第3話 気になるお嬢様に急接近!
転校初日、天城さんと隣の席になった私は妖精みたいな美しい女の子を見てそう思った。
けど、天城さんと仲良くなるよりも先に転校早々壁にぶち当たるとは思いもしなかったのだった。
(な、ない!?ちょっと待って!ほんとにないんだけど!!)
一限目、数学の授業が始まって、厳格そうな先生が授業を教えてる
机にはあるはずのものがなくて、ペンケースと白紙のノートしかない。
あるはずのものというは、もちろん教科書のことだった。
(教科書がないんだけどぉ!!)
イヤァァ!とムンクの叫びみたいに顔が歪みそうになる…。
どれだけ鞄の奥を探っても、肝心な数学の教科書がどっっこにも見当たらなかった。
他の授業の教科書はあるのに、数学だけ存在しない…昨日は確かに入れたはずなのに今この瞬間どこにもないのだ!
これが…シュレディンガーの教科書!?
ってふざけてる場合じゃなくて!ほんっとうにピンチなのだこの状況!!
いや、本当になんで忘れたんだろ私!昨日は緊張しながら何度も確認したはずなんだけどなぁ!?
十回近くはやって安心したはずなんだけど!
ぐるぐるぐぅーると昨夜の出来事を回すように思い出す。
すると、記憶の一部に引っ掛かる出来事を思い出して…私の動きはピタリと止まった。
昨夜はそう…確認の最中に数学の教科書を取り出したあと、他の教科書がないか確認するために机の上に置いたんだよ。
それでそれで…他の教科書を確認したあと満足した私は…。
『うん、数学は入ってるね!とりあえず机の上に置いて、他のを確認しないと……』
って言って、机の上に置いてた数学をそのまま放置………ってあ"あ"ーーーッ!!
私じゃんか!私がわるいじゃんかこれ!
運命の
おのれ
けど、今更
教科書を忘れた今、先生に報告しなきゃいけないんだけど…私はその先生に報告するのがすっごーくイヤだった。
数学を担当しているのは規則に厳しそうな厳格な教師。
常に眉間に皺が寄っててイライラしてそうなおばさんの教師で、私はそういう人がすっごく苦手だった。
というより、実際その先生とは
『ちょっと柴辻さん!その髪はなんですか!校則違反ですよ!!』
『げっ…これはそのぉ』
ちゃんと地毛ですって言ったら渋い顔をして去っていたけど、もし教科書忘れましたなんて言ったら髪の件も含めてグチグチ言われそうな気がしてイヤだった。
いやまあ完全な偏見なんだけどね?でも十分やりそうじゃんか!目が吊り上がってて眼鏡かけてるんだよ?絶対やるよあれ!
私、怒られるのは
なんならそっちの方が精神的にも来るじゃん!
だからという理由で…私は先生に言うことを
でも、言わなきゃ後で小言を言われそうだし…とイヤそうな顔をしていると、ふと私だけに聞こえる静かな声で…。
「忘れたのですか?」
「へっ?」
透き通るような綺麗な音色が…耳に滑って来た。
私は少し驚いて周囲を見渡すと、隣の席の女の子の
あ、あれ私?いま、私を見て言ってるんだ…。
当然のことなのに、現実味がなくて受け入れるのに時間が掛かった…。
それくらい予想だにしてなかったっていうか…私にあまり興味がなさそうだったからすごく意外だった。
「教科書、忘れたのですか?」
「あっ、えと…えへへ…そうなんだよ」
もう一度問われて、私は
綺麗な女の子だなぁ…って関係ないけどそんな感想を抱かずにはいられなかった。
だってそうじゃん…色素の薄い亜麻色の髪といい透明感のある肌といい整った顔といい美少女パーツの盛り合わせっていうかさ…。
女の子が欲しい要素を全部持ってるような女の子だよ?しかもお嬢様だよ!?関係ないけど綺麗って感想抱かずにはいられなくない!?
