第34話 龍と氷の意外な接点!


「あれ?凛ちゃんどしたん?」


 朧ちゃんが「あ、偶然じゃん」と知り合いを見たような反応で柳生さんを見ている。

 ひらひらと手を振って、柳生さんの反応を待っているみたいだけど…。

 対する柳生さんは、こんなところで会うとは思わなかった…と言わんばかりに目を向いて心底驚いていた。


「お、朧さん…っ!?」


 いつもの淡々とした声とは違う、驚きに満ちた声が柳生さんの小さな口から溢れる。

 そんな声が出るんだと私と麗奈がびっくりしていると、私達の表情を交互に見た朧ちゃんがゆびして言った。


「あれ?二人とも凛ちゃんと知り合いなの?」

「り、凛ちゃんって…」

「あ、あの朧さん…お嬢様方の前でその呼び方は……」


 なにその呼び方…と唖然あぜんとしていると、オロオロといつにもなく弱々しい姿で柳生さんが朧ちゃんに言う。

 そう言うと、朧ちゃんは「あっ」と声を上げた。


「あ、もしかして仕事中?凛ちゃんってボディーガードみたいな仕事してるって言ってたもんな」


 ごめんごめんと両手を合わせて言って、朧ちゃんは私達をぐるりと眺めて、腰に手を当てながら興奮気味に言う。


「しっかし、偶然ってあるもんだよな〜!まさかいつも酒を買いに来てる凛ちゃんと、こんなところで会うなんてさ〜!」

「あ、あの…朧さん、本当に少しだけ静かに…」


 しー!と口元に指を当てて、必死に朧ちゃんの口を止めようとする柳生さん。

 その姿がものすごく意外で…私達は呆然としたままその姿を見てると、朧ちゃんは腕時計を見て「まずい!」と顔を歪めた。


「やばい!そろそろ店番だ…!急がないとまずいから、ウチもう行くわ!じゃあねー!」


 バイバーイ!と手を大きく振って、私たちの前からスタコラサッサーと去っていく。

 その姿を柳生さんは、ばつが悪そうに背中を見送っていた。

 とりあえず…なにか声をかけた方がいいのかな…?えと。


「凛ちゃん、大丈夫ですか?」


 肩をがくりと落とした柳生さんの背中に言葉を投げかけると、びくりと肩が震える。

 柳生さんが振り返ると、いつもの氷のような顔で私達を見つめていた。


 なにもありませんが?みたいにいつもと変わらない表情を浮かべると…頬にたらーりと汗が伝った。


「い、言わないでください…」


 唇を尖らせて…ぽしょっと恥ずかしがるように言うと、柳生さんはふいっとそっぽを向く。

 これには麗奈もびっくりで、目を大きく見開いて「こんな姿があったんですね…」と呟いていた。


 いや、私もびっくりだよ…と心の中で呟いて、柳生さんは観念したようにフッと苦笑した。


「彼女…朧さんは、私がよく贔屓してるお店で会った人なんです」


 柳生さんの言っていることを聞いて、そういえば…と私は思い出す。

 確か、朧ちゃんの家ってお酒売ってるんだよね、それでよく店番とかやらされたりしていつもなげいてたんだけど…


「柳生さんって、朧ちゃんの店の常連だったんだ」

「……はい」


 息を吐いてこくりと頷く柳生さん。

 そうだったんだぁと以外そうにしていると、横に立っていた麗奈が柳生さんに声をかけた。


「随分としたしげのようでしたが、瀧川さんと柳生さんはそれ程仲が良いんですね?」


 意外です!と麗奈が言う。

 まあ、確かにそうだもんね。ずっと寡黙かもくでカッコいい柳生さんが、こんなにも慌てたり友達がいるなんて思ってもみなかったもん。

 今もなお、バレたショックでおろおろとしている柳生さんを見て、私はニヤリと悪戯な笑みを浮かべる。


「私も柳生さんのことを凛ちゃんって呼んでもいいですか?」

「そ、それはやめてください柴辻様」

「ええ〜?朧ちゃんには下の名前とちゃん付けを許してるのに、私にはダメってずるくないですか?」

「そ、そう言われても…」


 たじたじとたじろぐ柳生さん、その姿が面白くてにじり寄っていると、麗奈もぽそりと呟く。


「凛ちゃん…」

「お嬢様まで!?」

「いいですね、親しみがあってとても良い呼び方です」

「おおっ!麗奈もこの呼び方がいいよね?じゃあほら!一緒に言ってみよー!」


 二人して柳生さんの間を挟むようにして、私と麗奈は声を細めながらも、柳生さんにしっかり聞こえるように囁いた。


「「凛ちゃん」」

 

 すこしいじわるが過ぎたかな?と私達は柳生さんを見る。

 身長が高くて見上げる形になるけども、柳生さんの顔はみるみると赤く染まっていた。


「お、お二人とも、やめてください…」


 かあっと頬が夕焼けみたいに染まってる。

 ぽしょぽしょと呟くように言うと、柳木さんは顔を両手で覆って「うう〜!」っと恥ずかしそうに唸り始めた…。

 その姿を私と麗奈は「ど、どうしよ?」と見つめ合う。


 柳生さんの印象は、氷のような人だ。

 寡黙で冷静で、いつも淡々と物事をこなしてる姿はとてもかっこいい!

