第41話 お嬢様の命令は絶対③


「ど、どうかな麗奈?」

「はい、ちょうど良くて気持ちいいです」


 ごっしごしと泡立てて、麗奈の小さくて真っ白な背中を優しくこする。

 ボディソープのいい匂いが鼻を突くけれど、目の前には麗奈の裸があって…なんにも集中出来ない。

 目の毒だ〜と目を逸らしながら思うけれど、時々気になって視線が元に戻ってしまう。


 綺麗な肌…すっごくうらやましい。

 健康的で彫刻のように綺麗で、どこも欠点がないから人間とはとても思えないその美しさに、うっとりと見惚れてしまいそう。

 そんな麗奈が、あられもない姿を私にだけ晒してる…。

 

 うう〜〜っ…!なんなんだ麗奈は、可愛いすぎるよぉ〜〜っ!!


 うにゃあ〜っと心の中でごろんごろんっと暴れまくる。

 麗奈が可愛すぎるのは今に始まったことじゃないけど、無防備な姿を私にだけ見せてくれるっていうのは…なんていうか、くるものがある。

 だって、こんなにも綺麗な美少女が私に夢中なんだよ!?私のことが好きって、これもう何かのバグでしょ!?


「はぁ………まじすき」

「と、突然なんですか!?」


 ぽつりと呟くと、鏡を見てた麗奈が大声をあげてびくんっと跳ね上がった。

 身体に纏わりついてる泡がふわふわと舞って、浴室を彩っていく。


「えっと、麗奈のことが好きだなって」

「だ、だからって突然言い出すのは卑怯じゃないですか!」

「そう?」


 熱湯に浸したんじゃないかってくらい顔を真っ赤にして麗奈は私に言うと、唇をもにょもにょと動かした後、麗奈は私の方へと振り返る。


「ちょあっ、麗奈…前!前!」

「べ、別にもう何回も見てるじゃないですか」


 麗奈のつつましやかな胸が私の前に現れて、私は咄嗟に両目を手で隠す。

 麗奈の言う通り、もう何回も裸を見てるはずなのに…どうしてかすごく恥ずかしくて、それでいてドキドキしちゃってる。

 というか…麗奈の胸を意識しちゃって、目が釘付けになりそうだ!


「で、でも麗奈の胸ってなんか…なんかえっちだからぁ!」

「え、えっちってなんですか…!」

「そ、それは…見てるとドキドキして、なんか触りたくなっちゃうっていうか……って!そんな事言ってる場合じゃないじゃん!」


 本音を全部言いかけて、私はハッと我に返って話題を元に戻す。

 麗奈は少し不満げだったけど、麗奈は溜息混じりに私を見て呟くように言った。


「私も結稀さんに負けないくらい好きですから」

「!…そんなの、もう」

「もう?」


 首を傾げる麗奈と、顔を両手で覆ってうずくまる私…。

 麗奈は困惑した様子で私を見ていると、私は絞るような声で喉を鳴らした。


「もう知ってるよぉ…」


 麗奈が私のこと大好きすぎるの…言われなくても分かってるよ。

 なんでこの子はすぐに好きって言ってくるんだろ?可愛いって自覚あるのかな…?


「はー…ほんと麗奈すき。言っておくけど私だって麗奈に負けないくらい好きだからね?」

「奇遇ですね、私も好きです♪」

「お互い様かぁ…」

「ですねぇ」


 クスクス笑い合ってから、ハッと息を呑む。

 いやいや、クスクスじゃなくて今私の目の前には麗奈の裸が広がってるのを忘れてた!

