五
と申しますのは、良秀が、あの一人娘の小女房をまるで気違いのようにかわいがっていたことでございます。先刻申し上げました通り、娘もいたって気のやさしい、親思いの女でございましたが、あの男の
が、良秀の娘をかわいがるのは、ただかわいがるだけで、やがてよい
もっとも其うわさはうそでございましても、子煩悩の一心から、良秀が始終娘の下がるように祈っておりましたのは確かでございます。ある時大殿様のお言いつけで、
「ほうびにも望みの物を取らせるぞ。遠慮なく望め」というありがたいおことばが下りました。すると良秀はかしこまって、何を申すかと思いますと、
「なにとぞ私の娘をばお下げくださいまするように」と
「それはならぬ」と吐き出すようにおっしゃると、急にそのままお立ちになってしまいました。かようなことが、前後四、五へんもございましたろうか。今になって考えてみますと、大殿様の良秀をご覧になる眼は、そのつどにだんだんと冷やかになっていらしったようでございます。するとまた、それにつけても、娘のほうは父親の身が案じられるせいででもございますか、
私どもの眼から見ますと、大殿様が良秀の娘をお下げにならなかったのは、全く娘の身の上を哀れに
それはともかくもといたしまして、かように娘のことから良秀のお覚えがだいぶ悪くなってきた時でございます。どう思し召したか、大殿様は突然良秀をお召しになって、地獄変の屛風を描くようにと、お言いつけなさいました。
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