第25話 許嫁の証明②
私達の関係を解消なんてさせない…!
どんっと机を叩いて、
例え目の前の人が、どれだけ偉くても決意を決めた私は怯むつもりはない。
だって私は、麗奈の許嫁なんだから。
それが例え…勘違いから始まった関係だとしても、悲しそうにしてる麗奈を見過ごすなんて私には出来ない!
「柴辻君…君の覚悟はよく伝わった、であるなら君が娘に相応しいか見定めよう」
怜夜さんはフッと笑って、鋭い目つきのまま私を睨む。
そして、怜夜さんは言った。
「期限は一学期の終わりまでの間だけ。その間、君の行動を柳生君に見張って貰い、そしてその情報を私が見て判断する」
「君の普段の行いや、成績…人間性、全てを見定める、もし相応しくない点があれば…」
私が認める事はない…と静かに言い切って、この場に緊張と沈黙が流れる。
つまり、一学期の終わりまで私は柳生さんに監視されて、その間の出来事は全部怜夜さんの耳に入る。
それで、私に少しでも悪い点があれば私達の関係は終わってしまう…。
なかなかすごく怖い試練だ…。
つまり監視がつくって事でしょ?
女子高生の身としてはちょっとイヤなとこあるけど、そんな事は言っていられない。
ここを乗り越えない限り、私と麗奈は離れ離れになってしまうのだから。
「分かってます。でも、絶対に認めさせますから」
「それは楽しみだ」
麗奈、私は絶対に認めさせてみせる。
冷ややかに笑う怜夜さんをぎゃふんって言わさせてみせるから。
だから麗奈、これから頑張る私を見てて欲しい!
横に立っている麗奈を見て、私はいつもの笑顔を浮かべる。
麗奈の表情は不安に塗れていて、今にも押し潰されそうなくらい弱々しい…。
そんな顔してほしくない、麗奈はもっと笑顔でいるべきだ。
だから私は笑いかけて、安心させるために麗奈の頭を優しく撫でる。
「大丈夫だから、私がんばるからね!」
「結稀さん…」
こうしてこの日を境に、私は怜夜さんを認めさせる為の戦いが始まった。
一学期が終わるまで、あと残りわずか。
◇
「許嫁の解消のピンチ!?」
「…はい」
以前来た駅前のファミレス、その隅っこの席でウチはコーラをこぼしかけながら、感情のままに叫んだ。
突然、天城に緊急の相談があると言われて急いで来てみれば、ウチの知らない間にユウキと天城はとんでもない事に巻き込まれていたらしい。
「まさか、親フラしたのか…」
「はい……って、親フラ?」
「えっと、ネットスラングなんだけど…説明めんどいな、つまりは親にバレるってことで…」
「な、なるほど」
昨日、天城とユウキのやつは天城の親父に許嫁の関係がバレてしまったらしい。
もちろん認められてなった関係ではないし、天城の将来のこともあって二人は親父さんに反対された。
が、反対の意見もあって、天城の親父さんはユウキのやつを見定める事にしたんだとか。
「それでアイツ、今大変なんだな」
「はい、お父様の命令で柳生さんに監視されながら、今は必死に頑張ってるんです」
柳生さん?ってやつが誰だか分からんけど、ひいひい言いながら監視されてるユウキを想像すると少し面白い。
いや、天城には悪いんだが…アイツがヒーヒー言ってんのがすっげえ目に浮かぶ。
「しっかし、それでどうしてウチに相談ってなるんだ?アイツ自身がやらなきゃダメなんだろ?」
「……はい、あれからお父様に何度も言ったのですが、諦めてくれる様子がないんです……でも!」
真っ直ぐな視線を向けられて、ウチは納得する。
あーはいはい、許嫁だからいてもたってもいられないんだろ?そうなんだろ?天城はユウキのこと大好きだからな!あー甘酸っぱい!!
