第42話 おませなふたり①
それから、お嬢様からのセクハラまがいなお願いはいつまでも続いた。
身体を洗って、逃げるように飛び出た後は夕食の時間で…その時は麗奈から「あーんしてください♡」ってお願いされて、あーんをして食べさせたりもした。
それから、屋敷の周りをぐるっと回って異常がないか見回りをしたあと、ようやくお仕事が終わって…私は「はふぅ」と息を吐きながら倒れ伏す。
「随分とお疲れですね柴辻様」
「はい…仕事がきつかったのもそうだけど、やっぱり麗奈のお願いが恥ずかしくて…」
「ふふっ、大変そうでしたね」
私が苦笑混じりにそう言うと、柳生さんは全部知っていたみたいに微笑を浮かべてそう言った。
もしかして、私と麗奈があんなことしてたの全部知ってたんですか!?
「そう驚いた顔をしないでください。なにせ、お二方の声が私の耳に届くのですから」
「へっ!?」
柳生さんが苦笑をこぼして、申し訳なさそうに顔をしかめる。
「まあ、そうですね…少し、お声を下げてもらえれば良いと思います」
「……あ、あの、もしかして私達の今までのやりとり…全部聴こえてました?」
気まずく笑う柳生さんに、私は恐る恐る聞いてみる。
柳生さんはくるっと私の方を向くと、少しだけ沈黙が訪れて…そしてすぐあとにぎこちない笑顔で「はい」と答えた。
「〜〜〜っ!」
柳生さんの表情を見て、顔が火山爆発みたいに急激に熱が覆う。
ぼんっ!!と爆発音と共に煙が私の頭に現れると、私は力無くへにゃへにゃ〜…とその場で倒れ伏した。
あ、足腰の力が出ないぃ…。
燃える顔を両手で隠して、うわごとのように…だけど大きな声で叫びをあげる。
「んにゃぁぁああああ〜〜〜ッ!!」
はずいはずいはずいっ!!
くそはずい、なまらはずい、テラはずい!!
ぐにゃあ〜っとムンクの叫びみたいに身体を歪ませて、間延びした猫の鳴き声染みた叫び声が喉を絞って溢れ出る。
柳生さん…全部知ってた上で黙ってたんだ…!
いやまああんなに声を荒げてたら聴こえるに決まってるよね!そうだよね!!
でも、後になって知らされると恥ずかしすぎるよ!!ひどいよ柳生さん!!!
どーせなら、知らないままでよかった…と倒れ伏したまま私は思った。
「い、言う必要のないことを言ってしまいましたね」
「そーですよぉ…黙ってるなら黙っててほしかったです…」
柳生さんの申し訳なさそうな声が聞こえる。
私は同意しながらこくこくと頷いてから、メイド服についた埃を落として立ち上がる。
「と、とりあえずっ!今日はありがとうございました!明日はもっと頑張るので見ててくださいね!」
「ふふ、切り替わりが早いですね」
「それが取り柄ですから!」
気持ち切り替えて、私は更衣室に行く。
それから服に着替えて、メイド服を柳生さんに渡すと、私はもう一度柳生さんにぺこりと礼をして、部屋を出た。
さて、お仕事は終わったけれど…これからもっと大変だぞぉ…。
ごくりと息を呑んで、私は決意する。
なにせ、今日から一週間私が寝泊まりする部屋は麗奈の部屋だ。
なにかの都合…もとい麗奈の陰謀によって無理矢理麗奈の部屋に泊まる事になったんだけど。
ほら、麗奈ってえっちじゃん…。
私の胸大好きだし…キスも好きだし…私大好き好き好きお嬢様じゃん?
つまりその……。
「貞操の…ピンチ…みたいなこと、起きたり……して?」
いや、まぁ…女同士でそんなことないけどさ?
いやでも、麗奈ならやりかねないよねぇ…と苦笑を浮かべながら、私は麗奈の部屋へと歩き出す。
ま、まぁその場その場でどうにかがんばろー!!
