第21話 龍とお嬢様のレンアイ相談


 今日は天城と会う日だ。

 事前に決めておいた待ち合わせ場所に、10分ほど早く着いたウチは、窓に反射する自分を見て不安にられていた。

 

「今からお嬢様に会うんだよな…こんな格好でいいのか不安になってきた」


 ウチの格好は青を基調したスカジャン。

 背中には龍が描かれていて、自分の名前に似たものを感じたから愛用している、ウチの普段着。

 下もき慣れたジーンズを履いていて、まあパッと見た感じ男みたいな格好だ。

 なかばノリのままに約束をしたもんだから、より一層不安が高まってくる。


 なにせ相手は超が付くほどの金持ちの人間だ。

 ウチみたいなヤツがかかわれるのは、なんかの奇跡が起きたレベルですげー事だと思う。

 しかし、そんなすげーヤツとユウキは友達で、結婚を誓い合った許嫁という関係らしい…。


 …もう一度考えてみたら、アイツほんとやべぇな…。

 何をどうしたら会って初日に告白なんてして、許嫁とかいう関係になるんだよ…意味わかんねえよ。

 けれどまあ、そんな面白い事を聞いてしまったら流石に気になるモノで…恋愛脳なウチはめっちゃワクワクしてた。


 一体、天城はどんなやつなんだろう?

 ユウキのやつが告白するレベルで綺麗なんだろうか?

 やべぇ…まだ会ってもないのに緊張してきた…!


 ドキドキと跳ねる心臓を抑え込んで、ウチはスマホに目を移した。

 画面には天城とのトーク画面が映っていて、ウチが最後に送った「今着いた」で終わっている。

 そこに今、既読がついたと同時にスマホが震えた。


『私も着きました、今そっちに移動してます』


 天城から返信が来る。

 ウチはすぐに顔を上げて、周囲を見渡した。

 待ち合わせ場所は駅で、案の定人が行き来していて天城らしき人間は見当たらない。

 

 天城麗奈…ユウキの許嫁。

 字面じずらからして中々すげえが、一体全体…果たしてどんなヤツが現れるのやら……。


「あ、いた」


 人混ひとごみを見ていたウチは、ぽそっと声を漏らした。

 天城の声しか知らないのに、ウチはなぜかそいつが天城麗奈なんだと、すぐに理解した。

 周囲の人間とは全く違う気品をまとっていて、存在感があるソイツはスマホを片手にキョロキョロと辺りを見渡している。

 服は、なぜか制服…けれど、ウチはその綺麗な容姿に、思わず目を見開いた。


 肩まで伸びた色素の薄い亜麻色の髪に、肌悩みなんか一切なさそうな白い肌…。

 身長はウチより小さく、幼い感じを彷彿ほうふつとさせるが…その確かな存在感がそれを消している。

 まるで一輪いちりんの花みたいに思えるし、凛とたたずむ麗人にすら思える…。

 すっげー美少女だった…。

 なんだコイツ、前世はビスクドールかなんかかよ…。


 完成された容姿の天城に、ウチは終始呆然としたまま立ち尽くしていた。

 相変わらず天城はキョロキョロとウチを探していて、その姿にハッと意識を取り戻す。


「なあ、アンタが天城?」


 ウチはすぐに天城の元へと近寄って、声を掛ける。

 やべぇ、今のウチ…なんか不良っぽくね?いや不良なんだけどさ。


「はい…もしかして、あなたが瀧川さんですか?」


 ウチの目を見て、美少女は言う。

 やば…めっちゃ声良いじゃん。


「ああうん、ウチが瀧川だよ」

「どうも初めまして、私は天城麗奈と言います。今日はよろしくお願いしますね」


 ぺこりと礼儀正しく一礼されて、ウチは反応に困った。

 思った以上にお嬢様だし、思った以上に美少女だった…!ていうかこれ、なんて返したらいいんだ!?


「…ス、こっちもよろしく」


 …なんだこの男子高校生が女子にやる挨拶は……!


 天城の顔をろくに見れずに、ウチはぺこりと頭を下げた。

 すでにウチと天城に格差が現れていて…すっげえ恥ずかしくなる。

 ユウキのやつ、いつもこんな美少女と付き合ってんのか…やべえなアイツ。


 流石はコミュニケーションモンスター…とユウキに敬意を払っていると、天城がウチを見て提案した。


「では、どこか休める場所に行きませんか?そこで色々お話をしましょう」

「まあ、確かにそうだな…とはいえ、どこに行こうかな」


 ウチ、話し合いにてきした場所とか知らねえぞ…。

 金持ちからすれば、小洒落た喫茶店とか…高級なバーとかそういうのなんだろうが、生憎あいにくウチはファミレスとかそこら辺しか知らねえ…!


