第22話 金色とひとめぼれペアリング

 ひまだなあ…と私は虚空こくうに言葉を投げてはぷらぷらとクラゲのように彷徨さまよう。

 今日は休日で、寮に外出届を出したあと…私は電車に乗ってモールの方まで足を伸ばしていた。

 

 理由は単純、めっちゃ暇だから。

 まず、今日の私の隣には麗奈がいない。

 いつも隣にいるものだから、なんだか半分欠けているみたいで物足りない気分になってくる。

 麗奈は今日何か予定があるみたいで、そっちの方へと行ってしまったらしく。

 一人取り残された私はこうして、持て余した暇を埋めるべくモールまで来てるんだけど……。


「やばい、なにしたらいいのか全然わかんない」


 元々、昔からモールに来ることがなかった私はここでの立ち振る舞いを知らなかった。

 なんかでっかいスーパーみたいな扱いでここまで来たけど、まさかここまで広くてデッカすぎるとは思わないよ!


 昔はお金がなくて無縁の存在だったから気になってたんだけど…まさかダンジョンみたいに広いとは。

 

 すごー…と広場にあったベンチに座って、私は感嘆の息を漏らす。

 とはいっても、スケールが大きすぎて…何をしたらいいのか分からないでいた。


「せっかくお金があるのに、ここまで大きいと分かんなくなっちゃうよ」


 右を見ても左を見ても、なんかオシャレな店が並んでる。

 入ってみようかと思ってはみたけど、なんだか入るのが怖くなって、気後れしてしまう…。

 そんな事ばっかり繰り返してたせいか、私はすっかり怖気付いてしまっていた。


 でも、怖気付いたとは言っても暇は暇。

 なんかやらないとなぁ〜…と義務感に近い感情で、私はベンチから立ち上がる。

 とりあえず、何か目標を立てよう…!

 せっかく来たのに、なにもしないで帰るのはもったいないからね!!


 ようし!と決意を決めて、私はまず考える。

 一人で遊ぶなら、まずはあれをやってみたいって思ってたんだよね。


「ゲーセンとか行ってみようかな!」


 思い返すのは、朧ちゃんの姿だ。

 前の学校で仲良くなった子で、不登校だったのを先生に頼まれて近付いた事がキッカケで仲良くなった女の子だ。

 最初はすごいツンツンしてたけど、毎日顔を出してたら気が付けば仲良くなってた。


 そんな朧ちゃんは、不登校の時にいつもゲーセンに通ってたんだよね。

 私もその時初めてやってみたけど、あれは中々面白かったなぁ…。


 個人的にメダルゲームとか最高だった!

 たった一枚でも無限に増やせるから、やめ時が分かんなくなったくらいだ。

 よし、やるならめちゃくちゃ稼いでやろう!ゲーセンに私の名を轟かせてやるぜー!


 ワハハ!といさみ足で私はゲーセンへと向かう。

 そして、結果はと言うと……。


「あ、ああ!?ラスト一枚が!」


 惨敗ざんぱいだった。

 釣りをするゲームが気になって、じゃんじゃんコインを入れてたら、気が付けばデッカい魚にコインを取られて一文無しに…。

 

 全てを失った私が放心していると、一部始終を見ていた子供が鼻で笑っていた。


「下手だな〜ねーちゃん、へたっぴすぎ!」

「普通小さいやつから狙うべきなのに、大きいの狙ったらそりゃすぐ無くなるよ」


 そんな事分かってるよ〜!!

 でっかいの狙うからこそロマンがあるんだろー!?

 結局、ゲーセンで名を轟かせるどころか笑いものにされた私は、泣く泣くゲーセンから退散する羽目になってしまった。


「はぁ〜〜…また暇になっちゃったなぁ」


 ゲーセンから、また元のベンチへと戻って来て私はまた暇をぼやく。

 なんか、なにをやってもそこまで楽しめない。

 というより、今の私には"何か"が欠けている気がして、そのせいで何も集中できないでいた。

 

 まあ、その"何か"の正体なんて…既に分かってるんだけどさ…。


「麗奈となら…もっと楽しいんだろうなぁ……」


 天井を見つめながら、私は呟く。


 そーですよ、私は寂しいんですよーだ。

 せっかく麗奈を誘おうと思ったら、なぜかどっかに行く用事があるって言われて、寂しいんだよー!!