って、私は誰に逆ギレしてんのさ…。
自分で自分をツッコんで、意識を天城さんに向ける。
すると天城さんは表情を変えることなく私を見つめると、
「え?ええっ?」
思わず困惑の声が飛び出る。
天城さんは表情を変えずに、亜麻色の髪を揺らして私の隣に席をくっつけた。
ちょこんと席に座って、天城さんは
「二人で見ましょう、それなら安心でしょう?」
桜色の唇が
私はその光景をコンクリートで固められたみたいに固まっていると、ハッと思い出して意識が覚醒した。
え、なにこのお嬢様…?なにこのお嬢様!
今の私の頭の中は、授業よりも天城さんでいっぱいだった。
だってそうなるに決まってるよね?美しい容姿もそうだし困ってる私に
「え、まじ女神じゃん…ちょう好き、結婚してほしい……」
「………はい?」
あ……口が
◇◇◇◇
「え、まじ女神じゃん…ちょう好き、結婚してほしい……」
「………はい?」
ノートを取ろうとした私は、横にいる柴辻さんの言葉に気を取られて、思考が
それは、まるで絶対零度に巻き込まれて、一瞬で凍らされたような、そんなイメージでした。
握っていたペンがするりと抜け落ちます。
他人に向ける必要のない意識が、柴辻さんへと向きました。
柴辻さんは、すごく本気の表情でした。
真に迫るというのでしょうか…そこには嘘偽りのない空気があり…私は酷く困惑せずにはいられませんでした。
す、好き?
け、結婚したい…?
私達は先程会ったばかりです。
それも会話自体今のが初めてと言ってもいいでしょう。
たった一回の会話で、どうして告白されるのでしょうか?どうして結婚しようって言われるのでしょうか!?
困惑が隠せません、表情が今にも崩れてしまいそう…!
それくらい、彼女こと柴辻結稀さんの事が理解できませんでした。
お互いが見つめ合うこと数十秒…いえ、数分または数時間が経過したのでしょうか?
時間の流れがいつもより遅い気がします…それくらい重い空気が私達の間にはありました。
柴辻さんはじっと真顔のまま私を見つめると、そっと右手を挙げて真剣な顔付きで言いました。
「……今のはその、えと、すみません」
謝られてしまいました……。
いえ、その…謝られても困るのですが?具体的な答えを知りたいのですが!真剣な表情で謝られたら余計に困惑してしまうのですが!
……と、とりあえず!
こほんっと咳払いをして感情の
柴辻さんも本意ではなかったようですし、先程の発言は何かの表現なのでしょう…それなら納得がいきます。実際、私達は同性ですし恋愛感情など有り得ませんから…。
「よかったです、本当だったらどうしようかと思いました」
感情を押し殺して、淡々とした口調で返答を返します。
すると、柴辻さんは慌てた様子で首を横へと振りました。
「ああいやその!今言ったことはあながち間違ってないっていうか!本当って言うか?ただ口が滑っただけなの!」
「……それはつまり?」
「天城さんが女神で好きなのは本当ってこと!」
……………なるほど。
つまりはその、えっと……その。
あれ?今私…口説かれてるのでしょうか?
世界的にも有名な天城グループの御令嬢の私が、会ってまもない転校生にですか?
り、理解が追いつけません!こ、こんな状況は今までで初めてです!!
私は一体どう言葉を返したら良いのでしょうか!?物心が付く頃から大人達に相手してた私がコミュニケーションで困惑する日がくるなんて!!
この時、頭がぐるぐると回っていました。
遊園地に行った事がない私は、観覧車ってこんな感じなんだろうなって思いました。
それくらい、私はいっぱいいっぱいでした…。そして、いっぱいいっぱいの私が導き出した答えは……。
「そ、その…結婚は出来ませんが、お友達からはどうでしょうか?」
◇補足◇
ユウキの『好き』に恋愛の意味は含まない
結婚したいはあくまでも冗談
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