第31話 お父様ズ
「突然呼び出してすまないな柴辻、いや
「…突然お前から飲もうなんて言われて、俺飛び上がるくらい驚いたぞ…」
薄暗い雰囲気が特徴の高級バーにて、僅かな光に当てられた
カウンター席に置いてある怜夜のスマホには、堅次からのメッセージ通知で溢れかえっていた。
ちなみに、怜夜は返事を返していない。
カウンター席にて硬次がやって来るのを、酒を楽しみながら待っていた。
もちろん、その事に怒らない訳もなく堅次は不満顔で怜夜の元へとずんずんと近寄る。
「それで?要件はなんだ?仕事の話なのか?」
口を開いて早々、仕事の話を切り出す堅次に相変わらず思考の固い男だと、怜夜は溜息を吐く。
はぁ〜…と息を吐くと、堅次は不機嫌そうに顔を歪ませ、鍛え上げられた筋肉がぴくりと動いた。
しかし、そんな堅次に恐れる訳もなく、怜夜はお酒の入ったグラスの氷をカランと
「仕事の話でもなんでもない、ただ君と話がしたかっただけさ……まあ、
「はぁ?なに言ってんだお前……まあいい、お前と酒を飲むなんて今後来ないだろうからな…一杯くらいは付き合ってやる」
堅次は顔を歪ませると、その身を一歩引く。
その後、息を吐いてから堅次は無言で酒を飲む怜夜の隣に座った。
「すまない、一杯貰っていいかな?」
席につくと、堅次はバーテンダーに注文を入れると怜夜の方へと視線を移す。
「…呼び出した理由はイマイチ理解が出来んが、つまり俺と飲みたいだけで呼んだことは確かなんだな?」
「そうさ、私だって誰かと飲みたい時くらいある…」
ほんとかよ…と堅次は表情を
それに手を伸ばして、くぴりと一口飲むと…堅次は唇を尖らせて不満を怜夜にぶつけた。
「つか、お前唐突すぎるんだよ」
「そうか?」
「そうだ、学生の頃から一緒だったが…お前とは仕事の付き合いはあっても、こうして飲みに行くなんてことは一度もなかったからな」
ぐちぐちと、愚痴るように吐き出す堅次に怜夜はフッと失笑する。
なにがおかしい?と詰め寄る堅次に、怜夜は一口飲んでから堅次を見つめた。
「これから君とは長い付き合いになりそうだからな、もう一度関係を結ぶのも良いと思ったんだ」
「……どういうことだ?」
首を傾げる堅次に怜夜は続けて言った。
「君の娘に会ったよ、随分と元気な子だったな」
「……は?」
ぴょんっとワックスで固めていた堅次の髪が跳ねる。
怜夜はフッと笑って、目を大きく見開かせる堅次に追い討ちをかけた。
「柴辻結稀…血の繋がりはないが、どこか君と似てる部分があって面白い人間だった」
「いやいやまてまて!?なんでお前の口からあいつの名前が出てくんだよ!?」
がばっと、怜夜に詰め寄る堅次。
怜夜は一切の動作を崩さずに、一口飲むと堅次を見て言った。
「君はあの子から聞いてないのか?」
「は?なんの話だ」
首を傾げる堅次に怜夜は「そうか」と呟いて、静かに納得する。
そして、一切の表情を崩さずに堅次の顔をまっすぐに見つめると、怜夜は説明を始めた。
「端的に言うと、君の娘と私の娘が婚約を結んだ」
「…はぁ?」
理解できないのも無理はなかった。
真面目が取り柄の堅次は想像通りの反応をして、怜夜は心の奥底で僅かに笑う。
驚く堅次に怜夜は更に続けて言った。
「どうした?随分と驚いているようだが?」
「いや、驚くに決まってるだろ!?何がどうしたらお前の娘と婚約を結ぶとかいう結果になる!!?」
「そのような結果なのだから仕方がないだろう?受け入れろ堅次」
ポンっと肩に手を置いて、爆発する堅次を宥める怜夜。
その表情は困惑する堅次の
「なんでお前はそんなに冷静なんだ……くそ、もう何がなんだが分からんから全部説明してくれ…!」
「全部か、私も側付きからの情報を聞いているだけで、実はそこまで詳しくないのだが…」
堅次に説明を要求されて、怜夜は顎に手を添えると記憶に真新しい娘達のやりとりを思い出す。
麗奈から許嫁の件を聞き、結稀の存在を聞く…そこから結稀を見定めようと動いた怜夜は、結稀の頑張りを認めて婚約の件を了承した…。