「ほんと、お前ら二人は面白いな」
「え?」
クツクツと不気味に笑って、ウチは「よし」と声を漏らす。
お前ら二人の恋路をウチは見守るって決めたんだ、こんな大ピンチに助けなきゃ…決めた意味がねえ。
「なにか出来る限りの手助けはしてやろうぜ?ウチも手伝うからさ」
「ほんとですか!?」
椅子から思い切りよく立ち上がって、天城は表情を明るくさせてウチに詰め寄る。
近い近い近い、顔が良いんだから理解してほしい…!!
「とりあえずさ、まずアイツってなにやってんの?」
「そうですね、期限が一学期の終了までなので、結稀さんはテスト勉強を頑張ってるみたいです」
「テスト勉強?」
「はい、期末テストがすぐなので、そこで良い成績を取って実力を証明するって結稀さん言ってました」
まあ確かに、実力を証明するなら期末テストはうってつけだ。
これでぐうの音もでねえほど、いい点数を出せば天城の親父も認めざるを得ないだろう。
しかし、その逆もしかりで悪い点数を取ってしまえば失望されてしまい、許嫁の関係は終わってしまうだろうな。
でも、そうかテストか……。
「ならアイツ大丈夫だな」
「はい?」
不安から一転。
ケロッとした表情で「なんだ心配して損したー!」とウチが身体を伸ばしながら言っていると、ウチの言葉を聞いて天城が声を漏らした。
急に何言ってんのこの人みたいな、そんな目だ。
いやいや怖い怖い、ウチがそう言ったのも理由があるんだよ。
つーか、この反応を見るに天城はユウキがどれだけすごいのか知らないのか。なんか意外だな。
「天城はアイツの成績どれくらいか知ってる?」
「…そうですね、クラス内では上位にいますね」
首を傾げて、思い出すようにそう言うと天城は不安そうに言った。
「ですが、それでもお父様が納得するとは思えません」
まあ、確かにそうかもしれない。
ウチは天城達の学校の人間じゃないから分かんないけど、それでもユウキのやつはああ見えてかなりの天才だ。
ちゃらんぽらんで距離感近いやべーヤツだけど、ウチは過去にアイツが起こした伝説を見ている。
ウチは自慢をするように語った。
「アイツってさ、テスト勉強しないんだよ」
「え?そうなんですか…?」
驚く天城に、ウチはうなずく。
アイツは、家が貧乏だったから勉強するよりも母親を大事にしていた。
家事とかバイトとか、友達付き合いとか…他人の為に時間を割くようなヤツだ。勉強なんて一度もする時間がない。
でもアイツ、不思議と成績は良かった。
元々地頭が良かったのか、記憶力がいいのか分かんねえけど…そのおかげで勉強なしでテストを受けてきた。
「それでさ、アイツが一度だけ勉強してきた事があったんだよ」
すっごいものを見たと言うように、ウチは天城にだけ聞こえるように言う。
「そん時はすごかったよ、テストは全部満点!そんで一年生の中でもぶっちぎりだった!」
「そんな事があったんですね…」
意外そうに目を見開いて、天城が驚く。
そんな天城に私は指を指して言った。
「つーか、逆に天城が自分自身の心配した方がいいかもな」
ユウキのやつ、実はエグいくらいスペックいいんだよ。
そんでアイツがそのスペックを全開まで引き出したら……。
「お前も追い抜かれるかもな」
にやっと
けど。
「ふふっ、流石に冗談ですよね?」
「…あれ?」
天城に笑われて、ウチはガクリと肩を落とした。
もしかして信じられてない!?
「それより!結稀さんになにか手伝うことはありませんか?喜ばれたりするものがあれば教えて欲しいです!」
「アイツが喜ぶもの……か」
アイツ、基本貰ったものはなんでも喜んでくれるし…それに物持ちいいからなぁ。
何をあげても大丈夫そうな気がするけど……って。
考えていた最中、ウチは視界にキラッと光る物に気がついた。
天城の薬指に、銀色に光るものが付いている…なんだろ、これ?指輪?
