第XXX話 嘘で曖昧だけど現実な


 PPPPP!

 けたたましく鳴り響くアラームの音に、私の意識は無理矢理叩き起こされる。

 重い瞼を擦りながら、うるさいなあ…なんてぼやいてアラームの停止を要求する。


「あらーむ…ていしぃ…」


 呂律ろれつの回らない舌でそう言うと、アラームはぴたりと止んだ。

 こういう時、音声で停止できるって案外楽だなって私は思う。わざわざスイッチを押すタイプとかめんどくさくて仕方がないもの。


 さて、面倒な邪魔者はいなくなった。

 曖昧な意識の中、さてもう一度眠りに潜ろうと思っていると…アラームよりも面倒臭いお母さんの声が響き渡った。


「こらー!いつまで寝てんの結奈ゆうな!」


 太陽みたいに明るくて…距離感の近いうるさい声が私の意識を無理矢理起こす。

 ああ、やっぱりお母さんの声はうるさくて仕方がない…。

 私は面倒臭げに身体をむくりと起こすと、しばしばする視界の中…ぼーっと部屋を見渡した。


 見慣れた部屋。

 ぬいぐるみとか本棚とか、ゲーム棚とか色々あって、壁には友達の集合写真で埋め尽くされている。

 写真の真ん中には私がにんまりと笑顔を浮かべていた。


 名前は天城あまじろ結奈ゆうな

 …世にも珍しい同性同士から生まれた子供。

 お母さんこと天城結稀と、ママこと天城麗奈が大恋愛の果てに…科学の発展で同性同士で子供が出来るようになって私が生まれた。


 私が生まれた時は結構な盛り上がりだったみたい。

 まあ赤ん坊だったから上手くは覚えてないけど、当時は倫理問題もあって遺伝子提供なんてまずなかったらしい。

 でも、そんな時にお母さん達が遺伝子を提供して、私が生まれて…ニュースにも取り上げられた。


 それに私のママ、かなりの大企業の社長で世界的にも有名だしね。

 とはいえ、今は平穏で幸福な人生を送ってる。

 私の他にも親が同性の子供なんているし、昔みたいな大盛り上がりにはなってない。

 

 私はうーーんと背筋を伸ばして欠伸をしていると、降りてくるのが遅いと…痺れを切らしてお母さんが扉をバンっと開いた。


「もうご飯だよ!って、珍しくちゃんと起きてる」

「私をなんだと思ってるのお母さん…」

「寝坊魔で遅刻魔」

「お母さんに似たんでしょ?」

「私は寝坊はしないよ!…遅刻はするかもだけど」


 ほらみろ。

 フッと鼻で笑って、お母さんを見る。

 濃い金色の髪に、整った容姿、少し幼さの残った顔は若々しすぎて同年代とたまに間違えそうになる。

 というか、外に出るとたまに間違えられがちだ。


「ほらっ!はやく朝ごはんたべないと!」

「わ、わかってるよ…今日はあれでしょ?ママが海外出張から帰ってくるんだよね」


 こくこくっと首を縦に振って、お母さんは私を急かす。

 お母さんってば…ママの事になるといつもより行動が激しくなるよね、なんか犬みたいだ。


 まあ、お母さんがそうなるのも無理はないよ…今回の出張は長かったし。

 ママは大手企業グループを継いでいて、とにかく忙しい人だ。

 海外出張なんて当たり前だし、家に顔を出したと思えば…よく辛そうな雰囲気でお母さんの胸に飛び込んでたのをよく見てた。


 お母さんとママ、いっつも仲良しだから会えない時は常に寂しそうだし、お母さんがこうなるのも無理は無かった。



 朝食を食べ終えたあと、お母さんと私はリビングに飾り付けをする。

 ママが帰ってきた時に、サプライズとしてあっと驚かそうって話になって、二人して頑張る。


 二人して生クリームをぶちまけながらケーキを作ったり、部屋の飾り付けにあーだのこーだのと文句を言い合ったり、ハプニングはあったけれど…格闘の末に、なんとか飾り付けは成功に収めた。


「ふぅ…ようやく終わったね!お母さん」

「はひぃ〜〜…つかれたぁ、こんなの怜夜お義父さんに試された時以来だよぉ…」


 ひいひいと息を吐きながら、お母さんはそんなことを言っている。

 怜夜お義父さん…私の場合お祖父ちゃんにあたる人で、よく厳しそうな顔をしてる人だ。

 まあ、私にはいっつもお小遣いくれたりするすっごくいい人なんだけどね。


 また会いたいなぁ〜なんて思っていたら、お母さんがスマホをじっと見て、がばっと立ち上がった。

 その顔はすっごく嬉しそうな顔で、喜びに満ち溢れている。


「麗奈がもうすぐ来るって!」


 ぱああっ!と犬みたいに顔を輝かせて、お母さんは子供みたいにとたとたと玄関へと走っていく。

 子供かよぉ…と苦笑混じりにお母さんを見送って、私も玄関へと移動する。

 私だって、ママに会えるのを楽しみにしてたんだから!


