第11話 ゆけむりとめぐるおもい④


「すっごぉ……」

 

 子供っぽい感想と共に感嘆かんたんの声が漏れる。

 髪をタオルで巻いて、すっぽんぽんのまま目をまんまるにさせて立ち尽くすのは私こと柴辻結稀。

 私が棒立ちで立ち尽くすのも、それもそのはずだった。

 本来、貧乏庶民の私には絶対に縁のない高級旅館に泊めてもらうこと自体なにかの間違いなのに。

 こうしてテレビでしか見たことのない絶景の温泉に入れるという事実に、私は受け止め切れずにいた。


 もうなんていうか、全体的にすごい。

 どーんっ!てしていて、ばーっ!としていて、とにかくそのえっと……すごい!

 うん、だめだ脳がショートしててまともな感想浮かんでこないや。完全に小学一年の時に書いた、稚拙ちせつな読書感想文みたいになってる。


 ここが、貸切かぁ…。

 ふおおお…と変な息を漏らしながら、私は思わず興奮してしまう。

 今日、ここに泊まってる人は私たちしかいなくて…必然的に温泉にやってくる人も私達だけになってしまう。つまり、目の前に広がるこの絶景の秘湯は私達だけのものなのだ。

 

 まじかあ…まじなのかぁ…。

 この事実だけで、さっき麗奈とキスしかけたことを忘れかけてしまう。

 それくらいインパクトのあるリアルっていうか、茫然自失ぼうぜんじしつというか…。


 というか、これ入っていいのかな?もうシャワー浴び終えたけど、正直入るの抵抗あるんですけど!!入ったら罰金とられるとかないよね!?


 『庶民風情が入れると思うな!』って怒られたりしないよねぇ!?

 ガタガタガクブル…ありえそうな想像だから余計に怖くなってしまう…!

 というか本当にそうなっちゃうじゃないかなあ!?


 と、私が恐怖していると、背後からぺたぺたと足音が聞こえてきた。

 私はハッとなって振り返ると、胸元をタオルで隠した麗奈がそこに立っていた。


「あれ?結稀さん入らないんですか?」

「れ、麗奈…」


 瞬間…私は石像みたいに固まった。

 一瞬、呼吸を忘れてしまうくらい麗奈が綺麗だったから。


 麗奈はスタイルがいい。

 それは服越しからでも分かる事実で。きっと脱いだら凄いんだろうなあ、なんて何度か想像したことがある。

 けど、実際は凄いなんていう感想で終わるようなものじゃなかった…。


 陶器とうきみたいな白い肌、なめらかな曲線美にモデル顔負けのスラっとしたスタイル。

 とても同じ人間とは思えない…ドールのような、完成された美しさがそこにはあった。


「……キレイ」


 ぼーっとしたまま、うわ言のように感想を呟くと、ハッと思い出して意識を取り戻す。

 やばい、麗奈のスタイルの良さに意識持ってかれてた…!!


 途端にいつもの騒がしさを取り戻した私は、あたふたと慌て始めた。


「あーいや、その麗奈ってば…やばいね!めちゃくちゃ可愛い!」


 どうしよ、麗奈の裸を見て一目惚れしてたとか言ったら笑われるかな?それともドン引きされるかな!?

 必死に取りつくろうとした私だったけど、麗奈はそんな私を見て…ニヤリと嬉しそうに笑みを浮かべた。


「もしかして結稀さん、私のことを見て一目惚れしてましたか?」

「えっ!?あの…その!」

「ふふっ、結稀さんにそう思ってもらえて光栄です♪ ところで…私のどこにかれましたか?」


 にまにまと嬉しそうに笑いながら、麗奈は私の顔を覗きこむように寄ってくる。

 綺麗な瞳が私だけを映して、薄い亜麻色の髪がゆらりと揺れている。


 タオルで巻かれた胸元の隙間から、わずかに胸が見えてしまって…思わずドキリと心臓が飛び跳ねた。


「ねぇ、どこに惹かれたんですか?」


 私の心境なんて知らずに、麗奈は小悪魔みたいに寄ってくる…。

 やばい、やばいやばい、やばいよぉ!!

 心臓がドキドキしてへんになる!というか麗奈ってば、麗奈ってばあ!!


「麗奈ってば…え、えろすぎ」

「えっ…えろい?」


 照れながら感想をこぼすと、麗奈は小悪魔な笑みを崩して驚いていた。

 あーもう言っちゃった、言っちゃったよ!

 抑え込んでた感想をこぼして、私は顔を真っ赤にしながらうつむく…。


 あーもう、はずい…はずいはずいはずい!


