第20話 瀧川朧の驚愕
久しぶりにユウキと遊んでやろうかと思っていたら、なぜか電話には知らない女の声が出て来て、最初は焦った。
その声の主は品が良さそうで、お嬢様って感じの声だ。
ただ、体調が悪いのか
女は自分の名前を天城麗奈と言った。
知らねぇ名前だった、多分…ユウキのやつが転校先で仲良くなった友達なんだろうなと、ウチはすぐに理解した。
しかし、どうしてユウキのスマホから知らない女が出るのか?そう思っていると天城はその理由をすぐに答えてくれた。
『結稀さん…スマホを忘れていってしまい…』
ああなるほど、あのバカ…スマホを忘れたのか。
だからどれだけ電話しても出なかったワケか…。
当の本人はそこにいないらしく、天城が今日一日中スマホを預かっているらしかった。
じゃあ、他人と電話してもあまり意味はないなとウチは電話を切ろうとすると。
その矢先だ、天城の声がウチを静止させたのは。
『あの、結稀さんのこと教えてくれませんか?』
電話の向こうで天城がそう言う。
ユウキの事が知りたいって。
いつも会ってんじゃねえのかよとツッコミたい気持ちはあるが、ウチはぐっと堪える。
…少し、気まずい気はするが……まあ、教えるくらいなら全然良いだろ。
それにウチ、今ちょーひまだし。
ていうか、その為にユウキに電話掛けたとこあるしな。
「まあ、いいよ」
素っ気なく返事を返す。
すると、思った以上にテンションの高い声が耳元に返ってきた。
『ほんとですか?では早速、結稀さんが前に通っていた学校の話を聞きたいのですが!』
「めっちゃ食いつくじゃん、アンタ」
ちょっと引き気味になったウチは、電話をそーっと遠ざける。
が、まあ聞かれたら答えるしかないよな…とウチは過去を掘り返した。
初めて会ったのは、確かゲーセンだ。
不登校でだらだらと街を彷徨っていた頃で、昼間っからゲームに
元々、ウチはかなりの不良だった。
名前の
そんな時に、やたらめったらデカい声を振り
『ねえ、オボロちゃんだよね?』
薄暗い店内でも輝く派手な金の髪が、ばっさぁと振り撒かれる。
めっちゃキレーな髪じゃん…とウチは思わず息を呑んだのを今でも覚えてる。
その後、そいつは自分を結稀と名乗ってからウチの前に近付いてきた。
純粋無垢な笑顔で、ウチの手を握るとユウキは言った。
『担任に頼まれて来たんだけどさ、とりあえず友達になろ♪』
なんだこいつ、と最初は思った。
というより思わずにはいられないよな、だって犬みてえだもん、コイツ。
ウチはユウキの手を振り払って、その時言ってやった。
「担任に言われて来たやつに仲良くなれるか」ってな。
そしたらアイツなんて言ったと思う?
『じゃあ、私も学校休んで一緒にゲームするよ!そしたらもう友達でしょ♪』
なに言ってんのか分かんねえけど、ユウキはそういう奴なんだとウチは
それから、気が付けばウチらは仲良くなっていた。
孤独を気取っていたくせに、気が付けばアイツの事を友達として見ていた。
そして、気が付けばユウキは別の学校へと転校してしまう事を知った。
「それからはまあ、ちょくちょく連絡を取ってだんだけど…まさか、突然アンタが出て来て驚いたよ」
回想終了。過去を言い切ったウチは「ふう」と息を吐いて天城の返事を待つ。
すると、なぜか電話の向こうでは不機嫌そうな声が響いて来た。
『ふぅん…そうですか、そーですか』
『結稀さん、本当に誰でも距離感が近いですよね…なんなんですか、なんなんですかほんとに』
ぶつぶつと電話の向こうでお嬢様が文句を言っている…。
声がぼそぼそとしてるから、上手く聞こえはしないがユウキに対して怒っているようだ。
こいつ、なにかとユウキのやつに反応するが…なんでなんだ?
ふと、ウチは疑問に思う。
この天城とかいうお嬢様は、やたらとユウキに関しての事を聞きたがる。何故だか知らんけど、ユウキの事を特別視してるみたいだ。
……特別視か。
聞いてる限り、かなり特別な関係っぽいけど……。
自分から将来を誓い合った〜とか言ってたしな。
女同士で何を誓い合うんだか………ん?
一瞬、変な事を思い浮かべてしまうウチがいた。
天城の特別視は、もしかしてそういう感情じゃあないのか?って。
それなら、やたらとユウキの事を気にかける理由も分かる…それに、将来を誓い合ったとか普通友達相手に言わねぇだろ?
…もしかして、この天城って女。
ユウキに
い、いやいやいや…それは考えすぎだろ。
突飛すぎて意味わかんねぇよ。
それにさ、うん…こういうのは勘違いって可能性もあるし、まず相手にちゃんと聞くべきだよな!
「なあ、天城さん…あんたにとってユウキってどんなヤツなんだ?」
『私にとっての結稀さん…ですか?』
さりげなくウチは聞いてみる。
天城は少しだけ「うーん…」と言いながら悩むと、すぐに答えを返した。
『特別で大切…かけがえのない、パートナー…ですかね♡』
「ふうーん…」
素っ気ない返事をウチは返す…けれど。
これ100%惚れてんじゃねえか!?
