第38話 キスが忘れられなくて
いつまでも唇に熱が灯ってる。
あれから時間が経ってる筈なのに、あの柔らかくて甘いキスが頭の奥にこびり付いて離れてくれない。冷めてくれない…。
キスを思い出すたびに、じくじくと身体が刻むように疼いて…ふるふると震え出す。
もう、麗奈のことしか考えられなかった。
キスをお母さんに邪魔された時、あの物悲しそうな顔を見たら…しなきゃいけないって思っちゃったんだ…。
でも、いざ思い切ってキスしてみたら…こんなにも、こんなにも恥ずかしいなんてっ!
「〜〜〜!〜〜っ!!」
布団の上でゴロゴロ〜っと暴れ回る。
今の私は誰にも止められない恥ずかしがりローリングモンスターだ。
このままなんだって押しつぶしちゃう勢いで布団の上を蹂躙していると…ピタリと止まって身体を起こすと、正座をする。
「なんでしちゃったんだろ…」
唇に手を当てる…。
もう何度もしてるのに、未だ恥ずかしがってるなんて、どうなんだ?と思うけれども…やっぱり麗奈は可愛くて綺麗で…美少女だから、気にしちゃうものなんだ。
それも、私のことを好きでいてくれてる。
そんな女の子が悲しんでると助けたくなるのもあるし…なにより、あの時の私は麗奈とキスしたいって思ってて、それで。
唇をなぞるように這わせていた指が、ぷるんっと弾力に負けて弾かれる。
やっぱり、恥ずかしいものは恥ずかしい。
あれから麗奈の顔をまともに見れてないし、なにか言われるのが怖くて麗奈を避けてたりしてる。
明日の朝になったら、麗奈帰っちゃうのになぁ…。
麗奈がウチに来たのは、お父さんに会うためで。
話し合いをしたら、これ以上はする事がないし、ずっとウチに居座る理由もない。
だから明日には帰るし、今日はもう夜遅いから寝ている時間なんだけど…。
私と麗奈の部屋って別々なんだよね。
麗奈達は元々空いていた部屋を使って寝ているみたいで、こんな深夜の時間にわざわざ会いにいくのもあれだしと…私は悶々してる。
避けてたこと、謝りたいのになぁ…と布団にくるまりながら私はぶつくさと呟く。
でも、謝る機会なんていつでもあるし…また今度にしたらいいか…と考えていると、ふと思い出す。
そーいえば…今夏休みじゃん。
今の家から麗奈の屋敷までかなり時間掛かるし、中々会えないじゃん!!
そう思った途端に、背筋に嫌な汗がダラダラと溢れてくる。
どーしよーどーしよー!ともう一度寝転がってゴロゴロしていると…トントンっとノック音が私の行動を静止させた。
「おかーさん?」
「私ですよ結稀さん」
「れ、麗奈!?」
ふふっと上品な笑い声が扉越しに響いて、私はすぐに扉を開ける。
するとそこには…ネグリジェ姿の麗奈が微笑を浮かべながら立っていた。
「すみません、寂しくて来ちゃいました」
「柳生さんがいるのに?」
「だって…好きな人と一緒にいたいんですもの」
サラッと返されて…私はふいっと視線を逸らす。
なんでそう簡単に「一緒にいたい」なんて言えるのかなあ!すっごく恥ずかしくなっちゃうじゃんか!!