「結稀さん…私の身体を見てそう思ってたんですね」

「そ、そーだよ!麗奈ってば羨ましいくらいスタイルいいし…それに、なんかえっちだし……」

「へ、へぇ…ふ、ふーん……結稀さんってば、相変わらず私のことが好きですよね」

「そうだよ…好きだよぉ…なんか悪い?」


 頬をふくらませて…私はいじける。

 麗奈の顔はまともに見れなくて見てないけど、声の調子から照れているのが分かった。

 それから、数秒くらい沈黙が支配して…麗奈は震える声のまま、ぽしょりと呟いた。


「結稀さんのえっち」


 えっ…!!

 えっちじゃないよ!と顔を上げて講義こうぎしようとした、麗奈と視線を合わせて言おうとした時、私はまたドキって心臓が跳ねた。


 麗奈の顔、すごく赤い…。

 まだお風呂に入ってすらないのに、のぼせたみたいに真っ赤に染まっていた。

 ぷしゅぅ、ぷしゅぅ〜って今にも湯気が見えてくるくらい…麗奈の顔は、嬉しさで染まってた……。



 ほんの少しの気まずさと飛び跳ねるような嬉しさが交錯こうさくしあい、言語化できない感情が私の中に渦巻いている。

 ドキドキと喜ぶと心臓をおさえて、私達は何も言わないまま…寄りうように湯船に浸かっていました。


 お互い、まだ入ったばかりなのに顔がれた果実のように真っ赤に染まっています。

 唇をキュッと強くむすんで、耐えがたい恥ずかしさに耐えながら…沈黙だけが世界を支配していました。


「……………」

「……………」


 肩と肩が触れ合って、なんだかむず痒い。

 肌と肌が密着して、流れる汗が混じり合う。


 私の胸に、じくじくと熱がともるのを感じました…。

 思考が曖昧あいまいになって、ぼやけて、溶けて…このまま結稀さんに触れたいって思ってしまう…。


 さっきから私…自分を抑制できていません。

 本来の私なら、ここまで積極的になるなんてありえないことでした…。

 でも、私をこうまで駆り立てる程に…結稀さんの事が好きで、可愛らしくて…仕方がないのです。


「…結稀さん」


 切なそうな声で、私は振り向きます。

 結稀さんも同じく振り返って、私達は見つめ合いました。


 じっとりとれて、きらめく黄金の髪。

 薄い桜色の…ぷるっと柔らかそうな唇。

 羞恥に紅潮こうちょうした、真っ赤なほほ


 ゆらゆらと瞳が揺らめいて、温泉の水音だけが私達の耳に響く…。

 世界は、湯煙が蜃気楼のように揺らめいていて、まるで私達の心境を表しているようにも見えました。


 …心が揺らめいて、なにもかも分からなくなっているような…。

 

「なに?麗奈」

「…あの」


 裸のまま…結稀さんは言います。

 私は結稀さんの目を見て話していたつもりでしたが、気がつけば視線は胸の方にいっていました。

 

 私よりも豊満で大きな胸。

 きっと触ったら柔らかいのでしょう…。


 そんなの、興味もないはずなのに…結稀さんの胸だからこそ気になってしまうのは、恋のせいなのでしょうか?

 じくじくと疼く胸の内で、私は少しだけ考えると…意を決して言いました。


「胸、さわってもいいですか?」

 

 もう一度流れる静寂。

 水音だけが鳴り響いて、結稀さんは驚いて目を大きく開いたあと…ぷっ、と小さく吹き出しました。


「あっはっはっは!すごい真剣な目で見てくるから何を言ってくるかと思ったらそっち!?」

「なっ、お…可笑おかしかったですか?」

「うん!すっっごくおかしかった!もう内心バクバクだったんだもん!」


 な、なんですかそんなに笑って…そんなに私の言うことが面白かったんですか!

 そうですか、そうですか!なら言うじゃありませんでした!!


「わ、笑うならもういいです!私は露天風呂の方に行くので!それでは!」


 むむむっと頬を膨らませてから、私は立ち上がります。

 逃げるように露天風呂に向かおうとする矢先に、私を止める結稀さんの声が背後に投げかけられました。


「ま、まってまって!笑ったのは謝るよ!」

「それでさ…その」


 結稀さんが湯船から立ち上がって…その裸体があらわになりました……。

 凹凸のある綺麗なライン、健康的な白い肌に肉付きのいい身体。なにより、私が先程凝視していた胸が…大きくて。


「揉むの?揉まないの…?」


 結稀さんが…恥ずかしそうに言って、胸を持ち上げました。

 思わず…生唾が喉を通ります。


「…は、はい」


 考える暇は…ありませんでした。

 というより、言葉が先に飛び出したのです。


 よろよろと、導かれるように結稀さんの元へと歩きます。

 もう一度湯船に浸かって…結稀さんを後ろから抱きつくようにして、手を通します。


「ほんとに…いいんですか?」

「お風呂入る前にいいって言ったし、だめって言わないよ」

「じゃ、じゃあ…触りますね」

「う、うん…」


 緊張がお互いに走る中、私の手は吸い込まれるように結稀さんの胸に触れました。

 

