第一章 金色とお嬢様の出会い

第2話 金色転校生と孤高のお嬢様


 その日、やけにクラスが騒がしいなと私は思いました。

 ひそひそと噂話が交差こうさし合い、私の頭上に噂が飛び交っては、漏れた噂話が私の耳に入るのです。


『転校生が来るみたいですよ』

『どうしてこの時期に?一体どんなお方なのでしょう?』

『怖い人じゃなければいいのですが…』

『でもすごく気になるよね』


 反応は、好奇心半分と恐怖半分。

 もちろんそうでしょう、この学園に通う生徒は皆、初等部から高等部までエスカレーター式で今日までいるのですから、突然の来訪者に驚きが隠せません。

 が、しかし私には関係のないことでした。


 一体どんなお方が来ようとも、私は関わるつもりはありませんから。

 だって、このクラスにいる人達とも全くと言っていい程に交流を交した事がありませんでしたからね。

 例え、初等部の頃からの顔馴染かおなじみでも、必要な会話以外は交わした事がありません。


 なにせ、この私に親しい友人など必要ないのですから。


 天城グループ、それは世界でも名のある大手グループ企業。

 その御令嬢である私、天城あまじろ麗奈れいなは、それに相応しい厳しい教育を施されて育てられてきました。


 誰よりも賢く、誰よりも強く、誰よりも美しく…。

 完璧を求められ、完璧に近づいていく内に私は私なりに考えて、必要のないものを区別していくようになりました。


 まず、他者はいらないと思いました。

 親しい人間は毒になる、いつか利用されるか裏切られるか…。

 不安定なリスクを抱えた存在に、リソースを割く必要などありません。ですから私は他者との交流を最低限に留めることにしました。


 人は私の在り方を孤独と言うのでしょうが、関係ありません。

 際限なく研ぎ澄まされた個に、自分以外の存在はいらないのですから。


 とまあ、そのような理由もあり…クラスを騒がす『謎の転校生』には微塵みじんたりとも興味がありませんでした。

 私は席に座ったまま、愛読書である小説を読みます。


 読書はいいものです。

 読んでる最中は、世界を隔絶かくぜつしてくれるから。

 そこに存在するのは私だけの世界です。割り込んでくる人間は一人たりともいないので、私だけの時間を過ごせるこの時間が何より好きでした。


 そうして、ページをいくつかめくって読みふけっているとチャイムが鳴り響きました。

 キーンコーンカーンコーン…と間延びした音が鼓膜を震わせて、集中していた意識がかれます。


 私はすぐに本を机に入れると、教卓の方へ視線を向けました。

 まだ先生はいませんでしたが、すぐに扉が開いて先生の声が無音となった教室に響きます。


「みなさんおはようございます、さて突然なのですが転校生の紹介をしようと思います」


 先生がそう言うと、クラスに緊張が走りました。

 少しだけざわついて私語が見え隠れしています。先生はすぐに私語を注意すると、廊下で待ってるだろう転校生に「入ってください」と一言言いました。

 そして『噂の転校生』が入ってきます。


「…………!」


 私は、思わず目を見開いて驚いてしまいました…。

 教室に入室してきた転校生は、長い金の髪をなびかせながら靴音を鳴らして私達の前に立ちました。


 幼さの残った輪郭りんかくは可愛らしく、薄緑の瞳は海外の血を感じさせます。

 まつ毛が長く、真っ白な肌を持つ彼女は第一印象としてどこかの国のお姫様を連想しました。

 特に、その長く派手な黄金の髪は興味関心の薄い私ですら目を引くものでした。


 これにはクラスも騒然とします。

 噂の転校生がこんなにも派手で、美しいとは誰も予想などしてなかったのですから。

 

「はい皆さん、私語はつつしむように」


 パンパン!と手を叩いて、クラスメイトは思い出したようにしんとしずまります。

 しかし、好奇心を孕んだその目はキラキラと輝いており、視線の先は転校生に向けられていました。


 しかし、私は一度驚きはしたものの…もう驚くことはありませんでした。

 荒立った波は既に静まり、私はこの時間が終わるのを待ちます…噂の転校生がどんな方でも、私には関係がありませんからね。


 まし顔で彼女の紹介を聞きます。

 先生曰く、彼女は色々な都合があり転校を余儀なくされたそうです。

 まだ右も左も分からないので皆さんで手伝ってあげてください……ですか。


「えっと、まあ先生の言う通りで…色々あってこの学校に転校してきました!」

「私の名前は柴辻しばつじ結稀ゆうき!気軽にユウキって呼んでくれると嬉しいかな!」


 金糸きんしを揺らして彼女、さんは太陽のように笑いました。

 その後、クラスメイトから質問を受けて、軽く色々な事を聞かれた様子でした。私は参加する気はないので何も聞いてません。


「では、そろそろ授業を始めるので…柴辻さんはあちらの席に座ってください、天城さんの隣の席です」

「は、はい!わかりました!」


 ──え、今なんとおっしゃいました?