 バッと勢い良く目を逸らしてから、私は麗奈にうながすように言った。


「と、とりあえず後ろ向いてよ…まだ背中水流してないんだし…」


 目を背けたまま、私は言う。

 けれど麗奈は、いつもより弾んだ声をあげて、濡れた手が私の肩を掴んだ。


「それはどうしてですか?」

「ど、どうしてって…麗奈が裸だからじゃん」


 肩を掴んで、麗奈は顔を近付ける。

 でも、それでもと私は頑なに目を逸らしたまま…麗奈は泡だらけの身体を寄せて、吐息が私のうなじから耳元にかけて吹きかけられた。


「ひゃんっ!」


 生温かい吐息が私をくずくる。

 刃物みたいに研ぎ澄まされていた集中力のせいもあってか、私は過敏にリアクションを起こして声をあげちゃう。

 思った以上に可愛い声で、私どころか麗奈も目を大きく見開いて驚いていた。


「ふふ♪」

「な、なにそのオモチャを見つけたみたいな笑顔は…!」

「いえそんな事は考えておりません♪ですが…今の結稀さん、すごくエッチだと思ったものですから♪」

「…え、えっちって言わないでよ」


 クスクス笑う麗奈に唇を尖らせて不満げな表情で反抗する。

 でも、麗奈はそれすらも可愛らしいと思っているのか、私をずっと見つめたままだ。


 麗奈の視線が…やけに熱い。

 私のことしか考えてなさそうなその目は、私を離さずにジッと見ていて、麗奈は「あっ」と声をあげて更に顔を近付ける。


「このまま、前を洗ってくれませんか?」

「へっ?こ、このまま!?」

「さっきも言ってたじゃないですか、前もやってくださいと」


 言ったけどさぁ…!

 相変わらず、小悪魔みたいなことを思いついて、麗奈はにんまりと微笑みながらそう言うと、宙に浮いていた私の手を取って…麗奈は自分の胸に私の手を押し付けた!


「えっ!?わっ…!わあ!」


 柔らかい感触が私の手に伝う!

 ふにっとしてて、ふわふわしてて…!私のとは全然違うのに、でもなんだろう…すっごく心地いい!


 あまりの衝撃に、私はすてーんっとその場で尻餅を付くと、麗奈は心配しつつもにんまりと更に笑顔を浮かべていた。


「ふふっ♪どうですか?揉み心地は」

「あわわっ、えと…きもちいい…ってそうじゃなくてぇっ!」


 なにいってんだ私ー!

 バッと胸に吸い付いた手を離して、麗奈を見る。

 お尻が濡れてるけど、そんな事は些細なことで…麗奈はずっと嬉しそうな表情をしていた。


「ほら、結稀さん前を洗ってください♪それとも、私のメイドなのに拒否するんですか?」

「〜〜〜〜っ!!」


 なんて楽しそうな顔してんのさぁ…!

 ウキウキで肩を躍らせる麗奈に、むうっと頬を膨らませながら、私は立ち上がる。

 と、とりあえず…平常心だ、平常心を保ちながら仕事をこなそう!

 ここで慌てたら麗奈の思うつぼだからね!


 ようし…!と息を吸って、私はボディスポンジを麗奈の肌に当てようとする…その時だった。


「あ、ボディスポンジは使わないでくださいね?」

「へっ!?な、なんでさ!?」

「だって、肌を痛めるという話を聞いたので……なので、ここは手でお願いしますね?」

「て、手でぇっ!?」


 聞くからに嘘を吐く麗奈。

 麗奈が言ったのは無茶苦茶なお願いで、思わず私の手からポロリとボディスポンジが落ちていく。

 手、手で麗奈の身体に触るって…!いやでも、それはちょっと…え、えっちすぎるよ!!


「さ、流石にそれは…」

「私…結稀さんのご主人様ですよ?」

「くっ…!ず、ずるいよ!」

「ずるくないです♪」


 ぐぬぬぬぬぅ…!

