第4話 それはお友達の距離感?
キーンコーンカーンコーン…。
授業の終わりを告げる、
先生は教科書を閉じると「はい、それでは皆さん予習復習を忘れないでくださいね」と言い残して教室から去って行きました。
そして、廊下に出て行った先生をクラスメイト達はじーっと眺めて…完全にいなくなったことを確認すると、途端に空気ががらりと崩れ去り談笑が溢れ返ります。
みんな、友達同士で喋り合っています。
私はそんな愉快に笑うクラスメイトの姿を見ながら、視界の横で揺れる大きな影に気づかないフリをしていました。
「ねぇねぇ天城さん!さっきはホントにありがとー♡それでさそれでさ!色々天城さんに聞きたいんだけどさぁ〜」
しゃらんっと音を
まるで昔からの友達のように振る舞っている彼女ですが、私と柴辻さんが出会ったのは一時間も前という…本当につい最近のことなのです。
そんな柴辻さんが、どうしてこんなにも馴れ馴れしいのかと言いますと…。
「友達になったんだからさ!下の名前教えてよ天城さん!」
私、天城麗奈は柴辻さんとお友達になったのです。
「私の名前ですか?天城麗奈と言います」
「へぇ〜
「すっ!?ま、まだあきらめてないんですか…」
「…ん?どうしたの?」
いえ…とくに何もありませんと否定しながらも、心の中では心臓がドキドキと跳ねていました。
私達がお友達になったのは先程の授業中のこと、教科書を忘れて困っていたところを私が見かけ、教科書を見せた途端に柴辻さんは言いました。
『え、まじ女神じゃん…ちょう好き、結婚してほしい……』
告白と同時に結婚の申し出…。
こんなことは人生で初めての経験であり、そもそも誰もが経験したことのない場面でしょう…。
そんな困惑に満ちた場面で、私は混乱しつつも言いました。
『そ、その…結婚は出来ませんが、お友達からはどうでしょうか?』
お友達から始めましょう…。
混乱の果てにそう言って、私達は友人関係になることに。
我ながらとても困惑しました、どうしてお友達になろうなんて言ったのか不思議でした。
けれど、それしか方法がなかったのです…。
だって、こんなのどう答えていいかわからないじゃないですか!
「天城麗奈さん…麗奈さん、麗奈ちゃん…」
私が心の中で叫んでいると、柴辻さんは
そして、何度か呟き続けていると納得したように顔を明るくさせて言いました。
「ねぇ!
「え?な、なにがですか?」
「名前♪さん付けは堅っ苦しいからね!麗奈って呼び方なんだか素敵じゃない?」
金の髪を
私はどう返したらいいのか分からなくて、無言のまま首を縦に振りました…。
「よかった♪それでさ麗奈、私の呼び方も下の名前でいいからね!気軽に
「え、でも…」
「え…呼んでくれないのぉ?」
私が言葉に詰まると、柴辻さんはうるうると瞳を揺らして今にも泣きそうな表情で言いました…。
な、なんですかそのずるいお顔は…言わなきゃ私が悪いみたいじゃないですか。
しかし、こうしてお友達になったのですから下の名前で呼び合うのが普通なのでしょう…。
私には友人がいたことはないので詳しい事は分かりませんが…。
それから私は少し悩んで、口元を
心の中で何度も名前を反芻させて考えます。
そのまま言うのは馴れ馴れしい感じがして嫌ですね、だから呼び方は…。
「ゆ、結稀…さん」
「はいなんでしょう♪」
なぜかすごく恥ずかしい思いをしながら、結稀さんの名前を声に出すと…結稀さんは満足気な笑顔で私を見ていました。
いじわるな人だと…私は思いました。
「私さ、今日すっごく緊張してたけど麗奈と友達になれて良かった!ありがとう!だい好き!」
「…ま、また好きって……!」
「あれ?もしかして麗奈ってば照れてるの?えっへへ♪大好きだよー麗奈♪」
「ちょっ、なにを!」
「はいぎゅーっ♡」
両手を広げて結稀さんが迫ります。
私はなす