…がんばれるかなぁ。
◇
私は女性が好きという訳ではありません。
ですが、結稀さんに興奮する理由は純粋に結稀さんの事が好きだからです。
好きだからこそ大切にしたいと思い、尚且つ触れたいと思う…。
その欲求が強まれば強まるほど、私はもっと結稀さんに触れたくなるのです。
もっと深く、奥深くへと…私しか触れた事のない未知の場所を目指して、この手で開拓したくなる。
この細い指が…結稀さんの肌を、胸を、結稀さん自身触れた事ない場所を触れる。
そう考えるたびに…喉が渇くような渇きを覚え、じくじくと身体が疼き始めます。
それは好奇心と愛情からくる性欲。
私は、自分自身を冷たい人間だと評価しているつもりでした。
人と関わることを何より避け、自分だけを信じる「人」という存在ではない生き方をする者…そう思っていたのに。
どうして、たった一人の女性に…結稀さんにこうも翻弄されるのでしょう?
本来の自分の生き方すらも放り投げて、理性を跳ね除けて感情と欲望のままに行動するのでしょう?
今の私はまるで獣同然です。
自分自身を責めてしまいたい気分になります。
ですが、それでもと…今の私は止まることが出来ない。
どれだけ自分自身を思い返しても、見つめ直しても…やっぱり私は元に戻ることが出来ないし、結論は同じものになる。
やっぱり私は、結稀さんが心の奥底で好きなんです。
一緒にいないと空虚な気分になりますし、一緒にいるとステップを踏みたくなるくらい幸せになってしまう。
太陽のように笑う結稀さんは素敵だし、驚く結稀さんの姿は笑ってしまいそうになる。
どんな表情も、全部素敵で…全部好き。
豊満な胸も、ずっと触っていたい…。
その健康的な肌に、いつまでも頬擦りをしてたい。
あの綺麗な指を、私の指で絡めていたい。
黄金の髪をずっと撫でて、桜色の綺麗で小さな唇を…ずっと私の唇で占領してたい。
はぁ、だめですね私。
考えれば考えるほど…止められなくなる、愛が溢れて引き
好きが溢れて、好きに埋もれて…とめどなく溢れた好きを結稀さんに向けたくなってしまう。
結稀さん…。
結稀さん…。
結稀さん…。
はぁはぁ…と荒い息遣いで名前が
ベッドに潜り込んで、ゴソゴソとシーツの擦れる音がやけに耳に響きながら…私の手はお腹を通り過ぎて下の方へと進んでゆく。
だめなのに…と分かってるのに。
結稀さんがいるって知ってるのに。
「結稀…さん♡ 結稀…すき♡」
甘い声が許嫁の名を呼んでいる。
どこか他人事のようにそう考えながら、指先がそっと触れる…。
じんじんと、痺れるような波が…私の身体にじーんと響く…。
ああ、だめなのに…だめってわかってるのに。
理性が叫びをあげてるのに、私は止まらない。
欲望のままに指の力がぎゅっと強まって、動き始めかけた…その時でした。
コンコンッ。
「麗奈ー?入るよー!」
「………ッ!!?」
扉の向こうで結稀さんの声がする。
と、同時に扉が開いて廊下の光が部屋に差し込み、私は眩さに目が眩みます。
「部屋暗いなぁ〜電気付けなきゃだめだよ〜麗奈」
部屋の電気を付けて、部屋に入ってくるのは私服に着替え終えた結稀さん。
猫が舌をだしている絵をプリントされた謎のTシャツを着ている結稀さんは、廊下の電気を切ると私の元に歩み寄ります。
ふわっと…結稀さんから私の匂いがしました。
「あ、さっきお風呂入ってきたよ、すっっごく広いね!」
「あ、そうでしたね…」
「へ?なにが?」
いえ、こちらの話ですと答えを返して、もう一度鼻をすんっと匂いを吸います。
結稀さんから私の匂いがする…同じシャンプーらを使ってるのですから当たり前の事なのですが、やっぱり意識してしまいます。
そう、まるで…私自身が結稀さんを覆っているような…そんな想像を。
……なんだか、羨ましいですね。
羨ましくて…ちょっと心がざわつきました。
だって…私だって結稀さんを覆って匂いを付けたいです、なのに私の愛用してるシャンプーらは、それらを私よりも先に
「麗奈…なんで怒ってるの?」
「へっ!?あ、いやこれはなにかの間違いです!」
むう〜っ!と膨らみかけた頬を結稀さんに指摘されて、私はハッと我に返って笑顔で返します。
いけませんいけません…夢中になって結稀さんを
しかし、浴室を想像すると…先程の出来事を思い出してしまいます。