 そんなところにお嬢様を連れていけるか?って言われると無理な話だ。

 だってあれだろ?金持ちはファミレスとか行った事ないんだろ?勝手な偏見へんけんだけど。


「とりあえずそうですね、あそことかどうですか?」


 ウチが悩んでいると、天城が私の後ろを指差して言った。

 振り返ってウチも見てみる…そこには。


「サイゼリャじゃん…」


 普通にファミレスだった。



 店に入って、席に案内されて、それからメニューを注文してから思った事は「金持ちってファミレス来るんだ…」という稚拙ちせつな感想だった。

 まあ、固定概念に囚われすぎてたウチが悪いよな…これ。


 勝手な偏見押し付けてた天城に心の中で謝罪してから、ウチはコーラを一口飲む。


 しっかし…すっげー絵面。

 ウチの目の前には絶世の美少女がいて、しかもそいつはウチの友達の許嫁…。

 なにこれ?フィクションか?ならもう少しリアルにせろよ。


 しかし残念なことにこれが現実。

 もう少しフィクションの方がリアリティあるだろ!?


「それでまあ、ウチが天城さんの事知りたくて今日呼んだんだけどさ…ぶっちゃけアイツとどこまで行ってんの?」

「どこまで…ですか、そうですね」


 顎に手を乗せて、天城は頭をひねる。

 すると、天城はポッと頬を赤く染めてから、恋する乙女みたいな顔でぽつりと呟いた。


「キス…はもうしましたね」

「ま、まじ?」


 おお…と息を漏らして、顔を近付ける。

 キスしたんだ…まじか、天城とユウキって既にキスしてるカンケーなんだ!


「な、ならさ…!キスってどんな感じだったの?」


 そこのところ一番詳しく聞かせてくれ!と詰め寄ると、天城は赤くなった頬をそのままに、そっとうつむく。

 めっちゃ恥ずかしがってんじゃん…と恥じらう天城にドキッと心臓が跳ねて、ウチは天城の返事を待つ。


「き、気持ち良かったです…」

「ぐ…具体的には?」

「…ふ、ふにふにと柔らかくて…あったかくて、それでいて甘い…何度でもしたくなるようなキスでした…」


 ぽそぽそと静かにそう言って、天城は恥ずかしさのあまりに顔を手で覆う。

 いや、ウチの方が恥ずかしいんだけど…ここまで濃縮された恋バナを聞けるとは思ってもなかったんだけど!


「ま、まじかぁ…そんなに良かったのか…」


 ウチの言葉にこくこくと天城は頷く。

 それから、微妙な沈黙が流れたあと…まだ火照ほてりが残った表情で天城がウチの前に顔を近付けた。

 今度は天城の番だ。


「あの、瀧川さんに聞きたいんですけど…!結稀さんが好きなものってなんですか?」

「アイツの好きなもの?」


 そう聞かれて、ウチは悩んだ。

 アイツ、好き嫌いとか特にないんだよな…強いて言えば人と仲良くなることが好きなコミュ力お化けなんだが…まあ、天城が求めてるのはそうじゃないよなぁ…。

 

 でも、とはいえ長いことアイツの友達やってんだから、少しくらいはアイツの事を知っているつもりだ。

 だからウチは、悩みに悩んだ結果…ある答えにたどり着いた。


「アイツ、スキンシップとか好きだよな」


 抱きついたりとか、手を繋いだりとか。

 ウチもされたことあったし、他の友達相手にハグをしてた所を何回か見たことある。

 まあ、あんな性格だからスキンシップが過剰になりがちなんだが。


「実際、アイツ前の学校で好き勝手やってたしなぁ…」


 ははっと昔を思い返してウチは苦笑する。

 すると、途端にぞわっとウチの身体に悪寒が走った。


「へぇ、それは…詳しく聞きたいですね」


 奥底から響くような声と共に、ウチの背筋に冷や汗が垂れる…。

 ウチの視線の先には、氷のような微笑を浮かべる天城がいた。


 めっちゃキレてる!?


「まあ、結稀さんがスキンシップが過剰なのは私も知っています…癖みたいなものですよね、あれ」

「まあ、そうだな…」


 分かってるならその気迫やめろよ!?めっちゃこええよ!?