「…指輪、似合うね」
「! そうですか!?」
ウチが指輪を褒めると、天城は息を吹き返したように飛び上がった。
目をキラキラと輝かせて、待っていましたと言わんばかりに口から言葉が溢れ出る。
「これは結稀さんがくれた婚約指輪なんです!元々二つあって片方ずつ薬指にはめていて、結稀さんはお互いの関係にピッタリだねって言ってくれた大切なものなんです!」
「ね、熱量と押し付けがすごいっ…!」
ぐいぐいと指輪の経緯を聞かされて…ウチはまたもやアイツにドン引きする。
婚約指輪って…アイツ、どれだけ天城の好感度稼いだら気が済むんだ?もうカンストしてんだろ…。
しかし、アイツってアクセサリーとか買うんだな…。
と思っていると、ふとウチにいい案が降りてきた。
「あ、そうだアイツになにかお守り買ってやろう、学業成就のお守りとかさ?これならユウキのやつの邪魔になんないし、いいんじゃないか?」
「お守り…ですか、私としてはもっと役に立つものを贈りたいのですが…」
じゃあいい案があんのかよ…とジロリと睨み返すと、天城はふいっと明後日の方を向いて黙り込む。
それに…お守りならあれもあるじゃん。
「ほら、恋愛成就とかさ?二人でお揃いなら神様も叶えてくれるかもじゃん?」
ほら縁結びの神社に行けば二人は強く結ばれる〜っとかよくあるよな!
ウチ、ああいうのロマンがあって好きなんだよなぁ〜!
「恋愛…成就?」
ピクリと…天城が反応する。
おっ、やる気出したか!お嬢様め!
「それは…実に」
ゆらあっと天城が立ち上がって、ウチの肩を掴む。
あれ、ちょっと怖えぞ…このお嬢様。
「良い案ですね!では早速買いに行きましょう!」
「今から!?」
「はい!調べてみたら縁結びの神社はこの辺りに何ヶ所かありました!全部行きましょう!」
全部行くのかよ!?つか縁結びにしか興味ないだろお前!?
さあさあ行きましょう!と天城に手首を掴まれて、ウチらは席を立つ。
そして、天城を先頭に…ウチらの神社巡りが始まった…。
◇
「少々、頑張りすぎでは?」
カリカリカリとシャーペンを走らせていると、私の横で声が響いた…ような気がした。
私の視界にはノートと教科書で埋め尽くされていて、意識もそっちの方へ行っている。
だからか…今の私には誰の声も届かなかった。
「柴辻様、あまり無理をしてはダメですよ」
また声がした…気がする。
でも、今は周囲を確認する余裕なんてない。
だって私は認められないといけないんだから。麗奈の為に頑張るって決めたんだから…!
「柴辻様!」
「は、はいっ!?」
意識が過集中に行きかけた瞬間…張り詰めた声が私をぴしゃりと叩いた。
あまりに鋭い声だったから、私の意識はハッと周囲に向かれて…声のした方を見た。
「あ、柳生さん…どうも」
ぺこりと…隣に立っていた柳生さんに、私は頭を下げる。
黒のスーツに中性的な顔立ち、そんな柳生さんに鋭い目付きで睨まれていて…私はビクリと震えた。
「少々…いえ、かなり無理をしすぎではありませんか?」
「え?そうですかね?」
「はい、かなり
そうなのかな…と、言われてもあまり関心が湧かない。
正直、昨日から始めた勉強だけど…どれくらいからやり始めたのかあんまり覚えてなかった。
ただ、麗奈のことばっかり考えてたから。
「柴辻様、お嬢様のことを思っているのは分かります。ですが、あまり無茶をしすぎていると旦那様に見限られますよ」
「で、でも…」
「でもじゃありません」
ぴしゃりと言われて、私はうっと唸る。
なんだか、今の柳生さんはお母さんみたいだ。
私の監査役とか…関係なく。
「…………柴辻様」
無言の空間が数秒くらい流れて、柳生さんは息を吐く。
そして。
「少し、お時間をください」
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