あ、でも似たようなこと私も言ってた気がする……。
「と、とりあえず入って」
「はい」
恥ずかしがりつつも、私は麗奈を部屋に入れると、二人して布団の上に正座になる。
部屋は電気を切っているのに…なぜか私達の視線はしっかりと交差しあう。
闇に紛れてても…麗奈の存在感はやっぱりすごい。
「ねぇ結稀さん」
「は、はい!」
じっと見ていると、麗奈が口を開く。
うわずった声で返事をすると、麗奈はクスクス笑いながら言った。
「浴室でのキス、嬉しかったです」
「あ、それはその…うん、喜んでくれてよかったよ…」
「結稀さんからしてくれるとは思ってもなかったので、胸が躍るくらい嬉しかったんですよ?」
胸に手を添えて、麗奈は微笑を浮かべながら言っている。
するの、麗奈の瞳が細くなって…にじりにじりと私に身体を寄せてくる…。
細くて白い手が…私の腰に当てられて、そしてもう片方の手で胸を触れられる。
その一連の動作が滑らかで…私は息を呑みながら麗奈を見つめていると。
「結稀さん…好きです」
顔をおもいっきり近付けて、愛を囁かれた。
「どうして結稀さんは私を喜ばせることばかりするんですか?より一層好きになっちゃうじゃないですか…」
「れ、麗奈…」
熱の籠った瞳が、ゆらゆらと揺らめいて…私だけを映してる。
麗奈のあまい吐息が…私の鼻を掠める。
麗奈の熱が…私の身体に伝染してくる。
麗奈の好きが…これでもかと伝わる。
「わ、私も麗奈が好き…大好きだよ」
麗奈の好意が嬉しくて、私も『好き』を囁く。
私も当てられちゃったのかもしれない…。
それくらい目の前の美少女に…心を奪われちゃって、仕方がない。
「ねえ、さっきは…避けてたりしてごめんね?」
数秒ほど見つめ合って…沈黙が支配していた時に、私は口を開いて言う。
謝るなら、ここしかないって思ったから。
「先程…ああ、結稀さんが恥ずかしがって私のことを避けてた時の事ですか?」
「ん……うん」
一言一句間違ってないから否定できないけど、ズバリと言われちゃうとくるものがあるよね…。
私がしょげていると、麗奈はクスクスと笑う。
「怒ってませんよ結稀さん。だって恥ずかしがってた結稀さん…すっごく可愛いかったんですから」
「か、かわいいって…」
「だって、ずっと私の唇に意識を向けてたり、途端に恥ずかしくなって顔を真っ赤にする姿は可愛らしい以外なんて答えたらいいのでしょう?」
「私のことよく見てるね!」
うふふと笑いながら麗奈が語って、私は
ほんと、油断も隙もありゃしない…!
というか、麗奈の前ならどんなことでもお見通しだったりしないかな?しないよね!?
「ですから、結稀さんは謝る必要はありませんよ」
「麗奈…」
ニコッと可愛らしく笑う麗奈に、渦巻いてたもやもやが晴れた気がした。
けど、まだモヤモヤは残ってて…私はついでに吐き出すように言った。
「でも、麗奈って明日には帰っちゃうよね?それだと私達…夏休み中あまり会えなくなるよね」
夏休み中、麗奈と会えないのは結構つらい。
私が悲しそうに俯いて言うと、麗奈は心配しなくても大丈夫です。と肩をポンと叩いた。
「それに関してはいい案があるので、大丈夫です♪」
「え、そうなの?」
「はい♪」
それにしては上機嫌すぎてイヤな予感するんだけど、まあいいか!
弾む声で返事をする麗奈に、一抹の不安を覚えながらも私は良かったぁ…と息を吐く。
すると、私の胸に手を当てていた麗奈がぐいっと押して…私を押し倒した。
「え、わわっ…!」
ぐらりと、体勢が崩れて視界がぐるんっと回る。
ぽすんっと枕の上に頭を預けると、麗奈が上に掛け布団を持って私を飲み込むようにして布団にくるまる。
「ふふっ♪」
「ちょ、えっ…麗奈?」
困惑する私、でも上機嫌な麗奈。
一緒に布団に飲み込まれた私達は、暗闇の中密着しあう形になって、麗奈の声がやけに大きく響いた。
「少し暑いですね♡」
「な、なら離れてよぉ…」
「それはイヤです♪」
もぞもぞと…二人の体温であったかくなった布団は結構暑かった。
