第12話 ゆけむりとめぐるおもい⑤
小さな
じくじくとした熱が、胸の奥から溢れてきて…なぜか全身がむず
荒っぽい吐息を吐きながら、目を
ふにふにと、優しく…ゆっくりと揉まれ続けてから、一体どれくらい
麗奈に胸を揉みたいって言われて、私は恥ずかしかったけど了承した。
正直、麗奈がそんな事を言い出すなんて意外で驚いたけど…
それだけ、麗奈は私のことに興味があって、私のことを親友だって思ってるんだって、そう思ってた。
ほら、よく聞くじゃん?
女友達同士でふざけあってキスしたり、胸を揉み合ったり。
私、麗奈の行動は全部そういうやつなんだって思ってた…でも、でもこの熱は…麗奈から溢れる感情はきっと…。
友達という枠組には当てはまらない、もっと別の感情なんだって…気付きかけてる。
心の奥底では分かってる、でも…喉に魚の骨が突っかかったみたいに、その感情の名前が出てこない。
麗奈は多分、そういうおふざけをしているんだと私自身がそう思い込もうとしてる。
こんなの…友達同士でするはずもないのにって…頭の裏側の中でそう思いながら。
「は、はぁっ…んっ」
「結稀さん…結稀さん…♡」
胸にびくんっと波が走った。
私は吐息を跳ねさせながら、びくりと身体を震わせると…後ろで抱きしめていた玲奈がうわごとのように私の名前を呟いていた。
麗奈の手つきはやらしくて…指の一つ一つが味わうように
嫌悪感のない揉み方で、じっくりゆっくりと指を
や、やば…。
気付いた瞬間、私の頬は紅に染まった。
視線の先には…私の胸に突起物がぷくりと膨れていたのを見たからだ。
揉まれ続けて…私も興奮してたのかもしれない。
(乳首、たってる…!)
恥ずかしくて…死にたくなった。
麗奈に揉まれ続けて、そういう気になってしまった自分が…どうしようもなく、無性に恥ずかしくて仕方がなかった。
もちろん、こんなに立っていたら…揉んでいる麗奈も気付くのは当たり前のこと。
背後で…麗奈の吐息が当たった。
「結稀さん…もしかして、興奮してるんですか?」
「い、いや…これはっ…ちが、くて!」
「なにが、ちがうんですか?」
「なにがって……あ、あう…ううう〜っ!」
何がって問われても、答えられるわけがない!
なのに麗奈は、分かっててそう言うのだからすごく意地悪だと思った。
でも、思っただけで終われば…それで良かったんだけど。
「結稀さん…つまんでも、いいですか?」
ぴとっ…と麗奈の指が突起に触れる。
思わず、びくりと身体が震えてしまう…!
「ッ…あっ!」
「どうしたんですか?すごく苦しそうな表情をして…もしかして、とても切ないと思ってませんか?」
「れ、麗奈ぁ…だめ、だって…!やめ、てよぉ!」
クスクスと…小悪魔みたいに微笑んで、麗奈の指はくるりと周辺に輪を描いた。
また、ぞくぞくと波が走る…!
我慢しようと、ぎゅうっと奥歯を噛んだけど…全身に走る波に、私は勝てなかった。
だめ、これはほんとうに…だめ!
理性が叫びを上げる、これ以上はだめって感覚で理解する。
抵抗しようと身体を動かそうとする私。
でも、麗奈はぎゅっと私を抱きしめていて…私の身体は
「結稀さん…逃げないでください、まだ私は満足してませんよ?」
「で、でもっ…でもぉ!!」
「でもじゃありません…触らせてくれると言ったのは結稀さんじゃないですか♡」
責任を取らないとダメですよね?と耳元に唇を近づけて…ぽしょぽしょと呟く。
また、ゾクゾクとした感覚が背筋に走って…私の身体は「く」の字に曲がった。
「くぁッ…!うぅんっ…!」
切ない声が、私の喉から飛び出る。
私らしくもない声だった、こんなに媚びたような声が出るなんて…私自身信じられなかった。
背後では麗奈が、吐息を吐きながら喜んでいるのがなんとなく分かった。
「結稀さん、すっごく可愛いですよ」
「いわ、ないでっ…!」
ふるふると抵抗するように首を振るう。
今、かわいいとか言われるとどうにかなりそうだった。
これ以上、気を許したら本当に…本当に友達に戻れなくなるっ…!