 それに、その中性的な顔と立ち振る舞いも相まって頼れる大人って感じだったんだけど…。


 これが…柳生さんの素の姿、なのかな?


 頬を染めて恥ずかしがってる姿は、いつもの柳生さんと違って女の子って感じがする。

 なんだろう…顔の良さも相まって、ギャップで萌える!!


「ぎゃ、ぎゃんかわ…」

「結稀さん?」

「ご、ごめんなさいっ」


 ふおお…と柳生に可愛さを覚えると、すぐさま許嫁にギロリと睨まれて私は萎縮いしゅくする。

 けれど、初めて見る柳生さんの姿に興奮しているのは確かだった!


「ね、ねえねえ!もっと聞かせてくださいよ!朧ちゃんの話!柳生さんの話!」


 買い物しながらでいいから!とおもちゃを買ってとねだる子供みたいに、柳生さんをゆさゆさと揺らす。

 柳生さんは「いや…」と眉を八の字にしながら困ってる、このまま押せばなんとかなりそうだ!


「ねえねえ教えてよ〜!聞かせてよ〜!」

「私も、瀧川さんと柳生さんのお話をもっと聞きたいです」

「お嬢様まで!?」


 どーだ!麗奈にまで言われたら断れないだろう!

 自信満々にニヤリと笑って、柳生さんの様子をうかがう…。

 柳生さんは苦しそうに顔を歪めたと思ったら、がくりと項垂うなだれた。


「…わかりました、とりあえずお使いをましながら話しましょう…」

「「やった!」」



「私は少しだけですがお酒を嗜みます」


 牛肉を取って、カゴに入れながら柳生さんは語り始める。

 ふむふむと二人して頷いて、私達は黙って話を聞く。


「それで、私は有名なお酒を揃えたりするのが趣味でして…そこで偶然欲しかったものが瀧川さんのお店にあった事から始まりました」

「瀧川さんは丁度店番でして、お酒の知識もあったようで少しだけ会話をしたんです、それが面白いことに話題が尽きなくて、気が付けば私達の関係は親しくなっていました」


 その時のことを思い出したのか、柳生さんはフフッと小さくは微笑む。

 朧ちゃん相手だと、そんな笑い方もするんだ…と思いながら、私達は柳生さんの後をついて行きながら話に耳を傾け続ける。


「その、彼女が私のことを『凛ちゃん』と呼ぶようになったのは…お店に通い始めてから4回目のことでした」

「年齢が離れているとはいえ、年下の女の子にちゃん付けされるのはどうかと思ったのですが…不思議なことに、私はその呼び方を許してしまったんです」

「瀧川さん、私と趣味が合いますし…それに何より私達って意外と似たようなところもあったので、自然と仲良くなってしまいました」


 それで、朧ちゃんに「ちゃん付け」を許してしまったんだ。

 へぇ、ふぅーんと私はニヤニヤしながら柳生さんを見ていると、それに気付いた柳生さんが「なんですか?」と言いたげに首を傾げた。


「いえ、柳生さんって実は朧ちゃんのことが好きなんじゃないかなぁって」

「なっ…!」


 柳生さんが言葉に詰まって、取り掛けていた焼肉のタレを落とす。

 ごとんっと音を立てて落ちると、柳生さんが慌てて首を振った。


「そんな訳ないじゃないですか、あくまでも店員と客の関係です」

「その割には仲が良さげですけどね♪」


 ふふんっと笑って言い返すと、柳生さんはタレを持ち上げて、そのままスタスタとレジの方まで私達を置いて行ってしまった!

 そんなはぶてなくてもいいじゃん!!


 その後、颯爽さっそうと会計を済ませた柳生さんに追い付くと、私はあることを思いついてしまった!

 朧ちゃんと柳生さん、それに麗奈といろんな繋がりを見て、いいことを思いついたのだ。


 私はすぐにスマホを開くと、お母さんに連絡する。

 それから少し待って、お母さんからおっけー!とスタンプが返ってきた。


 朧ちゃんの手伝いも夕方までには終わるだろうし、この際朧ちゃんにも来てもらおう!

 ふふんっと鼻歌混じりに私は柳生さんと麗奈の前に立って、私は言った。


「焼肉パーティの件なんだけど、朧ちゃんも誘おうと思うんだけど、どうかな?」


 笑顔で言うと、柳生さんが驚いた様子で目を見開いていた…。



投稿遅れてすみません

いつもなら0時丁度に投稿出来たのですが、今日は慣れない新生活で投稿が遅れてしまいました。

明日以降もそのような状況になるかもしれないので、投稿時間がズレるかもしれません。


一応、毎日投稿を続けるよう頑張ります。

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