九
その時の弟子のかっこうは、まるで
が、もし何事も起らなかったといたしましたら、この苦しみはおそらくまだその上にも、つづけられたことでございましょう。
「蛇が──蛇が」とわめきました。その時は全く体中の血が一時に凍るかと思ったと申しますが、それも無理はございません。蛇は実際もう少しで、鎖の食いこんでいる、
「おのれ故に、あったら一筆を仕損じたぞ」
良秀はいまいましそうにこうつぶやくと、蛇はそのまま部屋のすみの壺の中へほうりこんで、それからさも不承無承に、弟子の体へかかっている鎖を解いてくれました。それもただ解いてくれたというだけで、かんじんの弟子のほうへは、優しいことば一つかけてはやりません。おおかた弟子が蛇にかまれるよりも、写真の一筆を誤ったのが、
これだけのことをお聞きになったのでも、良秀の気違いじみた、薄気味の悪い夢中になり方が、ほぼおわかりになったことでございましょう。ところが最後にもう一つ、今度はまだ十三、四の弟子が、やはり地獄変の屛風のおかげで、いわば命にもかかわりかねない、恐ろしい目に出あいました。その弟子は生れつき色の白い女のような男でございましたが、ある夜のこと、何気なく師匠の部屋へ呼ばれて参りますと、良秀は灯台の火の下で
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