「もう、やめて!!」
ばしゃばしゃと湯船の上で暴れ、荒れた
お互い、顔は真っ赤だった。
それから数分くらい長い沈黙のあと、麗奈がハッと我に返ったように瞳を揺らす。
「あ…私、その」
両手があたふたと宙を舞う。
瞳がきょろきょろとあちこちに行って、視線が合わない。
しどろもどろになった麗奈は、その後少しだけ落ち着いたのか…しゅんと俯いて言った。
「すみません…やりすぎました」
「結稀さんが嫌がってたのに…あんなことを、本当に…すみませんでした」
頭を下げて…謝る麗奈。
その姿に罪悪感を覚えたものの、私は言葉を発することはなかった。
さっきのはやりすぎだ…!と、麗奈を責めたい自分がいることに嫌悪感を覚える…。
別に、あれはただの愛情表情みたいなものだよ…きっと。
だから謝らなくてもいいって、言いたいのに…。
私は…なにも言えないまま。
「…私、先にあがってますね!」
「あ、待って…!麗奈!!」
無言のまま口を閉じていると、麗奈はそう言って逃げていった。
「……………」
また訪れた沈黙。
湯船に浸かったまま…私はぎゅっと拳を握りしめた。
◇
あの後も、気まずい雰囲気が流れ続けた。
何度か会話をしようとしても、
微妙な距離感だけが…部屋に残り続けている。
息苦しくて、動き辛い…嫌な空間。
苦し
今日は…こうなる筈じゃなかったんだけどな。
もっと、二人で笑い合って…楽しげで。
もっと、もっと仲良くなれたらって思ってたんだけどなぁ…。
「………こんなはずじゃなかったのに」
ぽそりと呟いて、私は部屋の隅にいる麗奈を盗み見た。
本をじっと読む麗奈は、まるで本以外の全てを拒絶しているようにも見えた。
あそこだけ、世界が完結しているみたいで…私が入る隙が全くない。
それに、麗奈の表情は酷く冷たかった。
いつも見せる困り顔とか、笑顔を忘れてしまうくらい冷たい顔。
私が今まで見てたものは全て幻だったんじゃないかと不安になるくらいだ……。
いや、違うかな…。
多分あれが麗奈がいつも見せてる表情なんだと思う。
麗奈は人を寄せ付けない。
それは、麗奈自身からも周囲の人から聞いた私の知らない麗奈の過去。
あんな風に周囲を拒絶して、今まで生きてきたんだと思うと…心臓がきゅっと締め付けられるみたいに悲しくなった。
麗奈…。
そんな表情、してほしくない。
いつもみたいに、私に振り回されて…困ったような顔をして笑ってほしい。
そんな冷たいの…いやだよ。
じゃあ、どうするかなんて…決まってる。
怖気付いてる場合じゃないって、心が急かす。
さっきまで、足に根が
ずっと隣にいるって、決めたもの。
なら、約束はきちんと…果たさないと!
「ねえ、なに読んでるの?」
◇
本を読むのは久しぶりでした。
結稀さんと一緒にいて、読む機会が全くなかったので、続きを読み始めても話の内容が分かりませんが…それでも私はページをめくります。
内容は頭に入ってきませんでした。
脳裏に浮かぶのは先程の
結稀さんに振る舞った最低な蛮行。
あれだけ結稀さんが大切で、好きだったのに。欲に振り回された結果…結稀さんに嫌われてしまった。
本当に…なんてことをしたのでしょう。
大切にしたいって誓ったのに…結稀さんが嫌がることをして、私は喜んで!!
最低です…本当に、最低です!私…!!
