ました顔をしていた。


 そして、押されるままにウォータースライダーへの乗せられて…。


「ではいきましょうか♪」

「ちょっ、私まだ心の準備が!」

「大丈夫ですよ、私が付いてますから♪」

「きゅ、きゅうにイケメンになるなぁ!」


 ぎゅう〜っと麗奈に後ろから抱きつかれる。

 そして、そのまま私達の身体は下へと傾いていって……!


「ひっ!」


 ふわっと体重が一気に軽くなった。


「ひゃあああああああああぁぁぁぁああ!」


 め、めっちゃすべる!!

 めっちゃはやい!!

 めっちゃ胸揉まれてる!!


 頭の中でぐるぐると感想が回る。

 けど、私の喉からこれでもかと可愛い悲鳴が溢れていて、そんな私を麗奈は愛おしそうな眼差しで見ていた。

 ウォータースライダーより私のことしか見てない!!


 ある意味すごいな!と感心してる中で、麗奈は足を重ね合わせたり…身体を更に抱き寄せたりして密着してくる。

 

「ちょ、ちょちょちょ!麗奈なにしてんのさぁっ!」

「え?なにって、怖がってる結稀さんのために身を寄せてるんです♪」

「だ、だからってこんなに密着し合わなくてもいいじゃんかぁぁぁぁぁあああ!」


 シャーーッと悲鳴が木霊しながら、抱き合った私達は暗いトンネルを抜け出す。

 そして、トンネルから抜け出した先に眩いくらいの太陽が迎えて入れてくれて…!


 どっぼんっ!と水飛沫が私達を襲ったと同時に深い青の底に叩き落とされた。


「んむむむ〜〜!!」


 何事だ何事だと慌てふためきながら、握っていた麗奈の手を引いて水面に上がる。

  

「ぷはっ!あーーっ!めっちゃ怖かった!」

「かなりスピードがありましたね…そのおかげであまり触れませんでした…」

「…それでも、すごく胸揉んでたよね?」


 サッと胸を隠して、じとーっと睨む。

 麗奈は「さてなんのことだか…」とシラを切ってそっぽを向く。

 そう簡単に自供するわけないかぁ…。


 でも、初めてのウォータースライダー怖かったけど楽しかったな…!

 それに…実を言うと、麗奈に胸を揉まれてた時…ちょっと気持ちよかったなぁって思ったのは言わないでおこ……。


「じゃ、じゃあプールからあがろっか!ここにいたら人の邪魔になるしね!」

「そうですね…ってあれは柳生さん?」

「へ?あれ、ほんとだ」


 プールに上がろうとしていると、麗奈の視線の先に柳生さんが走ってるのが見えた。

 なんで走ってるんだろ…と疑問に思いながら、私と麗奈は顔を見合わせてうんと頷く。


「めっちゃきになるから見に行こう!」

「そうですね!」



 はぁ…はぁ…!

 息を切らしながら、ウチはウチから逃げる大人の背中を追いかけていた。

 一体どこまで走ってんだよ!と内心文句を呟きながら、追いかけていると…その背中はピタリと足を止めて立ち止まる。


「…い、行き止まり」

「もう逃げられねーぞ…凛ちゃん」

「…!」


 凛ちゃんの背後を取って、優位に立つ。

 これでもう逃げ場はねーぞと睨みを効かせながら立ち塞がると、ウチは息を整えながら凛ちゃんと視線を合わせる。


「…け、結婚って、どういうことですか」

「あ?そりゃ言葉通りだけど?」

「わ、私…大人なのですが!?」

「知ってる。でも、それ以前にウチは凛ちゃんが知りたい」

「…っ!」


 じりじりと、一歩一歩踏み込んでウチは凛ちゃんに近付く。

 凛ちゃんはおろおろと珍しく周囲を見渡して状況を把握していると、ウチはさせるかと言わんばかりに至近距離で凛ちゃんに密着する。


「逃げんじゃねーぞ?」

「に、にげるに決まってるじゃないですか…!大体…なんであのようなことを!」

「なんでってそりゃ、ウチは凛ちゃんのことがで気になってるからだろ?」

「なあっ…!」


 表情一つ変えない癖に、凛ちゃんは慌てふためくみてえに一歩後ずさる。

 だが、そうはさせねぇとウチは更に勢いに任せて…。


 ドンっ!


「いいから、決めろよ凛。ウチと結婚すんのか結婚しないのか」


 壁ドンをした。

 まさか、恋愛漫画を読み耽ってるウチがされるんじゃなくてする方をするなんてな…。

 しかし、こんなところ誰かに見られたりなんかされたらとんでもねー誤解受けそうだな。

 ウチ顔悪いし、大人に詰め寄るヤンキーとかに見られるんだろうか?


 ウチがそう思っていると、まるで空気を読んでいたかのように、ウチの背後で物音がした。

 ガタン…!と何かが倒れる音がする。

 なんだよ…と面倒臭気に振り返ると、そこには転がるゴミ箱と……。

 

「あ…」

「はわ、はわわわわわっ!!」

「まさか、お二人がそのような関係だったなんて…!」


 金色バカとお嬢様が…驚愕の表情に染めて、そこに立っていた。


最近は投稿できない頻度が続いてすみません

毎日投稿すると言っておきながら不甲斐ないです。


しかし、この物語…すきかんもようやく50話になりました。

結構走ったなーと思ってますが、その分書きたいものを書いてるのでネタ不足になってたりします…。


まあ、この章が終わって…あと2〜3章くらいすれば終わると思うので、このまま走り抜けたいと思います。



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