 顔を見上げて先生を見ます。先生はほのかに笑うと私の方を指して柴辻さんに言いました。

 柴辻さんは元気のいい返事をすると、とてとてと足音を立てて私の方に来ます。


「えっと、天城あまじろさんだっけ?よろしくね!」


 とてもいい笑顔です…。

 私はまぶしさに照らされるような感覚を覚えて、思わず気後きおくれしてしまいました。


「は、はい…よろしくお願いします」

「うん、色々頼らさせてもらうからさ!先に謝っとくね!」


 両手を合わせて謝ると、柴辻さんは席に座ります。

 私が呆気あっけに取られてる内に、先生が授業を開始させるのでした。


◇◇◇


 綺麗な女の子だと思ったんだ…。

 その子は隣の席の子で、名前は苗字しか知らないんだけどね。

 天城あまじろさんって言うんだって。この教室に入った時から彼女の存在感は一番最初に目に入るくらい凄かった。


 色素しきその薄い亜麻色あまいろの髪、透明感とツヤをそなえた羨ましい美肌…。

 表情はキリッとしていて優等生って感じがする。

 まるで妖精のような美しさを秘めてるけど、雰囲気はそれとは真逆な感じだった。


 孤高…天城さんを見て思ったのはその一言。

 他の子とは全く違う空気を持ってる天城さんに、私は自己紹介中気になってまなかったのだ。


(でもまさか、隣の席になれるなんてラッキー☆)


 神様の起こした偶然に感謝〜!なぁんて私ってば神様信じてないんだけどね☆

 

 けど、緊張したなぁ〜さっきは!

 思い出すのは今さっきの出来事、怖い顔をした先生に案内されて教室に入ると、めっちゃ珍しいものを見るみたいに見られたんだからさ!


 やっぱ私の髪って超奇抜で目立つよねぇ?


 くるくると髪を巻いて憎々しげに髪を見つめる。

 染めたと勘違いされそうなくらい濃い金髪は、消えたお父さんの血筋由来の天然物。

 けど、色が色なので子供の頃からとにかく厄介ものの種でしかなかった。


 昔から先生に染めてるって勘違いされてたし……実際この学校に着いてから同じこと言われたし!

 前の学校のクラスメイトとか道行く人に珍しそうに見られたり…!


 実際、さっきの質問のほとんどがこの髪についてだったんだよね。

 まぁ、別にいいんだけどね?私だって同じこと聞きたくなるしさ。


(それに、案外すぐに忘れられてくものだし、話題が上がってるまでこの髪を使って仲良くなろっと…)


 そう、問題はそこなんだよね。

 転校したことで、友達との繋がりは新品のスマホ一つだけが唯一のものとなった。

 私が今日から通うこの学園に、友達はおろか知り合いなんてひとッッもいない!


 全部まっさらな状態で始まったこの学園生活に必要なのは、まさに友達!

 実際先生の言う通り、ほんとうに右も左も分かんないんだから友達は必須ひっすの必須!超必須なのだ!


(その為にもまず、隣の席の天城さんと…仲良くならなきゃね!)


 薄い亜麻色の髪の少女を見て、私は決意を決める。

 実際、この教室に来た時からずっと気になってたんだよね私!


 うん、この学園に来て一番最初にやるべき事は天城さんだ。

 私は決意を決めて天城さんを盗み見る。


(天城さんと…仲良くなるぞ!)


◇登場人物紹介◇


柴辻結稀(16)


親が再婚したことをキッカケに転校することになった主人公。

『好き』が口癖で、何でもかんでも好きと言いまくる距離感がバグってる女子高生。

容姿は濃い金色の髪に薄緑の瞳を持つハーフ。


身長167cm


天城麗奈(16)


孤高のお嬢様。人と関わることを拒み、一人でいることを良しとする人。

幼い頃から厳しい教育を受けて育っている為、生半可な事では驚かないし何事もそつなくこなす超人である。

容姿は亜麻色の髪と透き通るような肌が特徴的な小柄な美少女。


身長155cm

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