第33話 金色嫉妬と柳生さんの驚愕


 あの後も、麗奈達のアルバム鑑賞は続いて、私は恥ずかしい思いをしてた…。

 りんご飴を食べてたら歯が欠けて泣いてる写真とか、リリィに憧れてそれっぽいを服を着て変身ポーズの写真とか…。


 あーあーあー!やめてやめて!ほんと恥ずいから!私が何したっていうのさ!!

 お母さんはエンジンが掛かったのか、麗奈にどんどんアルバムを渡してくるし。

 麗奈に至っては重なるアルバムをもの凄い勢いで読んでるし!


 しまいにはお母さん、恥ずかしい写真を麗奈に渡してるしで、私の精神はもうめちゃめちゃだった。

 ばたんきゅー!私の黒歴史を掘り返すのやめてー!!


「ふふ♡ 結稀さんの可愛いお姿が収められた写真…大切に保管します、お母様!」

「うんうん、麗奈ちゃんに喜んでもらって良かった♪」

「私はよくないけどね!?」


 うっとりと写真を眺めている麗奈と、満足気なお母さん。

 そんな二人にツッコミを入れて立ち上がると、とりあえずこの場から逃げたくなったので私は外にでようとする。


 このままだと、余計に恥ずかしい思いをしそうだから、どこでもいいから外に行きたかった。

 私がはぶてながら外に行こうとすると、お母さんが声を掛けてくる。


「外に行くなら今日の晩御飯の材料を買って来て欲しいのだけど〜!」

「……晩御飯って、なに?」


 むうっと頬を膨らませながら、私は聞いてみる。

 すると、お母さんは自信満々げに胸を張ると、私の中に巣食すくう怒りを吹き飛ばすくらいの豪華な名前が飛び出て来た!


「焼き肉!みんなで焼き肉パーティーをしましょう!」

「や、焼き肉っ!?」


 うそでしょっ!?と私は目を白黒させながらお母さんに問う。

 お母さんはこくこくと頷いて、私は信じられなくて質問を投げまくる!


「豚肉と鶏肉だけの焼き肉じゃないよね?」

「ふふふ…その時代は既に終わったわ!時代はそう!牛肉!しかも国産でバンバン買って来て良いわよ!」

「そんな贅沢許されていいの!?」

「いいんです!!」

 

 バァァァァァンッ!と堂々と言ってのけたお母さんに、私は「うええええっ!?」と飛び跳ね上がりながら驚く。

 大気圏に突入するくらい、めっちゃ衝撃的だった。

 本来、我が家のいう焼き肉は安い豚肉と鶏肉を使うのが定石じょうせき、牛肉とかいう高級品はまず手が出せないから幻の存在として我が家で語り継がれていたけど……!


「お、お母さん…これはもう、太っ腹を超えて神だよ!?」

「ええ、娘の婚約祝いに贅沢をしない親がどこにいますか!今の私は太っ腹を超えて神の存在になります!」

「す、すごいいいいいっ!!」


 さすが神様、仏様、お母様!!

 神となったお母さん…いや、お母様にははぁー!とひれ伏しながら私はお母さんの財布を受け取る。


 その一部始終を見てた麗奈と柳生さんは、苦笑気味に私達を眺めていたのだった…。



「お肉お肉♪高級肉を使った本物の焼肉〜♪ふふっ♪えへへへぇっ♪」

「すごい喜びようですね結稀さん」

「うん、喜ぶのはあたりまえじゃん!だって焼肉だよ?パーティーだよ!最高じゃんか!」


 鼻歌を歌って、ステップを踏みながらスーパーに幸福を振り撒いていると、買い物に着いてきた麗奈がそう言ってきた。

 私は振り向いてそう言うと、なぜか麗奈は不機嫌そうにムっとしていた。なんで?