 だってさぁ?あれだけ私のことすきすき言ってるくせに、こういう時は私のこと無視すんの良くないと思うけどなー!


 はあー!寂しい寂しい!!


「……ちょっと恥ずかしくなってきた」


 心の中で駄々っ子みたいに叫んでから、私は我に返って羞恥に顔を染めた…。

 我ながら何言ってんの?恥ずかしいの分かるけどさ…子供じゃないんだから。


 でも、気付いちゃえばもう隠せないもので…。

 私は麗奈のことばかり考えていた。

 例えば、あのアイスクリーム屋…一人で行くのは少し勇気いるけど、きっと麗奈とならいろんな種類のアイスを二人で食べるんだろうなって想像したり…。

 あそこのブティックとかで、麗奈の私服を一緒に考えて…試着しあったりしてさ。


 それでね、麗奈と一緒に…麗奈が、麗奈と……って私麗奈の事ばっかり考えすぎでしょ!?


 うわ〜〜!!と頭を振って、脳内に棲みつく麗奈を振り払う。

 も、もっと別のことを考えよう…うん、そうしよう!


 例えば…………。


「例えば…」


 周囲を見渡して…私は言葉に詰まった。

 視線の先にはアクセサリーショップがあって、私はそこを見ていた。

 麗奈に贈り物とかどうかなって思った。


 また麗奈のこと考えてる…って思うけど、まあそれはそれ。

 私の財布はまだそれなりに重たいし、なにか一つくらいはアクセサリーを買えると思う。


 まあ、あれだよね…親友で、一応許嫁の関係だからさ…贈り物とかしたいじゃん?

 喜ぶ顔とか…見てみたいし………。


「よし…」


 少し見ていこう…それで、気に入ったら何か買おう。

 私は立ち上がって、すぐ近くのアクセサリーショップへと足を運ぶ。

 店内は思ったよりもキラキラとしていて、ショーケースに展示されてる物を見ては、ぎょっと目を見開く。


 値段すごぉ…と高校生の私には絶対に手を出せない値段にビビりながら、私は安いものはないか〜なんて店を回った。


 イヤリング…ブレスレット、指輪にピアス。

 あ、このネックレスかわいい…!あ…でも値段かわいくない…。


 アクセサリーなんて、私には無縁なものだと思い込んでたから、すごく新鮮だった。

 こんなに綺麗で派手だと付けたがる人も居るよね〜と感心しながら見ていると、ふと私の足がピタリと止まった。


「…ペア、リング?」


 目の前にはシルバーの二つのリング。

 装飾はあまりないシンプルな指輪だ。


「ペアリングって…なんだろ」


 スマホで調べようかなと思った矢先に、ぬっと私の視界の隅から顔が現れた。


「何かお探しですか?お客様!」

「わ、わあっ!?」


 現れたのはここの店員。

 営業スマイルをニッコリと浮かべて、驚く私の前に立つと、ずずいっと距離を詰めてくる。


「これが気になってるんですか?」

「え、あ、はい!」


 思わずそう答えてしまって、店員さんはニヤリと笑う。


「恋人に送るんですかぁ?」

「こ、こいっ!?…いやまあ、そうなるよね…うん、そ…そうです」


 許嫁だし…まあ…そう、だよね?