一言一句間違えず、体験した出来事を全て語り終えた怜夜は一息付いて堅次を見やる。
堅次は驚くことはなく、額に手を押し付けて…溜息混じりに考え込んでいた。
「あいつ…そんな事になってるなら連絡の一つくらい寄越せばいいのに……っ!」
「くそっ…それでお前が俺を呼んだのか、だから祝い酒ってことかよ…!」
「そういうことだ」
まじかよぉ…!と呻く堅次に怜夜はニヤリと笑って首を縦に振る。
義理の娘とはいえ、知らない間に生まれていた爆弾級の問題に、流石の堅次も頭を抱えるしかないようだ。
「あいつは一度叱るとしてだ…しかし、お前の娘が人を好きになるなんてな…意外だ」
「ああ、流石の私も驚きを隠せなかった」
二人して思い起こすのは麗奈の姿。
堅次が知る麗奈は、極度の人嫌いが特徴の才能に溢れた少女で、人を好きになることなど有り得ないと思っていた。
しかし、現に結稀と婚約を結んでいるという事実に驚きを隠せない。
が、結稀を知る堅次としては確かにこうなるのも無理はないとさえ思っていた。
思い起こすのは、結稀の性格と人となり。
あの暴風雨のように激しいスキンシップの持ち主なら、麗奈と仲良くなるのもありえなくはないが…。
「まさか婚約とはな…」
頭を抱えて、堅次は唸る。
対して怜夜はお酒を飲むばかりで、表情に変化がなかった。
そんな怜夜の姿に、むっときた堅次は怜夜の方へと近付く。
「お前はいいのか?同性同士だぞ?」
「それはさしたる問題ではないだろう?私が求めているのは当人の資質と実力だ」
「そうだったな、お前は実力主義でそこんとこ触れる気ねえもんな!」
堅次は思い出したようにそう言う。
すると、怜夜も堅次の方を見て同じように過去を指摘する。
「君は変わらず堅い人間だな、もう少し柔軟な考え方をしたまえ」
「ぐぬっ、お前めんどくせえなほんと!」
反論されて堅次は一歩引くと、腹いせをするようにグラスに入ったお酒を一気に飲み干す。
だんっ!と勢い良くグラスを机に置くと、堅次は息を吐いた。
「とりあえずだ、あいつとは一度話を付ける必要がある…!」
婚約の件を黙っていた事を、徹底的に叱りつけてやると堅次は決めると、それを見ていた怜夜は言った。
「婚約に反対するのか?」
「いや、しないさ」
じゃあどうして君は怒ってるんだと、怜夜は問おうとする。
が、怜夜は言葉をそのまま喉に押し込めて、押し黙った。
ああ、なるほど…と怜夜は理解する。
麗奈と同じく、君も変わったな…と堅次の表情を見て怜夜は思う。
堅次は親の顔をしていた。
あの堅実で曲がったことが嫌いな堅次が、今まで見たことのないような顔をしていたのだ。
恋とは恐ろしいな…と怜夜は内心思う。
いつもの堅次なら、同性同士の結婚は反対していただろう。
しかし、その考えすら変えてしまう心境の変化に、怜夜は苦笑を浮かべずにはいられない…。
柴辻結稀…君は人を掻き乱すのが上手い人間だな。と、ここにはいない女子高生に怜夜は思いを馳せながら、グラスを
※
過去最高に短いです、ほんとすみません。
言い訳をしますと、とにかく忙しかったのであまり書けませんでした。
とはいえ、むさ苦しいおじさん達の会話で二章は完全に終わりを迎えました。
ちょっと一章の時より上手く書けなかったな…という感想はありますが、皆さんの応援もあって無事に終える事ができました、ありがとうございます。
正直、書いた後に思うのは、柳生さんがびっくりするほど動いてたなぁという感想です。
本当はあんなに喋らないし、むしろ柴辻に敵対するようなキャラだったのに、気が付けば二人に感化されて二人の理解者になってました。なんで???
次回からは三章に入ります、期末テストが終わっちゃえばもちろんあれが来ます。ええアレです。
それでは、また次回に
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