「あれ?もしかして焼肉が嫌いとか?」


 もしそうならやっちゃったかも!と本気で焦る私。

 だけど、麗奈は首を横に振って否定すると、文句を言うように視線を逸らしながら言った。


「いえ、ただ…私の時よりも一段と喜んでいるようなので、少し」

「へっ?」

「な、なんでもありません!」


 ふいっと首を更に明後日の方向へと向けて、麗奈はそっぽを向く。

 一人ぽかーんとしてた私は、急にどうしたんだろ?と思ったけど、この状況を何度も経験してるからすぐにピーンっと来てしまった。


「ははぁーん?もしかして、私が焼肉で喜んでたから嫉妬してたのかなぁ?」


 名探偵結稀が、麗奈の心境をズバリと当ててみせる。

 真実はいつもふたつかみっつだ!


「ッ…!」


 ズバリと当ててみせると、分かりやすく麗奈の頬が赤く染まる。

 恥ずかしくて、いつもみたいに否定から入るんだろうなあとウキウキで麗奈の反応を待っていたら…。


「そ、そうですよ…私よりも、焼肉に喜ぶ結稀さんに思わず嫉妬したんです!」

「へあっ!?」


 反対せずに、正直に麗奈が嫉妬と肯定して、私は思わず声を噴き出す。

 いつもと全然ちがう!と思っていると、麗奈は私の元へと詰め寄ってきて、手を握る。

 白くて細い指が…私の指と絡まり始める!


「わ、わわっ!れ、麗奈!?」

「私以外のものに目移めうつりしてたら…怒りますからね!」


 上目遣いで睨まれて、私の心臓がドキッと跳ね上がる。

 あまりの驚きに目が大きく開かれて痛い思いをしたくらいだ。


「わかりましたか?ずっと私だけを見ててくださいね?結稀さん」

「う、うん…」


 熱いくらい頬を染めて、不機嫌ながらも麗奈は私の目の前でそう囁く…。

 その姿がとにかく可愛すぎて、私は首を縦に振ると…たじたじと怯んで視線を逸らした。


 や、やばい…こうなると思ってなかったからめっちゃ恥ずい…!

 麗奈が照れると思ってたのに!私が照れさせられるなんて聞いてないよぉっ!!

 しかも何今の顔!めっちゃ可愛いんだけど!


 あうあうあう!うあーーっ!と目をぐるぐると忙しなく回して、私は逸らした視線を元に戻す。

 ずっと私だけを見ててって……そんなの当たり前でしょ…!だって初めて会った時から麗奈のことばかり見てるんだから…。


 そんな私の気持ちなんて分かる気もなく、麗奈は照れながら私の手を握る…。

 ほんとうに、なんなんだこの子はとドキドキしながら私とぎゅっと手を握り返した。


「お嬢様方、愛し合うのは良いですが人目を気にして頂けると幸いです」

「「わひゃあっ!?」」


 二人してドキドキしてると、柳生さんの注意がどこからともなく聞こえてきて、二人して飛び跳ねる。

 ぴょーんっときゅうりを見た猫みたいに飛び上がると、私たちの後ろには柳生さんが立っていた!い、いつのまに!?


「とりあえず、由沙様に頼まれたものを買いましょう。二人で愛し合うのはそこからにしてください」


 ぴしゃりと凛とした声で言われて、私達はうっと唸る。

 その通りすぎてぐうのねが出なかったからだ。


 やっぱり柳生さんって、すごくかっこいいよねぇ…とテキパキとこなす柳生さんの後ろ姿を見ていると…声が私達の方へと投げかけれられてきた。


「ん?あれ?お前らどうしたんだよ、こんなところで…天城もいるし」

「え?瀧川さん?」

「へっ?」


 声のした方を二人して振り返ると、そこには朧ちゃんの姿があった…!

 黒色の半袖のパーカーを着こなす朧ちゃんは、昔と変わらない姿で「よっ!」と挨拶をしながら私達の元へとやってくる。


「よう、久しぶりじゃんユウキ」

「うん久しぶり!…なんだけど、あれ?朧ちゃんと麗奈って知り合いなの?」


 さっきの朧ちゃんの反応を思い出して、私は聞いてみると朧ちゃんはきょとんとした表情をする。


「あれ?ウチら友達同士なの知らなかったのか?」

「へ?とも…だち?」


 なにそれ、知らないんだけど…。

 私が呆然としていると、隣に立っていた麗奈が両指をくねくねと絡ませながら説明を始めた。


「実はですね?」

 