私は離れようとするけれど、麗奈がそれを阻止して笑いながら更に抱きつき始める。
「結稀さん♡ 結稀さん♡好き♡大好き♡」
「〜〜ッ!」
耳元で優しく囁いて、麗奈の手が私の腰をぎゅうっと握る。
ぽしょぽしょ声がくすぐったくて、私の身体はビクビクと悶えて、揺れる。
麗奈はそんな私の反応を楽しんでるようで、味を占めたのか…麗奈は更に耳元に唇を近付ける。
「私を愛してくれる結稀さんが好きです♡恥ずかしがる結稀さんも好き♡金色の髪も翡翠のような瞳も…結稀さん自身も、全部ぜーんぶ大好きです♡」
「このままあなたを飲み込んで…ずっと囁いていたい。ずっと一緒に抱きしめ合って…一生を過ごしたい♡」
「結稀さん♡ 結稀さぁん…♡」
「くっ…れ、麗奈…もう囁くの、やめ♡」
耳元が、鼓膜が…敏感になって、囁かれるたびに身体がビクビクってなる。
お腹の奥が疼いて、切なくなってくる。
やめてって何度も言ってるのに、それでも麗奈はやめてくれなくて…抱き合ったまま麗奈は。
「美味しそうな耳…♡」
「んひゃぁんっ!」
ぺろっと…私の耳を舐めた。
「今のすっごく可愛い声でしたね?結稀さん♡」
「だ、だって突然……てか、耳を舐めるの汚いよ!」
「汚くないですよ?」
だって、結稀さんの耳ですから♪
と上機嫌に付け足して、暗闇の中…麗奈はもう一度私の耳を舐める。
ぞわぞわ〜っと背筋が震えて、生温かい感触が耳に走る…。
気持ち悪いとは思わなかった。
むしろ、麗奈が夢中になって私の耳を舐めてることに…すこし、興奮した。
「ふふっ♪ 結稀さん反応が可愛い♡」
「だ、だって…麗奈が突然舐めてくるからでしょっ!?」
「じゃあ次は耳の穴の中に舌を入れますね♡」
「い、言えばいいって話じゃにゃああんっ♡」
つぷぷ…っと麗奈の舌が私の耳の穴に入ってくる。
あったかくてぞわぞわして、入った瞬間に快感が走って…私は嬌声を漏らした。
びくびくびくぅ〜って、全身が揺れたあと…激しい麗奈の吐息と共に、嬉しそうな声で麗奈が言う。
「今の結稀さんの声…すごく可愛かったですよ♡」
「〜〜っ!い、いわないでっ!」
今の声…ほんっと恥ずかしかった!
なによ、にゃああんって!ネコじゃないんだからさ!
「結稀さん…私もう、我慢できませんキスしたいです…」
「へっ?いや、もうしたじゃん!」
「でも、結稀さんが可愛くて…もう我慢できないんです!」
腰に当てていた麗奈の手がぎゅうう〜っと強くなる。
それくらい切実で、我慢が出来なくて…麗奈は耳元で何度も懇願するように囁く。
何度も何度も『好き』を耳元に囁いては、キスをしたいと誘導してくる。
まるで、悪魔の囁きだよ…と思っていた私だったけれど、こんなにも可愛い悪魔の囁きに勝てるわけもなくて…。
「……い、一回だけね?」
「えぇ〜?一回だけですか?」
「だ、だって…はずいし」
そう言って保険を張る。
麗奈はご不満だったけど、これ以上キスをしたら恥ずかしくて爆発しそうだったから仕方がないものなのだ。
「じゃあ結稀さん…顔を向けてください♡」
「…ん」
がさごそと…布団の中、私は身体をくるりと回して麗奈と顔を合わせる。
暗闇で見えないのに…麗奈の視線と、熱い吐息でどこにいるのか分かった。
私は…生唾を呑んだ後、目をゆっくりと閉じる。
完全な闇が訪れて、静寂が支配したと思ったら…私の唇はすぐに奪われた。
「んっ♡はむ、んぅ…ぅぁ、んっ…」
「ふぁっ、あむ…ふっ、ぁ…♡」
熱い吐息が…唇の隙間から漏れる。
舌と舌が混ざり合って…境界線が分からなくなっちゃうくらいだった。
私と麗奈が…そのまま混じり合うみたいに。
それから、たった一回だけど…すっごく長いキスを私達はした。
舌がとろけて、もう誰の声かもわかんなくなっちゃうくらい…麗奈に唇と舌を奪われたあと、私達の意識は闇の中へと堕ちていった…。
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