 めちゃくちゃな命令ばかりするエッチなお嬢様に不満を募らせて、私は麗奈をじとーっと睨む。

 でも、いつまでそうしてても意味はなく…私はこの手で麗奈の肌に触れることにした。


「……麗奈のえっち」

「そうですね、認めます。だって私、結稀さんの事が好きですからね♡」


 なにそれ、ほんとずるい…。

 しゃこしゃことボディソープを手に付けて、泡立たせていく。

 ふわふわもこもこになると、私は顔を真っ赤に染めながら麗奈の身体を見て硬直する。


「……ごくっ」


 何度見ても、綺麗な身体。

 背後うしろからもそうだけど、前から見ても圧倒的で…綺麗すぎて息を呑む。

 けど、それとは別に…麗奈のあらぬ場所を見ていると…すごく、すごくむずむずとした感覚に襲われた。


 それはキュンキュンとして…胸がざわつくような、このまま見てると我慢できなくなっちゃうような…激しい波のような感覚。

 じくじくと…身体が疼いてきちゃう…。


 荒々しい息を吐きながら、私は泡まみれの手で…麗奈のお腹の方から触れた。


「ひゃっ…♡ 結稀さん…触りかたがえっちですね♡」

「う、うううっさい!で、でも…麗奈の肌触り…めっちゃやば…」


 つるつるすべすべ…。

 泡越しからも分かる肌触りに、私はごくりと生唾を呑み込む。


 それから、私は両手を動かす。

 泡だった手はにゅるにゅると動いて、縦横と麗奈のお腹を泡だらけにしてしまう。

 そのたびにもにょもにょとした気持ちが私に芽生えては、必死に耐えるの繰り返し。


「んっ…そこ、くすぐったいです♡」

「へ、変な声ださいでってば!」


 それと、一番やばいのは麗奈が反応することだった。

 私の手でそのまま触ってるからか、いつにもなく感覚が敏感で…麗奈はことあるごとに声を漏らす。

 そのたびに、私は顔を真っ赤にせざるを得ない。


「…じゃ、じゃあ次は胸な方ね…」

「はい♡…あ、これからは感想を言いながらしてください」

「へ?感想?」


 よくわかんなくて首を傾げる。

 すると麗奈は続けて言った。


「はい♡ここからは結稀さんが声を出しながら私の触り心地を言って欲しいんです♪」

「…そ、それってつまり、麗奈の胸を…その、揉みながら…実況しろってこと?」


 いや、そんな意味わかんないこと言うわけないでしょ…。

 と、思いきや…お嬢様は私にも負けない太陽みたいな笑顔で「はいっ!」と言った。


「結稀さんの恥ずかしがる姿が見たいので!」

「そ、そんな笑顔で言わないでよおっ!」


 本当にこの許嫁はなんなんだ!と心の中で叫びながら…麗奈の期待に満ちた眼差しを見て、私は指を絡めて考え込む。

 いや、いやいや…麗奈の胸を揉みながら実況って…いや、そんなの変態じゃんか…!


 そ、そんなのやりたいなんて…。

 でも、麗奈のお願いを聞かなきゃいけないのが…このバイトのルールな訳で、私には拒否権なあるわけなくて……!


 く、くそー!上の立場をいい事に変な事言ってさぁ!

 あーもう、やればいいんでしょやれば!


「わ、わかったよぉ!やるよ!」

「ほんですか!?」


 麗奈が嬉々とした表情でそう言って、私は恥ずかしがりながらコクリと頷く。

 すると、麗奈は更ににま〜っと嬉しそうな顔を浮かべると両手を広げて「どうぞ」と胸を曝け出す。


 わかってるよ…やりますよ!


「……や、やるからね」

「はい♡」


 泡に塗れた手で…麗奈の胸に触れる。

 ふにふにしてて…柔らかいけど、ここから…言わなきゃいけないんだよね…。


「れ、麗奈の胸は…その、揉み心地はすごくいいです……」

「どれくらいいいんですか?」

「ど、どれくらいって……その、えと」

「答えてください♪」

「あ、あうあう…その、柔らかいクッションを揉んでるみたいな…こ、ここち……です」

「〜〜♪」


 な、なにこれ…!なにこれ!

 し、死ぬほどはずかしい!!


 一言一言口に出すたびに、恥ずかしくなって逃げ出したくなる!

 それに、麗奈の喜んでる姿を見てると余計に恥ずかしくなっちゃう!!なんてこと考えたんだ麗奈は!!


「はい♪それでは続けてください♪」

「ま、まだやるのっ!?…あ、えと…触り心地は…き、絹みたいになめらかで…う、羨ましい気持ちに…なっちゃうくらい、すべすべ…です」

「お褒め頂きありがとうございます♡では、もう少し詳しくお願いしますね?」

「ま、まだ詳しく説明しなきゃいけないの!?」


 そうです♡と麗奈は愛情たっぷりに頷くと、私はひえーっ!と叫びをあげる。

 それから…麗奈の前で、散々胸の感想や肌の感想を求められた私は…恥ずかしさで死にかけるのだった…。


ほんとはもっと書きたかったけど、これ以上書いたら自分が変態になるだろうなと思いやめました。いやまあ、元からそんなもんなんですがね。

結稀がどんな感想を言ったのかは、みなさんのご想像にお任せします。

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