 朧ちゃんと出会ったのは、私がスマホを忘れていったその日のこと。

 突如朧ちゃんから電話が掛かってきて、電話に出た麗奈は…そこで朧ちゃんと意気投合。

 それからは仲良くなって時折恋愛相談に乗っていた……。


「まあ、ウチはお前ら二人の関係が好きでよく聞いてたんだよ」

「そういうわけなのです!」

「へぇ、そうだったんだ…だから朧ちゃんは麗奈のこと知ってたんだ」


 へぇ〜…ふぅーん…。


「じゃあ、麗奈のの友達なんだね!朧ちゃんは!」


 にっこり笑顔で私は褒める。

 麗奈と友達になれるなんて、クラスの誰にも出来ないすごいことなんだよって言うと、朧ちゃんは「そうなのか?」と半信半疑の様子だった。


「うん!麗奈はすっごく良い子だし、友達になれるなんてすごいよ!」


 すごいすごーい!と褒めていると、私を見ていた麗奈が興味深そうに顎に手を添えて一言ひとこと呟いた。


「もしかして、嫉妬してません?」

「…………」


 ぴしっと動きが止まる…。

 石像みたいに完璧に動きを止めた私に、朧ちゃんは「まじ?」と言いたげに麗奈の方を見る。

 対して麗奈はニマニマとむず痒そうな笑顔を浮かべて、私に近付いていた。


「散々私に嫉妬してることを笑っていましたが…結稀さんも嫉妬するんですね♪」

「い、いや…そんなわけ……!」

「あんなあからさまな敵対的な言葉を瀧川さんに向けるなんて、それ以外信じられませんよね?ふふっ♪ 結稀さん…私に友達が出来て嫉妬するなんて……そんなの」


 すごく可愛いですね♡


「〜〜〜〜〜っ!!」


 私に渦巻いてた感情を言い当てられて、この場から逃げ出したい感情に襲われる。

 声にもならない声をあげると、状況を理解でできない朧ちゃんの横で、麗奈がそっと耳元に囁いた。


「ふふっ♪安心してください結稀さん。あなた以外に友達が出来ても、許嫁は世界であなた一人だけなんですから♡」


 ぽしょぽしょと…麗奈が唇をにんまりとさせて、心底嬉しそうな表情でそう言う。

 なにその顔、反則すぎるでしょ…!


 視線をふいっとらして、麗奈の顔を見ないようにする…。

 恥ずかしいのもあるけど、嫉妬に負けて朧ちゃんに酷い事を言った自分が信じられなかったからだ。


 私も、あんな風に嫉妬したりするんだ…。


 もやもやとした感情を思い出して、私は考え込んでいると朧ちゃんが「おおっ」と感動するような声を上げた。


「お前ら二人、ほんっと仲良いっていうかマジで許嫁の関係なんだな…!」

「そ、そうだよ」


 まあ、本当は勘違いから始まって…打ち解けないまま続いてる関係なんだけど。

 しかもそれでいてキスまでしてるんだよ!?もうどこで言えばいいのか分かんないよぉぅ!


「おっと、じゃあそろそろウチは帰るわ」

「え?もう帰るの?」


 私が内心叫んでいると、朧ちゃんはスマホを見ていそいそと買い物袋を持ち上げる。


「親が早く帰ってこいってうるせえんだよ、ウチだってもう少し話くらいしたいけどさ」


 でも仕方ねーしなぁと面倒臭そうに言いながら、朧ちゃんは「じゃあな!今度は二人で話でも聞かせろよ!」と言って立ち去ろうとした。

 その時だった。


「お嬢様方、はぐれていたので探しましたよ」


 一人先に行っていた柳生さんが私達を見つけてやってくる…。

 丁度朧ちゃんもいて、柳生さんと朧ちゃんは二人して目を合わせた、その瞬間。


「あれ?凛ちゃんどしたん?」

「朧さんっ!?」


 朧ちゃんはさりげなくすごいことをいいだした…。


「「へ?」」


 私と麗奈の驚きに満ちた声が、スーパー内に木霊こだました。

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