「…やわらかい」


 ふにっ…とした感触。

 そして、確かな重みと弾力。


 これが結稀さんの…結稀さんの。


 そこからは、曖昧で朧げで…自分が何をしていたのかハッキリとは思い出せません。

 ただ、ひたすらに夢中に…私らしくもなく結稀さんの胸を揉みました。


 優しく、そっと…乱暴にあつかわわずに丁寧に…しっかりと。

 結稀さんの吐息を耳で聴きながら…的確に気持ちいいところを優しく揉んでいきます。


「…んっ」


 甘い声が耳に入る度に…理性を繋ぎ止めている糸が、ぷつぷつと切れていく感覚がしました。

 あ、ああ…また、一本一本と切れていく。

 これ以上やっていたら、私は結稀さんをどうにかしてしまいそうでした…。


「ど、どうですか?結稀さん…はあ、はあ…気持ちいいですか?」

「あ、あはは…ど、どうだろ?で、でも…あっ、すこし……きもち、いいかも」


 …ほんとうに、結稀さんは!


 また、糸が切れる。

 理性が薄れる、常識が崩れる、本性が現れそうになる。


 好きで好きで好きで好きで好きで…!

 愛おしくて愛おしくて仕方がない!

 結稀さん結稀さん結稀さん結稀さん結稀さん!!


 結稀さんが…好きっ……!!


「…好きです、結稀さん」

「はあ、はあ…し、知ってるよ?麗奈」

「結稀さんは…私のこと、好きですか?」

「そんなの、あたりまえじゃん?麗奈のこと大好きだよ?一目惚れだもん」


 胸を揉んだまま、会話をします。

 結稀さんが私に「好き」と言ってくれるたびに、心はぬくもりで満たされる。

 汗が…私の頬を伝う。

 つうーーっと流れるように伝って…ぴちょんっと湯に落ちた。


 汗は波紋を描いて、広がっていく…。

 その広がりは、まるで今の感情を表してるように見えました。


 私の「好き」は結稀さんを知る度にひろがってゆく…。

 この初めての気持ちに振り回されて、今も困惑していますが、それでも…結稀さんをきっかけに知ったこの気持ちを…。


 私は大切にしたいと、そう思えるのです。


◇おまけ◇

 

小説のフォロワー数100人記念


結稀「フォロワー数100人いやったー!」

麗奈「急に喜んでどうしたんですか?」

結稀「あ、麗奈!いやねえ?私達のお話を読んでくれて、気に入ってくれた人が100人行ったんだよ!それって嬉しいことじゃない!?」

麗奈「そうなんですか?私にはあまり分かりませんが、結稀さんが喜んでいるということはめでたいことなのですね」

結稀「そうそう!じゃあ麗奈もさ『いやったー!』って喜んでみよう!」

麗奈「え、私もですか!?」

結稀「ほうらほら!一緒に喜ぼうよ!」

麗奈「ゆ、結稀さんが…言うなら、や…やってみます!」

麗奈「や、やった〜………」

結稀「元気が足りないねぇ?もっとこう…やったーー!!って感じで!」

麗奈「た、足りませんか!?そ、それなら…や、やったーー!」

結稀「もっと元気入れてー!ファイトだよー!」

麗奈「あ、ああもうっ!やったーー!!!」

結稀「おお〜!すごい元気!やっれば出来るじゃん!!」

麗奈「は、はぁ…すごく疲れました…」

結稀「ふふっ、お疲れ様〜麗奈。頑張ってた姿とっっても可愛かったよ!また好きになっちゃった♪」

麗奈「……そう言うなら、ちょっと近付いてください」

結稀「へ?うん…わかった」

麗奈(チュッ

結稀「へ、へっ!?い、いま…キ、キキ…キスした!?」

麗奈「ふふっ♪私も結稀さんが好きですよ♪」

麗奈「それでは、それではそろそろお楽しみと参りましょうか♪では結稀さん、みなさんにお別れの挨拶を」

結稀「へっ!?私?…あ、えと…ここまで読んでくれてありがとうございます…私達のお話もまだまだ続くので、応援をしてくれると嬉しいです……これでいいかな?麗奈」

麗奈「はい♡では結稀さん、今から寝室に行きましょうね」

結稀「ちょ、ちょっと待って麗奈!あ、あの…!そこの人た、たすけ…!」


 プツンッ……

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