第45話 プールへゆこう!②

 

 柳生さんからプールのお誘いの話を聞いた私は、麗奈と話し合った結果水着を買いに行こうという話になった。

 それから柳生さんに許可を貰って、麗奈と一緒にモールへとやってきて、水着エリアの試着室でいちゃいちゃと選んでいたのだけど……。


「さあさあ!次はこれを着てみてください結稀さん!」

「んへぇ…まだ着るのぉ?」


 疲労でふにゃけた声が喉からへにゃあっとこぼれ出る。

 体力自慢な私だけど、流石に長時間も水着選びに付き合わされて…肩がだらんと降下中。

 表情も疲れが出ていて、今は少しだけ休憩したい…そう思いながら、麗奈は両手に水着を持ってずずいっと迫ってきた。


「ふふっ♪これも似合いますし、あれも似合いますね!やっぱり結稀さんはどれを着ても素晴らしいです!」

「ほ、褒めてくれてありがとう麗奈…ところで麗奈は自分の水着を選ばなくてもいいの?」


 苦し紛れに、話題を変えようと口にすると麗奈は「はて?」と首を傾げる。

 すると、ああ…そういえばと思い出すような表情を浮かべるとニコッと笑顔で返された。


「そんなこと、今はどうでもよくないですか?」

「どうでもよくないよぉっ!?」


 今をときめく女子高生だよ!?夏は水着がステータスなんだよ!?

 麗奈ってば自分に関心なさすぎだよ!


「そんな驚かなくても良いではないですか♪だって、私は自分のことよりも… 結稀さんが最優先なんですから♡」

「〜〜っ!」


 つぅーっとはだけた胸に指を滑らせて、麗奈はクスッと悪戯っぽく笑う。

 少し大人っぽさの混ざったその微笑にドキッと思わずときめいて…私は身を震わせる。


 こんなにも綺麗だからこそ、私は麗奈の水着姿が見たいのになぁ…なんて心の中で思いながら、私は恥ずかしさで目を逸らす。

 

「恥ずかしがる結稀さん…かわいいです♡」

「い、言わないでよぉ…」


 じわじわ〜って羞恥心がにじむように湧き上がる。

 目を逸らしたまま、私は小さな声で言うけれど麗奈にとってはガソリンみたいなもので…胸に当てていた指がくるりと回転した。


 滑らかに、指が私の胸の上で踊る。

 まるで舞踏を踏むようにくるりとターンを決めると、くすぐるように下の方へと下降する…。

 そうして、小さな指が…わずかに大きくなったら突起を撫でると、大きく花開くように麗奈の両手が優しく胸に触れた。


「んっ…♡」


 麗奈の指遣いと…触れ方にじわあっと波が広がる。

 きゅっと閉めてた唇の隙間から、僅かに甘い声が溢れると頬を桜色に染めた麗奈の唇が僅かにニヤリと歪む。


「ふふっ♡」

「た、楽しまないでよっ…」


 楽しんでる麗奈にあらがうように私がそう言うと、麗奈は「そうですね、ここは公共の場所ですから」と言って、掴んでいた手をそっと手放す。

 

「えっ…」


 もっと、続けるものかと思ってたのに…。

 じわじわとした波が…手を引くように過ぎ去ってく。

 なんで?と問うように麗奈を見つめると、麗奈はにまぁ〜っと唇をゆるませて笑っていた。


「どうしたんですか?もしかして、少し残念と思ってません?」

「へ!?あ、いや…そんなの、思ってないよ?た、ただ麗奈があっさりと手を引くから…驚いただけで!」

「ええ、あまり大きな事をしてしまえば他の人にも、結稀さんにも迷惑ですからね」


 ニコニコ笑顔でそう言いながら、麗奈はくるりと身を翻すと試着室から出ていく…。

 さっきまで一緒にいたのに、麗奈はあっさりと私から離れてくと、麗奈は私の反応を見て頬をピンクに染めて、にまぁっとにやける。


「結稀さん、寂しそうですね♡」

「え?」


 麗奈に言われて、私は顔に触れる。

 ぺたぺたと触るけど、どこも異常がなくて…試着室に取り付けられている鏡を見た。

 

 なんだろ、大好物のお菓子を…目の前で失った子供みたいな、おやつを他の子に取られた犬みたいな…。

 他の人からすれば笑えちゃう表情で、だけど当人からしたら悲しすぎるもので…。


 要するに、私…麗奈が離れてすっごく寂しそうな顔をしてた。


「まるで物足りなさそうな顔をしてますが…続き、しますか?」

「い、いやそのっ!こ、これは違くて」

「どこが違うんですか?」

「それは…」


 歯痒そうな笑みで麗奈が近付いてくる。

 ウキウキと肩が踊っていて、とても上機嫌な様子。

 私はと言うと…このよく分からないもやもや〜っとした感情の言い訳を、超特急で考えていた。


「あの、その…えっとぉ!」


 でも、どれだけ喉を絞っても納得できるような言い訳はでてこない。

 そもそも、どうして私が寂しそうな顔をしてたのか私自身分かってないのに、言い訳なんて出る訳なかった!