唇をぎゅっと噛み締めます。
自身の
それ程に、私の犯した罪は…裁かれるべきものなのです。
いっそ、このまま業火に焼かれたい…。
私が死ぬ妄想をしながら、ページを
もう、いっそのこと誰か私を殺してはくれないでしょうか…。
それ程に私の心はぽっかりと
罪悪感を
早く、この場から逃げ去りたい…ただその一心で……。
…時が過ぎたとして、私達はどうなるでしょうか?
ハッと…私は思い返します。
このまま私達の関係が終わってしまえば、もう仲良くすることも…想いが伝わる事も永遠になくなってしまう。
結稀さんが好きなのに、好きという気持ちを抱えたまま…
もしかしたら、二度と会えないかもしれない…。
結稀さんが、知らない人と一緒になるのかもしれない…。
胸の内がざわざわと騒ぎました…。
締め付けられるように痛みが走り、次第に息が荒くなっていきます。
いや、そんなのイヤです…!
結稀さんの事を諦めるなんて…そんなの、そんなの!!
できないのに…私は、なんで……あんなことを…!
目を
もう、どうにかなってしまいそうでした。
辛くて悲しくて、自分が嫌いになったのはこれが初めてでした…。
結稀さん…ごめんなさい。
嫌がってたのに、どうして私は…あんなことをしたんですか……!
謝りたい…。
結稀さんに…あやまりたい!!
そう、思った矢先。
「ねえ、なに読んでるの?」
優しい声が…私の耳に入りました。
俯いていた顔を、私は上げます。
そこには、本を覗き込む…結稀さんの顔がありました。
「結稀さん…」
「うん、結稀さんだよー」
結稀さんは掌をひらひらとさせて、言いました。
お互いの表情が少しぎこちない。
歯車が噛み合わないように、未だ私達も噛み合っていませんでした。
だからか、私は…何を言ったらいいのか、分かりませんでした。
「なんでしょうか?」
酷く冷たい声で問います。
「麗奈と仲直りがしたいから、かな」
するとすぐに、返答が返ってきました。
仲直り…私が一方的に悪いのに、結稀さんがわざわざ来る必要なんてないのに…。
「あれは…私が悪いんです。だから結稀さんがそんな事を言う必要は…」
「あるよ」
「…は?」
きっぱりと言い切って、声が漏れました。
結稀さんは真剣な表情で私を見つめています…。
「あるよ、だって私言ったもん」
「なにを…」
「麗奈の隣にいる。私、麗奈から離れるつもりはないから、だから仲直りするの」
そして、いつもみたいに太陽のような明るい笑顔を浮かべて…私をぎゅっと優しく抱きしめました。
「ありがとう…私のこと好きって言ってくれて。可愛いって言ってくれて」
「ゆ、結稀さん……」
「嬉しかったよ…それに、さっきのこと、別に私に嫌がらせをしようとした訳じゃなかったんだよね?」
「で、でも…私、結稀さんにあんなことして!」
涙が、溢れてきそうでした…。
いえ、既にぽろぽろと生暖かい水滴が私の頬を
心が、叫び出したいくらい…いたい。
でも、抱きしめられて…そう言われて嬉しくて満たされて…もう、なんて表現したらいいのか分からない感情が私に渦巻いていました。
「ご、ごめんなさい…!結稀さん…!ごめんなさい……!
「もう、謝らなくてもいいのに…せっかくの可愛い顔が台無しだよ?」
流れる涙を結稀さんの指がすくって、結稀さんはそれをぱくりと口に入れました。
「うんっ、しょっぱい!」
「は、はは…でしょうね…ふふっ」
「「ふふっ、あははは!」」
それがなんだか可笑しくて、私達は笑いました。
それから、少し経って…涙が引いてきた頃、結稀さんは言いました。
「麗奈、あとで約束果たそっか」
「…なにをですか?」
きょとんと、首を
すると、結稀さんは「忘れたのー?」と信じられないような顔をしてから…その顔を耳元にまで近付けて、言いました。
「キス、するんでしょ?」
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