わ、私よりも断然大きいです…。
胸に興味のない私でも、流石に敗北感を感じずにはいられませんでした…。
でも、それはそうと…結稀さんからすごくいい匂いがして心地良いと思ったのは、ここだけの
◇◇◇◇
「ねぇ麗奈、はいあーん♪」
「あ、あーん…」
お昼休み、手作り弁当を片手に私はだし巻き卵を
気分は小鳥の餌やりって感じで、なんて表現したらいいのか分からない幸福感を感じながら、私は麗奈との昼食を
「どう?手作りなんだけど美味しいかな?」
品の良さそうな作法で食べてる麗奈を見て、私は感想を聞いてみる。
私自身、それなりに美味しく出来ているから自信はあるんだけど、相手は超お金持ちのお嬢様だからお口に合わないかちょっと心配。
でも、もぐもぐと食べている麗奈の表情を見るに大成功!って感じのようだった。
最初は困惑しつつ食べていたけど、だんだんと表情が柔らかくなっていく。そして頬が
「とても美味しいです…!甘すぎない甘さが丁度よいですし、出汁が効いていますね」
「だいぶ好印象だね!じゃあ次はからあげをどうぞー♪」
「えっ、あ、はい!」
またですか!?と表情に出しつつも麗奈は逆らずに口を
あーん…と開かれた小さなお口に、少しもにょっと変な気持ちを覚えながら、私は可愛いお口にからあげを投入!
そうしてお昼ご飯を食べていると、ふと周囲の女子達が私達を見ていることに気が付いた。
ざわざわと小言が
「…私達、なにかしたかな?」
きょとんと、周囲の反応を見て小言を
「意外でしょうね…」
「意外って、なにが?」
「…聞いてたんですね……いえその…私と関わっている人がいて珍しいのだと思います」
珍しいって…なにが?ときょとんと首を
「私には友人と呼べる人がいません。だから皆さんは気になるのでしょう…
「…友達がいないって、麗奈は子供の頃からずっと友達がいなかったの?」
興味関心もなさそうに孤高に
するとすぐに麗奈は
そっか、友達がいなかったんだ。
「…同情はしなくてもいいのですよ?私は今まで好きで人と関わらないようにしてたのですから……」
「そっか…」
じゃあ、つまり。
「じゃあつまり!私が麗奈の初めての友達ってことだね!光栄だなぁ!」
「…へ?」
「ふふふ♪そっかあー♪麗奈の初めての友達かぁー!じゃあ、あれだね!」
「私が麗奈のハジメテを
「ハ、ハジメ…!?な、なにを!?」
えへへ♪と
そんな驚く麗奈に私は寄り添って、その小さくて綺麗な手を優しく握る。
そして、一呼吸置いてから…私は声を上げた。
「私!麗奈のことがすき!」
「へ、へあ!?」
「今日はほんっっとーーっに麗奈と会えてよかった!大好き大好き!好き好き!友達になれてよかったよ!!」
両手で麗奈の右手をぎゅうっと包み込んで、それから手を離してから細い身体を抱きしめる。
私の体温をそのまま分け与えるみたいにぎゅうーーーって強く抱きしめてから、私は近くなった麗奈の顔を見て微笑んだ。
「ずっと側にいるからね♪麗奈!」
ずっと側にいよう、そして麗奈と思い出を作っていこう。
麗奈にとっての初めて友達、それが私!だから、初めての友達である私が沢山の初めてを与えていこう!!
うふふ!最初はビビってたけど楽しくなりそうかも学校生活!!
私は麗奈を抱きしめながらこれから待つ未来に想いを
私が想い描く未来は、二人で手を繋いでいる親友となった未来図だ。
けど、この時の私は想い描く未来とは別の方向に行くなんて思いもしなかった。
親友ではなくて、親友を超えたもっと先の関係になるなんて…本当に、この時の私は考えつきもしなかった。
◇補足◇
転校してきた時期は5月
結稀の母親が再婚したのは2月
結稀の言うこと全部に恋愛感情は含まれてない、全部が友情から来てるもの
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