 認めてしまうとすごく恥ずかしくなって、私は顔を真っ赤に染めて俯いた。

 対して、店員さんは「やっぱり!」と手を合わせて喜ぶと、続けて言った。


「これはですね、恋人の間でも結構人気なんですよ〜!」

「とくに学生さんとかが買いますね、大好きな人にあなたもどうでしょうか?お揃いの品って結構グッと来ますよ〜?」


 ぐいぐいっと押されて、私は「う、うう」と唸る。

 私よりも押しが強いなこの人…と思いながらも、私はそのペアリングを見ていた。


 お揃いの品…"お揃い"かあ……。


 私と麗奈で、あの指輪を付ける…。

 麗奈、なに付けても似合うだろうし…きっとこの指輪も…。


「あ、あの…お揃いのものって、送ったら喜ばれますか?」

「! はい、もちろんですよ?特に愛が深ければより喜んでもらえると思います」

「そうですか…」


 このペアリング…値段も、払えない額じゃないし……。

 それに、麗奈が喜んでくれるなら…うん。


「これ…買います!」


 ペアリングから店員さんの方へ視線を移して、私は言う。

 すると、店員さんは顔を明るくさせてから「ありがとうございます!」と言った。


「では、ラッピングをしておきますね♪」

「はい、お願いします」


 会計後、店員さんはそう言ってプレゼント用のラッピングをし始める。

 慣れた手付きでやっている店員さんをじっと見ていると、私をチラッと見て言った。


「彼氏さん、喜んでくれると良いですね♪」

「か、彼氏?」

「あれ?違うんですか?もしかして恋人じゃない?」


 きょとんとした顔でそう言われて、私はふるふると顔を横に振る。


「こ、恋人…ですけど、男の人じゃないです…女の子で、許嫁なんです」

「女の子………ん?許嫁!?」


 ぎょっと驚く店員さんに私も驚く。


「なんですかその詳しく知りたい情報!?」

「いやまあ、事実だし…」


 うん、事実です。

 私も時々目を見開いて驚くけど、紛れもない事実なんだよね。

 苦笑混じりに肯定すると、店員さんは目を見開いたまま驚いていると、ハッと思い出して顔を元に戻す。

 

 そして、さっきの営業スマイルを浮かべて、店員さんは言った。


「じゃあ、彼女ちゃんに喜んでくれると良いですね」

「はい…」

「あ、それと…次ウチの店に来たらサービスしますよ♪その時は彼女も連れて来てくださいね」


 もっと詳しく聞かせて、と目に書いて店員さんは私に耳打ちする。

 サービスという単語にピクリと反応しながら、私は苦笑のまま「はい、また来ます」と約束したのだった。



 気が付けば、もう夕方になってた。

 暇だ暇だ〜って言っていても、時間はすっごい速さで経過するみたい。

 まあ、振り返ってみればそこまで暇じゃなかったかな…。


 ラッピングされたペアリングを見て、私は少し微笑わらう。

 麗奈、喜んでくれるといいな…。

 きっと、喜んでくれるよね?


 喜ぶ麗奈の顔を思い浮かべて、私はふふっと笑みをこぼした。


 明日が楽しみだなあ…。

 私はクスッと笑って、ステップを踏むように駆け出したのだった。



◇もう一度!登場人物紹介◇


柴辻結稀(16)

好き好きスキンシップ、コミュニケーションモンスター。

『好き』が口癖で、人に寄り添うことを何より大切にする女の子。三度の飯より人と仲良くするのが好きで距離感がバグってる。

失踪した父親が外国人で、容姿は濃い金髪と薄い翡翠の瞳が特徴なハーフの美少女。身長は167cm


天城麗奈(16)

勘違いジェラッシクパークお嬢様。

人との関わりを過度に避け、幼少の頃から人の醜悪さを知ってしまった天城グループの御令嬢。

結稀の距離感に翻弄されて、自分の気持ちに気付いたあとは結稀が好きすぎて、結稀に負けないスキンシップを発揮する。

誰もが見紛う程、容姿端麗で才能に溢れた美少女。

薄い亜麻色の髪と白い肌、整った顔は結稀達から絶賛されている。身長は155cm。


瀧川朧(16)

恋愛脳不良ツッコミドラゴン。

結稀の友達で、名前と性格が理由で人に避けられがちな女の子。

電話に出てしまった麗奈との出会いをキッカケに二人の関係を知ってしまい、麗奈の恋愛相談に乗ることに。

容姿は赤のメッシュが入ったウルフカットの髪に切れ長な眼が特徴的。身長は170cm


柳生凛(不明)

謎に塗れたお嬢様の側付き。

身長180cmの無口で表情ひとつ変えない男装の麗人で、はたから見れば誰だって男だと勘違いしてしまう美貌を持つ謎の人。

麗奈の理解者でもあり、時折過保護な面もあったり…。


(お知らせ)

今更になって主人公達の年齢に違和感が出て来たので16に変更します。

適当に17でいいだろ、と考えていたら結稀の誕生日にはもう18になってるし…高校二年で18は流石に歳行き過ぎじゃない?と思ったので16にします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る