第47話 わたしのものにしてください
「ね、ねぇ…ここならさ、誰にも見られないよ」
一度更衣室に戻って、私と麗奈はシャワールームの個室に二人して入る。
シャワーはお金を入れると数分間水が出る仕様で、私の手には数枚ほどお金が握られている。
別に、今シャワーしたいって訳じゃないんだけど…これからする事を考えるとシャワーはあった方がいいから。
…私、自分からすごいこと言っちゃった。
今まで麗奈から迫られても、いつも逃げようとしてる癖に…私から、あんな恥ずかしすぎることを…。
『麗奈にマーキング…して、ほしいから…です』
脳裏にあの時の声が蘇って、頬に熱が帯び始める。
じゅう〜っとお肉が焼けそうなくらい熱くなった頬のまま、私はとにかく悶え苦しんでいた。
なんであんなこと言っちゃったんだ私!
マーキングしてほしいって、私を麗奈のものにしてって…告白してるようなものじゃんか!!
で、でも…麗奈のものになるのは…なぜだか少し、体がむずむずして悪くないかなって思ってる。
まあ、もう自分から言い出したんだから…今から「やっぱなし」だなんて言えるわけがない。
恥ずかしがってる場合じゃないよ私!と自分に
「結稀さん…本当に、いいんですね?」
麗奈は頬を染めあげて、真剣な瞳を私に向けて…うわずった声で尋ねてくる。
私はすかさずこくりと頷くと、麗奈の肩がぴくりと震えた。
「さ、最初に抱きしめていいですか?」
「…うん」
いつもはがつがつくる癖に、今の麗奈はかなり緊張してるみたいだった。
恐る恐る私に近付くと、麗奈の白く細い腕が私をそっと包容する…。
さっきの水の中とは違って、麗奈の温もりが直接伝わってくる。
「あったかい…」
「私は…あついです」
「恥ずかしいの?」
「はい…結稀さんから迫ってくるなんて、思いませんでしたから…今、すごくドキドキしてます」
わかるよ麗奈。
だって、とくとくって…麗奈の鼓動が私に伝わって来てるもの。
心臓がドキドキと高鳴っていて、もうどうしたらいいのかわかんないってくらい…麗奈の感情が伝わってくる。
それがすごく可愛らしくて…愛らしくて、ふへへって笑みが溢れちゃう。
「私も、すっごくドキドキしてるんだ…麗奈にも聴こえるかな?」
「はい、聴こえますよ」
えへへ…やっぱり聴こえちゃうよね?はずかしいなぁ。
でも、私のこの心音が麗奈に伝わってくれるのが…すごく嬉しかった。
今の気持ちがそのまま真っ直ぐ麗奈に伝わってくれてるのが、なんだか言葉を使わなくても通じ合ってるみたいで心地良い。
胸が張り裂けそうなくらい痛いのに、何言ってんだって思うけどさ。
「じゃ、じゃあさ…麗奈」
「はい…」
個室のシャワー室で、私達は熱の灯った瞳で見つめ合う…。
ゆったりゆらゆら…淫靡に揺れる瞳をお互いに見つめ合って、私はシャワーにお金を入れる。
そして、チャリンと音が流れると同時に…。
「私を…麗奈のものに、してください♡」
「はい♡わかりました♡」
そして、シャワーの音が私達を隠した。
それはカーテンのように私達の音を遮ると、私達はそのまま抱きついて崩れるようなキスをする。
あたたかいシャワーが私達を洗うけれど、一向に気にしない。
ただ、擦り付けるように体を抱きしめ合って唇を貪り続ける。
口の中が麗奈で満たされて、麗奈しかいなくなって…麗奈だけになって。
そのまま唇を離して、少し寂しい気持ちに襲われると…麗奈は私の首元に、噛み付くようなキスをした。
舐めて…口を付けて、吸い付くように私の肌を吸うと、麗奈の歯が私の肌を優しく噛み付く。
痛いのに…じんじんするのに、なのに気持ちいい。
噛まれてると、なぜかすっごく幸せな気分になって身体の奥がきゅんきゅんと疼き始めちゃう…♡
このまま、麗奈に食べられちゃいたい。
麗奈のお腹に私が入るなら、それは多分幸せなことなんだろうな…なぁんて、訳の分からない事を思いながら麗奈は満足したような顔でぺろりと舌舐めずりをしていた。
ああ、まだまだ続いちゃうんだ…。
麗奈の表情は、まだ足りないって表情をしてて、とろんと蕩けた瞳が私をじぃっと見つめてる。
どーしよ…すっごくきゅんきゅんしてる。
麗奈にそんな目で見られて、すごく興奮してる…。
私、そんな気なんてないのに…なのに麗奈に見られてると意識しちゃう…。
もっと、もっと
だ、だから…。
「ほ、ほら麗奈…まだ時間あるから、ね?来てよぉ…♡」
ジャーーっとシャワーの音をすり抜けるみたいに、私の声が個室に響く…。
麗奈は少し驚いた顔をすると、すぐに情欲で乱れたようなニヤリとした笑みを浮かべると…麗奈はすかさず私にキスをした。
さっきよりも激しく…私をめちゃくちゃにしちゃうくらい熱烈なキス。
このまま足腰が砕けて、スライムみたいに蕩けちゃいそう…。
それくらい、麗奈の愛が私を溶かすようなら熱さで私を抱きしめてくる。