 あんな顔するなんて…私、麗奈にあんなことされて、知らぬ間に喜んでたのかな?

 た、確かに麗奈と一緒にいるとすごく安心する、優しくて甘い匂いがするし…麗奈に迫られても悪い気はしない。


 ちょっとやりすぎなとこはあるけど、それでも私が好きなんだなぁで許せてた。

 というか…ぶ、ぶっちゃけると気持ち良かったところは……あるっちゃある。


 いや、そのえっと…認めたくないけどぉ、麗奈にえっちなことされるの…ちょっといいかなって思ってたりするの!

 でもそんなの言えるわけないじゃん!

 正直に言ったら麗奈に何されるかわかんないよぉ!


 てか、なんで私ってば顔に出しちゃうの!

 私って気が付けばそんなえっちな子になっちゃってたワケ?

 いや、いやいや…そもそも麗奈がいつもあんなことばかりしてる訳で…それでいつも気持ちよくなってって…何考えてんのさ私!


「と、ととととりあえずっ!水着を選びに来たんでしょ!ならさっさと買おうよ!」


 うにゃああああっ!と真っ赤に噴火する顔で私は無理矢理話題を元に戻す。

 すると、麗奈はケロッとした表情で言った。


「そうですね♪ 結稀さんにもう少しお話を聞きたかったのですが、あまり長居しても仕方ないですもの」

「あ、案外あっさり…」


 あっさりと麗奈が一歩引くと、商品棚から両手に水着を持って私に詰め寄る。

 そして、私にしか見せてくれない人懐っこい笑顔で、私に渡して来た。


「では、次はこれを着てみてください♪」

「い、一番最初に戻った!」


 そして、また麗奈主催の水着ファッションショーが開催されるのだった…。



 燦々さんさんと煌めく太陽は、私の元気すら上塗りして…青の絵の具を垂れ流したような空の上で私達を痛めつけてる。

 もしも、今日がなんてことのなーい日常なら「うへぇ…勘弁してよー」と泣き言を溢すに違いない。


 だけど、私の目の前には太陽の光を反射してゆらめく…巨大プールが広がってる!

 しかも、昨日長考の果てに買った少し派手な水着を着て、私達はプールに来た!


「ふぉぉぉぉっ!これが夢にまで見たアトラクション盛りだくさんなプール!」

「結稀さん、プールにはあまり来たことが無いんですか?」

「こういうところはね?基本、10円くらいで入れる市民プールとかで遊んでたから、こういう遊べるようなとこ、初めてなんだぁ!」


 高級そうな、白の水着を着た麗奈が私の横に立って聞いてくる。

 ほんと…去年までの私にとってのプールって10円とかで入れるボロボロの市民プールだけなんだよね…。

 とても遊べるような場所でもないし、私以外立ち寄ってる子なんていないから、こういうところに憧れを抱いてたけど…まさか!


 あの頃想い描いてたシチュエーションが来るなんて!


「ほらほら!二人とも来てよー!」


 くるっと翻って、後に続いてやってくる二人を両手をぶんぶんと振って呼び掛ける。

 すると、少し鋭い声が返って来た。


「元気ありすぎだろユウキ…てか凛ちゃん、ウチまで来て良かったん?」

「そもそも、朧さんがくれたものですよ?呼ばないのがおかしいと思いますけど」

「あれ…町内会のくじ引きで当てただけのやつなんだけどなぁ…」


 下に水着、上にフード付きパーカーを着た朧ちゃんは何やら柳生さんと話しながら気怠そうにやってくる。

 その隣を歩いてる柳生さんは、なんていうか…すっごく絵になる人で、ぎょっと驚く。


 中性的な顔もそうだけど。

 やっぱりスタイルが良すぎて行き交う人の視線を釘付けにしてるし、黒のビキニというのが…なんていうか大人っぽくてかっこいい!


 そうして、二人が私達の前に立つと朧ちゃんが納得いかなそうな表情で私を見て言った。


「焼肉の時もそうだけど、別にウチ関係なくね?」

「いやいやぁ!関係あるよー!超ある!」


 だって私の友達だもんねーっと肩をぺちぺち叩いてから、無理矢理納得させる。

 けど、そう上手くいくわけもなく朧ちゃんは「あるわけないだろ…」と呟いて、私と麗奈を交互に見ると…フッと笑う。


「まぁ、ウチはそこまで遊ぶ気はないけど楽しませてもらうよ」

「へ?たのしむ?どゆこと?」

「ウチにとっては二人が娯楽ってこと」

「???」


 ちょっとよく分かんないけど、これで四人揃った訳だし、私は麗奈の手を掴んで走り出す。

 夢にまで見たこの光景に、胸を弾ませながら私は駆け出した。




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