「いつ来るかな〜♪どう驚くかな〜♪」

「お母さん……ほんと子供っぽいね」


 玄関でクラッカーを持ってママを待つ私達。

 お母さんは肩をウキウキと揺らしながら、ママの帰りを待っていた。

 その姿は本当に子供っぽくて、呆れてしまいそう。


 でも、お母さんは私の言葉なんか無視してふんふんふーん♪と鼻歌を歌っていた。


「無視かい…」


 ぐぬぬ…とうわつくお母さんに苛立ちを感じていると、お母さんはピクリと身体が揺れた。


「あっ!きた!」

「え、なんでわかるの!?」


 私が驚くと同時に、ガチャリとドアノブが傾く。

 扉はゆっくりと開かれて……。


「麗奈〜〜〜♡」


 それが待てなくてお母さんは扉を無理矢理開いて飛び出した!!


「きゃっ!?」

「ちょっ、お母さん!?」


 どっしん!と二人が倒れる音が聞こえる。

 私もすぐにお母さんの元へと行くと、そこには抱きつき合いながら倒れる二人の姿があった…。

 玄関前で…なにイチャコラしてんの。


「………はぁ」


 溜息混じりに、私はママを見る。

 高級そうなスーツは少し汚れているけれど、カッコよく着こなしているママは、まるで出来る女社長って感じがする。

 けど、スーツよりも凄いのは…ママの圧倒的すぎる容姿だ。


 色素の薄い亜麻色の髪に、全てのパーツが羨ましいくらい整っている顔立ち。

 お母さんはビスクドールみたいって前に例えてたけど、ほんとその通りだと思う。

 それくらい美人で、綺麗なのが私のママだ。


 そんな二人は立ち上がると、早速ぎゅうっと抱きしめ合っていた。

 頬を赤く染めて、ゆらゆらと揺れる瞳は…今にもキスをしそうな勢いだ。


 そんな二人の間に、私は割り込む。


「とりあえず家でやってよ、二人とも」

「わっ、ごめん」

「そ、そうですね…あと、ただいま帰りました二人とも」

「うん、おかえりママ」


 結局クラッカー鳴らす暇なかったなあと思いながら、私とお母さんは二人して笑い合うと、早速リビングへとママを案内する。


 汚れたスーツの上着は私が預かると、リビングの光景を見たママが「わぁ」っと驚いた。


「これを二人でしたんですか?」

「うん、ちなみにお母さんは壁の飾り付けに3回くらい失敗してる」

「ちょっと結奈!ばらさないでよ!」

「ふふっ♪なんとも結稀さんらしいですね」


 クスクスと三人で笑い合っていると、ママは私の頬にちゅっとキスをした。


「ありがとう結奈ちゃん、私とっても嬉しいです♡」

「そ、それは良かった…」


 私がサプライズしようって言い出したの、ママにはお見通しかぁ…。

 かなわないなぁと頬を赤くして照れていると、ジロジロと鋭い視線が私を刺してくることに気が付く。


 視線の主はもちろんお母さんだった。


「麗奈とキス…ずるい」

「はいはい、結奈ちゃんに嫉妬はやめてくださいね結稀さん♪」

「…なんで麗奈は嬉しそうなの」

「嫉妬してくれてうれしいからですよ♡」

「もう…あとでいっぱいキスしないと許さないから…」

「分かってますよ♪たーくさんキスしますから、私だってずっと結稀さんに会いたかったんですから」


 ……私を無視してイチャイチャしだすのやめてくれるかなぁ!?

 甘すぎて胸焼けしてくるんだけど!


 けど、目の前に広がってるのがお母さん達の日常。

 いっつもラブラブで、いっつもキスしてて、いっつも愛し合ってる…羨ましいを通り越して胸焼け必死な私の両親。


 そんな二人を見て、私はクスッと苦笑を浮かべるのだった。



 PPPPPPP!


「はっ!?」


 ガバッとアラームの音と同時に身体を起こすと、私は混乱する頭の中…今さっき見ていた夢を思い出していた。


 すごく、現実感のある夢だった。

 いや、ところどころ現実味のなさそうな要素はあったけれど…私と麗奈、そして私達の娘が笑い合ってる夢だった。


「ん?んんんんんん??」


 首を傾げながら…私は夢の内容を必死に思い出す。

 大人になった私は、麗奈と結婚して…それで子供を産んで、その名前が……。


「結奈……」



エイプリルフール用に書いたやつ。

けど、これが嘘なのか本当なのか、それとも夢なのかは自分自身分かりません…。


ちなみに結奈は、柴辻と同じ金髪で天城の綺麗な容姿を持った、二人のいいとこを合わせたような美少女です。

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