きもちよくて、きゅんきゅんして…ドキドキして。
頭の中が麗奈で埋め尽くされて、視界も感情も理性もぜんぶぜーーんぶ麗奈に染まる。
麗奈のことしか…考えられなくなっちゃう♡
このままだと、何かに気付いちゃいそうなくらい…私は麗奈のことを考えていると。
「ぁ…」
気がつくとシャワーは止まっていた。
動かしたいならお金を入れろと、料金を入れると光る点灯ランプがだらけるように消えている。
まだしたかったのに…お金に律儀なやつだと、空気を読まずに止まったシャワーを見てから…私は麗奈の方へと視線を移した。
じっとりと…髪が濡れている。
頬に髪がくっついていて、無造作になってる。
それくらい、私に夢中だったんだってうれしくなって、心の奥がポカポカとあったかくなった。
「ね、ねぇ麗奈…」
「はい、なんですか?」
「そのさ…痕、付いてる?」
ここには鏡がないから、私からは確認出来ない。
でも、麗奈からなら明らかに見えるから、私は感想を聞いてみる。
すると、麗奈はあからさまに頬を赤らめてから、満足そうな笑みを浮かべるとステップを踏むみたいに、満足そうに言った。
「はい♡たっぷりと付いてますよ!」
「…そ、そっか…そっか、えへ…えへへ♡」
じわじわ〜って嬉しさが込み上げてくる。
だらしない笑みをこぼして、頬がゆるゆるになる。
私、麗奈のものになっちゃったんだ…!たくさん印つけられちゃった!
「す、すごくうれしいよ麗奈」
「ええ、すごく嬉しそうな顔をしていますからね結稀さん♪」
麗奈は私の頬を優しく撫でると、そのままするりと滑らかに移動して首元を撫でる。
「私…本当はこんなことしないように気をつけていたんです」
「結稀さんに嫌われたら、私は生きていけません。だからあまり過激なことはしないようにと心に決めてはいるのですが、その…」
麗奈は苦しそうな表情を浮かべて俯いていると、パッと上げて私を見上げる。
真剣な目つきで、思わずこっちまで真剣になりそうだ。
「やっぱり…結稀さんはえっちです…えっちすぎます!」
「あれっ!?急に怒られ始めた!」
「だ、だって結稀さんがえっちすぎるんです!さっきみたいに私を誘ってくるんですから!」
「れ、麗奈から先に誘ってきた気がするけど…まあ、うん私から誘ったしね」
確かに麗奈の言うとおり…私は、えっちな女の子なんだと思う。
で、でもっ!
「わ、私がえっちになったのは麗奈がいけないんだからね!い、いつも麗奈にキスばっかりされて…私、おかしくなっちゃったんだから!」
私が今言ってるのは、八つ当たりみたいなもの。
でも、突然えっちなんて言われたら言い返すしかないじゃん。
「だ、だから…責任とって」
「へっ!?せ、責任…ですか!?」
「いやなの?」
「い、いやなわけないです…むしろ責任取らせて欲しいくらいです!」
むっと麗奈が前に出て言うと、私の手をぎゅっと握りしめる…。
そして、麗奈は私をまじまじと見て…。
「結稀さん、私…やっぱり我慢できないので、これからも結稀さんに迷惑をかけます、ですから」
「うん…」
「責任取ります、結稀さんを幸せにするので私のものになってください結稀さん…そして、私を結稀さんのものにしてください…!」
ね、熱烈なプロポーズだ…。
こんなまじまじと、狭い空間でされるなんて思ってもみなかった…。
でも、すごくドキドキして…すごくきゅんきゅんしてる。
私、恋愛の好きは知らないはずなのに麗奈のことが、麗奈のことが…!
「…うん、私を麗奈のものにしてほしい…それで、私のものになって?麗奈」
麗奈の唇を奪う。
私、身長高いから…だから、私から奪う。
もう何度もしたはずなのに、いつも以上に甘くて…心が滲むような感覚がする。
こんなにもドキドキするんだ…。
こんなにもキュンキュンするんだ……。
麗奈のこと、大切で可愛くて好きだけど…それは友達に向ける好きだったのに気がついたら私…私。
麗奈のこと…好きになってたんだ。
私、麗奈のことが……。
「麗奈……」
「はい、なんですか?」
「好き」
「私も、好きですよ♡」
どーしよ…これが、好きなんだ。
胸が爆発するくらいドキドキしてる!!
やばい、やばいよ!麗奈が可愛くて…仕方がないよっ!!
ドキドキ高鳴る胸を秘めて、私は心の中で叫びを上げる。
私はついに気付いてしまった、というか気付くのが遅すぎた。
もうすっかりと勘違いは解消出来ないくらい深く根付いて、私の恋はとにかく遅い。
亀よりもなめくじよりも、ナマケモノよりもめっちゃ遅い…。
でも、その日…確かに私の恋は。
ここからスタートしたのだ。
※
ちょっと早すぎる気もするけど、自分が思っていたよりも柴辻は自分の気持ちを理解していたようです。
まあ、あれだけM気質だと気付かない訳ないかとは思いますけどね。
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