 

 ゴゴゴゴゴと溢れる気迫に、ウチはビビりながら…その気迫が薄れていくのを待つと、天城はこほんっと咳払いをした。

 どうやら、怒りは収まったようだ…。


「他にも色々聞きたいことがあるのですが、聞いてもいいですか?」

「まあ、答えられる範囲でな」


 苦笑を浮かべると、天城は微笑んだから私に質問した。

 それは質問というより言葉責めって例えた方がしっくりくるくらい疲れるものだった。


 再婚前の私生活、口癖、授業態度に成績…課外活動中の活躍や、人付き合い…友達の数。

 それに普段の立ち振る舞いとか好きな服装、食べ物、飲み物、嫌いなもの…性感帯に中学校の頃とか小学校の時とかとにかく色々……!


 一応…答えられる限りのやつは、全部答えた…。

 それでもまだ天城にとっては情報不足のようで、まだまだ質問する気満々だった…。

 けれど、息切れするウチを見て察したのか…天城は最後の質問を聞いて来た。


「最後に聞きますが… 結稀さんの誕生日って、いつでしょうか?」

「はあ、はあ…え?誕生日?」


 もしかして知らないの?


「…はい」

「まじか、知ってるもんだと思ってた」


 意外だ…とコーラを一口飲んでウチは思う。

 とは言え、聞かれたら答えてあげるのが世の情け…ウチはニヤニヤしながら天城を見た。


「なにかプレゼントでもすんの?」

「あ、当たり前じゃないですか!大切な人なんですから!」


 さも当然のように「大切な人」と言い切って、ウチは恥ずかしさに悶えた。

 めっちゃ大切にしてんじゃん…!!


「アイツもめっちゃ愛されてんな、ちなみにアイツの誕生日は7月7日だな。みんなからはラッキーデイとか言われてた」

「7月…7日?って、もう来月じゃないですか!」

「そんなに驚くほどか?割と時間空いてるし、準備出来るだろ?」


 プレゼントって言ったって、数日あれば用意出来るもんだし…。


「そんな!結稀さんが生まれた日ですよ!?感謝を込めて世界一周旅行とか、金の彫刻とかをプレゼントした方が…!」

「そんなんしたらアイツ爆発するぞ!?」


 ボカーンッて四肢爆発だぞ!?


「つーか…そんな豪華すぎるものより、もっと簡単なのでいいんじゃないか?なんならウチも協力するしさ」

「い、いいんですか?」


 溜息を吐いてウチが言うと、天城は子犬みたいな瞳でウチを見つめる…。

 まじで困ってるみたいで、天城はウチの手を掴むとテンション高めの声で言った。


「ありがとうございます!まさか助けてくれるなんて!」

「いやまあ、ウチもあんたら二人のこと気になるしさ」


 だって許嫁とかいう関係で、二人は現在進行形で関係が進んでんだろ?気にならない訳がねーじゃん。

 それに…。


「二人が結婚するとこ、ウチも見て見たいしさ」

「けっこん……」


 キメ顔でウチが言うと、なぜか天城は豆鉄砲を喰らった鳩みたいに面食らっていた。

 あれ、ウチってばなんか変なこと言ったか!?


「結婚…そうですね、なら私達が結婚する時、進行役は瀧川さんに任せましょうか」

「は!?んな大役ウチには無理だろ!?」


 ふふっと笑いながら天城はウチに大役を押し付ける。

 いやいや、ウチはただ見てればそれでいいのに!?と反対するが…天城の中では既に決まってしまったようだ。


 天城は嬉しそうに微笑みながら、続けて言う。


「今日、すごく緊張してましたが…瀧川さんがすごく良い人で安心しました」

「…それを言ったら、ウチもなんだけどな」

「ふふっ、じゃあお互い緊張してたんですね」

「ふっ……だな」


 クスクスと互いに笑い合ったあと、ウチらはまた話し合いを続けた。

 既に緊張はなく、打ち解けた雰囲気で…ウチは天城の恋愛相談に乗るのだった。


◇お知らせ◇


どうも、犬です

最近は何でも好きって言っちゃう女の子が……タイトル長いので『好き勘』と略すのですが、最近『好き勘』に集中して他の話が書けない状況が続いているので…。


とりあえず他の話は未完として終わらせる事にします。本当にすみません。

なので、今はこのお話を完結する事を目標に頑張っていきたいと思っており…。

完結したら、他作品を順番ずつ終わらしていこうと考えています。


自分勝手で、本当にすみません。

今は頑張って、好き勘の物語を書いていきますので…どうか支えてくれると嬉しいです。

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