それは、つい欲望のままに結稀さんに命令した行いを。
私の身体を触れさせて、結稀さんの口から感想を聞くもので…恥ずかしさに震えて、顔を赤に染める結稀さんは、見ていて満たされるものがありました。
同時に、じくじくと身体が疼いてキュンキュンしちゃいましたが。
「ふふ♪浴室といえば先程のことを思い出しますね♪」
「あ、それは…あの、忘れて……」
「それはできませんね♪」
「ひどいよぉ…」
恥ずかしがる結稀さんに私はクスクスと笑いながら話題を逸らします。
それから、結稀さんは私のベッドに腰掛けると目を背けながら、言いました。
「その、私はどこで寝たらいいのかな?」
「…?」
「いやその、麗奈の部屋で…一週間寝泊まりするんだけど、その…私の寝るところってどこにあるのかなぁ〜って」
ああ、なるほど寝場所の件ですね。
結稀さんが聞きたいことをすぐに理解して、私は布団に隠していた手を取り出して、そのままベッドの方を指差しました。
にんまりと、笑顔を添えて。
「もちろんここです♡」
「だよねぇ…」
「当たり前じゃないですか」
結稀さんの反応は予想通りと言った反応で声を漏らします。
私はもう少し喜んでくれてもいいのに、と少し残念に思ってると、結稀さんが何かに気づいたような私に尋ねました。
「ねぇ麗奈」
「はい、なんでしょう?」
「なんか、指先に付いてるよ?」
「…へ?」
咄嗟に視線を指先に向けます。
身体の奥底が一気に冷えていく感覚でした…。
だって、私の指先には先程の行為の最中に付いた…キラリと光る艶かしい液体だったのですから…!!
「あッ!いや、これは…っ!その!!」
すぐにティッシュを取って、拭き取り…そして隠します。
しかし、その一連の行動全てが怪しいもので、結稀さんは興味津々になって顔を近付け始めます。
「え?なになに?なんかすごいものなの?」
「ち、ちがいます!」
「じゃあなんでそんな焦るのー?」
なにか隠してるでしょー?と結稀さんは私に迫りますが、言える訳がありません。
だって、先程までに結稀さんの事を想像して…その、えと…いろいろ…してたなんて!
「な、なんにもないですよ!」
「えー?それ絶対嘘じゃん♪」
強く否定するものの、ニマニマと好奇心に満ちた結稀さんは止まりません。
「ねぇ、いいじゃん♪教えてよ〜♪」
「ほ、ほんとになにもないです!」
「えー?だめなの?なんでー?ねぇねぇ、ちょっとくらい教えてくれたっていいじゃんかぁー!」
ゆさゆさと、どれだけ秘密にしても結稀さんは暴こうと必死になり、私の肩を掴んで揺らし始めます。
ぐわんぐわんと、揺らされながら…私は。
「い、言えるわけないじゃないですかっ!結稀さんのことを想像してシてたなんて!」
「…へ?」
「…あっ」
あ……。
「…あ、えと」
「あ、あの…その」
お互いの気まずさが沈黙を生み出している。
私は恥ずかしさ、結稀さんは申し訳なさ…まごまごと二人して震えていると、結稀さんが口を開きました。
「その、私で…してたんだね」
「………はぃ」
「…私のことホントに好きなんだ…」
「あ、当たり前じゃないですか…」
変わることのない気持ちです…。
そもそも結稀さんが好きじゃなければ、こんなふしだらなこと私は絶対にしませんよ。
「……あ、あのさ!」
「は、はい!」
結稀さんの声に顔を上げて、結稀さんを見ます。
恥ずかしさに頬を染めて、もじもじと身体を揺らしていました…。
「あの…その、とりあえず…キスとか、しちゃう?」
それは、聞いてしまった事へのせめてもの償いと言うのでしょうか?
しかし、そうとも言い切れないような…そんな表情を浮かべている結稀さんを見て、私は息を呑みます。
なんて顔、してるんですか。
顔を背きたくなっているのは私なのに、そんな顔をしないでくださいよ。
夕焼けのように顔を染め、瞳は恥ずかしさで私を見ていない。
唇は緩んで、形が不安定…。
なのに、身体から滲み出てくるような…甘い誘惑…。
これは、もしかして…。
誘っている…というのではないでしょうか!?
※
次回から投稿が怪しくなります。
毎日投稿が出来なくなるかもしれませんが、投稿を続けられるよう頑張ります。
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