十七
時刻はかれこれ真夜中にも近かったでございましょう。林泉をつつんだ
「良秀」と、鋭くお呼びかけになりました。
良秀は何やらご返事をいたしたようでございますが、私の耳にはただ、うなるような声しか聞えて参りません。
「良秀。今宵はそのほうの望み通り、車に火をかけて見せて遣わそう」
大殿様はこうおっしゃって、おそばの者たちの方を流し
「よう見い。それは予が日ごろ乗る車じゃ。そのほうも覚えがあろう。──予はその車にこれから火をかけて、まのあたりに炎熱地獄を現ぜさせるつもりじゃが」
大殿様はまたことばをおやめになって、おそばの者たちにめくばせをなさいました。それから急に苦々しいご調子で、
「その中には罪人の女房が一人、
大殿様は三度口をおつぐみになりましたが、何をお思いになったのか、今度はただ肩をゆすって、声もたてずにお笑いなさりながら、
「末代までもない
仰せを聞くと仕丁の一人は、片手に松明の火を高くかざしながら、つかつかと車に近づくと、やにわに片手をさし伸ばして、簾をさらりと揚げて見せました。けたたましく音を立てて燃える松明の光は、ひとしきり赤くゆらぎながら、たちまち狭い
その時でございます。私と向いあっていた侍はあわただしく身を起して、
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