第35話 龍と氷の意外な共通点②
「はい結稀さん、私が焼いたお肉です♪どうぞ召し上がってください♡」
「う、うん…あーーん」
「美味しいですか?」
「お、おいしいよ!麗奈…うぷっ」
さっきから天城のやつは小鳥に餌をあげるみたいにユウキのやつに肉を与えている。
当の本人は一切肉を食べもせずに、拒まないユウキに肉を「あーん」させてはめっちゃくちゃ喜んでいた。
なにあの笑顔、これがユウキの前で晒す笑顔かよ…もう大大大好きじゃんか。
ユウキの前で曝け出す、ウチの知らない天城の顔を見て、ウチはビビる。
それはそうと、そろそろやめねーとユウキのやつ胃もたれで死ぬぞ…とハラハラしながら見守っていたウチは、今更ながらどうしてここにいるのかよく分からないで肉を食べる…。
もぐもぐはぐはぐ…うん。
さすが高級肉なだけだって、柔らかくてくそうんまい…なんだこれ、すげーな。
ふおおお…と感心するものの、すぐに首を横に振って逸れかけた課題を元に戻す。
一体全体、なんでウチはここにいるんだろう?
確か、この焼肉はユウキの婚約祝いでやっているもので、部外者であるウチがいていいわけがないと思う。
でも、どうしてウチがここに呼ばれたのかと考えると…まあ、隣にいる凛ちゃんが原因の一つでもあるんだろうなと、ウチは凛ちゃんの方をチラリと見た。
隣で静かに肉を食べている凛ちゃんは、かなり前にウチの店で知り合った常連だ。
当人曰く、
いつもふらーっと立ち寄っては、どんっとお酒を持って帰って行くから、ウチの店では「酒のにーちゃん」とか呼ばれてる。
実際は「酒のねーちゃん」なんだけどな。
しかし、ユウキ達の前ではこんなにも静かなんだな。
ウチの前ではいろんな酒の知識をひけらかしてる癖に、随分と皮を
ウチの知る凛ちゃんは、もっとこう人間味が溢れてる感じだ。
ユウキ達にとっては、そうじゃないみたいだけど。
むしろ、ウチからすれば今の凛ちゃんが一番意外なんだよなあ…と凛ちゃんを見つめながらウチは思って、ぴーん!と頭の上に電球が湧いた。
「なあなあ凛ちゃん」
くいくいっと凛ちゃんのシャツを引っ張って、意識をウチの方へ向ける。
凛ちゃんはくるりとウチの方を見ると、なんですか?と言いたげに無表情の顔がウチに向けられる。
おお…なんだこの氷みたいな顔は。
ウチは驚きながらも、ニヤニヤと悪戯な笑みを浮かべて、肉を挟んだ箸を凛ちゃんに向けた。
「はいあーん」
「朧さん、からかってますか?」
「ええ〜?いつもならノリノリで食いつくのに?というか、今でもお酒欲し〜!とか思ってるだろ?」
ニヤニヤと近付いて、凛ちゃんの心の中を当ててみると、顔は変化しなかったが身体は正直にびくりと震えた。
ほら見ろ、考えてんじゃん!
凛ちゃんってば、三度の飯よりお酒だからな!分かりやすいんだよ。
「な、なんで分かるんですか…」
「だって、凛ちゃんはウチの常連さんでわかりやすいからな。だって今でも、焼肉ならビールが飲みたい…!とか考えてるだろ?」
「ぎくり…!」
「はいビンゴー♪」
つんつんと凛ちゃんのお腹をつついて、私はケケケと笑いながら身体を一歩引く。
凛ちゃんは顔を真っ赤にして、睨むようにしてウチを見ているが、正直そんな怖くない。
というか、ウチは凛ちゃんのこと天城より詳しいから分かるんだよ。
「凛ちゃん、もっと人間味あるような人じゃん?なら少しくらい弾けてもいいんじゃねーの?」
仲良くなってから、凛ちゃんはウチによく愚痴をこぼしていたりしてた。
だからまあ、この場くらいなら少しだけ羽を伸ばしてもいいんじゃねーの?とウチは提案してみる。
「だからよ、ほらあーん」
「だ、だからその…今は」
ほいほいっと嫌がる凛ちゃんな肉を口元に近付ける。
そこに少しだけ悪戯心を宿しながら、ウチは凛ちゃんと仲良くなり始めた頃のことを思い出していた…。
◇
ウチは家が酒屋で、たまーに親父が手伝いをしろとうるさい時期があった。
未成年に働かせんのかよと文句を言いながら、ウチはレジに回る…。
仕事は品物の整理とレジの担当だ、みなみにバイト代とかお小遣いみたいな賃金は発生しない、完全なボランティアだ。
まあ、それが原因の一つで不登校になってたこともあったんだが…今のウチには物好きよ友達がいたし、まあイヤイヤながらも手伝いに
それに、物好き以外にも話し合う人間が出来たからもあって、最近は手伝いが楽しみになっていた時期でもあったんだ。
で、そいつの名前が柳生凛って言って、これまた女か男かわかんねー不思議なやつだった。
でも、そんな不思議なやつがいつも大量の酒を買って行く姿を見て、ウチは気になってたんだと思う。
その日は、自然と疑問が口から出たんだ。
「なあ、なんでこんなに買うんだよ」
「……え?」
バーコードを読み取りながら、さりげなく聞いてみる。
凛ちゃんは少し驚いた様子で、小さく声を上げていた。
それからキョロキョロと辺りを見渡して、自分以外しかいないのを確認すると「私?」と言いたげに自分自身を指差す。
そうだよお前だよと目で訴えると、凛ちゃんは小さく口を開く。
「意外ですね、そんな事を言うなんて」
「こんなに買って、気にならないやつはいねーだろ」
広がるのは缶チューハイとビールの山。
どんっと盛り上がったそれは、流石に一言聞きたくなるくらいのもので、これには言い返せないのか凛ちゃんは静かに一歩後ずさった。
その時の、なんとも言えない表情が今でも記憶に残ってる…。
それがまあ、初めて仲良くなった時の話だ。
初めて仲良くなったとは到底言えないけどな…。
それから、凛ちゃんから酒の話を聞いたり…時折愚痴を言い始めたりしたんだよ。
天城のことは言ってなかったけど、殆どが自分自身のことで誰かの為に動いてる事を後悔してるみたいな事を言っていた。
もっと正直にいたいとか、そんなの事を愚痴ってたりしてたんだ。
それがもう、いつの頃かは忘れてしまったけど…その切実な思いは、いまでも忘れられなかった。
それから。
「なあ、凛ちゃんって呼んでいい?」
凛ちゃんの事を愛称で呼ぶことになった。
最初は恥ずかしがってたけど、今はなんともないくらいウチらの距離は縮まってた。
それくらい、ウチは凛ちゃんのことを知っているつもりだ。
ユウキと天城が知らない姿をウチは知っている。
それは、凛ちゃんがウチに気を許してるって事だ、だからウチは凛ちゃんのことをもっと知りたいと思ったんだ。
※
時間がなくて投稿が遅れました、本当にすみません。
そのせいで量もいつも以上に少なく、本来書きたかったことも出来なくて薄い話になってしまいました……謝罪します。
次回からは3500文字以上いけるように頑張ります
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