なに最後にハートマーク付いてんだよ、これガチでユウキのやつが好きじゃん!?
え?アイツなにやってんの??転校先でなにお嬢様に手ぇ出してんだよ、怖えよ!!
内心、ウチの心臓バックバクだった。
というかめっちゃドキドキしてた!
女同士の恋愛ってマジであるんだ…というかユウキのやつ、こんなお嬢様と付き合ってんのかよ!?
なんつーか、困惑通り越してもはや感動すら覚える…。
ウチ、結構恋愛モノの話が好きだからか…今の状況はかなりの興奮モノだ。
と、とりあえずだ…平静を
「
『そうですね…私と結稀さんの出会いは、結稀さんが転校して来たすぐの日の事でした…』
まあ、アイツのことだから初日からテンション全開だろうなと…ウチはコーラを飲みながら、その光景を想像する。
『私と結稀さんは隣の席で、その時にですね…』
ウチの時みたいに「友達になろう!」とか、上機嫌で言われたんだろうなぁ…。
『告白されたんです!』
「ブフォッ!?」
ぐはっ…げほっ、げほげほげほっ!!
やばい、気管に思いっきりコーラが…!た、炭酸がっ…!!
『ど、どうかされましたか?』
咳き込むウチに天城が心配そうな声を掛ける。
しかし、今のウチは
コーラを吹き出して、目の前はコーラでびちゃびちゃ…服もべっとりとコーラが付いていて大変なことになっていた。
だが、こんな事で天城の話を中断する訳にはいかなかった。
だって、アイツなにやってんの!?
会って早々告白ってなに!?
「だ、だいじょぶだからさ…つ、続けて」
『そうなのですか?では続けますが… 結稀さんに告白された後…私は結稀さんに結婚の申し出をされたのです!』
きゃあー!と恥ずかしそうに天城は語る。
はいはいなるほどね、告白のあとに結婚の申し出?へぇ、アイツすっごい思い切ったことするね……ってなんで!!?
いや、なんで!!?
「なんで!?」
『ど、どうしました?』
ウチの大声で、天城は驚きの声を上げる。
驚きたいのはこっちの方だと逆ギレしながら、ウチはこほんっと咳を払った。
「いや、なんでもない…まあ、天城さんがユウキのやつとすっげえ仲良いってことは分かった」
とはいえ、アイツがどうして告白なんだとか結婚の申し出をしだすのかウチには理解出来ない。
つーかもっと詳しく聞きたい!!
なんだよ初日に告白って気になる通り越して、ずっと見てたいわ!
よし、こうなったらあれだ。
ウチはうんと頷いて、意を決す。
「つか、今の話聞いてたら天城さんのこと気になり始めてきたわ」
『私がですか?』
「まあ、ユウキのやつに問いただしたい気分はあるんだけど…今は天城さんに色々聞きたい事がある」
だからさ…とウチは声を上げる。
「今週の休みの日、ウチと会わない?」
『え?』
「いやまあ、アイツの友達がどんな奴か気になるし…それに今の話もっと聞きたいしさ」
だから〜と緊張しながらウチは言った。
休みの日、ウチと遊ぼうぜって。
ホントはユウキのヤツを誘ってどっか遊ぼうと計画していたが、計画は変更だ。
しかし、友達のいねえウチがこうして誰かを誘うなんて思ってもなかったな…。
『瀧川さんと…休日に、ですか?』
「別にとって食おうだとか思ってないよ」
警戒されてるみたいだから、ウチは精一杯の優しい声で天城さんに説得を
心がドキドキと高鳴ったが、次の瞬間…天城は「いいですよ」と言った。
『はい、私自身瀧川さんの事を気になっていましたし…もっと私の知らない結稀さんを知りたいので良いですよ』
「まじ?じゃあ場所はウチが決めるから、任せてくれ!」
『あ、では私の連絡先を教えましょうか?』
そうして、ウチらは連絡先を交換…。
詳しい事は後日…と決めたあと、この電話も終わりが近付いてきた…。
なんつかーか…濃い会話だったな。
『では、当日はよろしお願いしますね?瀧川さん』
「ああ、もちろんユウキのヤツには内緒で頼むよ」
『ええ、分かってます』
天城は仄かに微笑んで「それでは」と言った後、電話を切った。
天城との繋がりが切れたあと、ウチは「ふう」と息を吐いて緊張を
なんか、随分と大変だったな…。
ユウキのやつ、あんなお嬢様相手に仲良くしてんのか…すげえな。
つか、仲良く以前に告白とか色々気になることあるから、いつか問いただしてやんねーとな。
「さて…」
ウチは立ち上がって、姿見を見つめる。
赤のメッシュが入ったウルフカットの髪に、切れ長の眼は相変わらず人相が悪い。
耳にはピアスをしてるし、当日天城に会ったら驚かれるかもな…。
まあ、その前に。
「服、コーラでべったべただし…部屋もやべえな」
とりあえず、吹き出したコーラで汚れた部屋を片付けるか……。
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