十八
火は見る見るうちに、
良秀のその時の顔つきは、今でも私は忘れません。思わず知らず車の方へ駆け寄ろうとしたあの男は、火が燃え上がると同時に、足を止めて、やはり手をさし伸ばしたまま、食い入るばかりの眼つきをして、車をつつむ
が、大殿様はかたく唇をおかみになりながら、時々気味悪くお笑いになって、眼も放さずじっと車の方をお見つめになっていらっしゃいます。そうしてその車の中には──ああ、私はその時、その車にどんな娘の姿をながめたか、それを詳しく申し上げる勇気は、とうていあろうとも思われません。あの煙にむせんであおむけた顔の白さ、焰をはらってふり乱れた髪の長さ、それからまた見る間に火と変っていく、桜の
するとその夜風がまた一渡り、お庭の木々の梢にさっと通う──と誰でも、思いましたろう。そういう音が暗い空を、どことも知らず走ったと思うと、たちまち何か黒いものが、地にもつかず宙にも飛ばず、
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