二
良秀と申しましたら、あるいはただいまでもなお、あの男のことを覚えていらっしゃる方がございましょう。そのころ絵筆をとりましては、良秀の右に出るものは一人もあるまいと申されたくらい、高名な絵師でございます。あの時のことがございました時には、かれこれもう五十の
いや猿秀と申せば、かようなお話もございます。そのころ大殿様のお邸には、十五になる良秀の一人娘が、小女房に上がっておりましたが、これはまた生みの親には似もつかない、あいきょうのある娘でございました。その上早く女親に別れましたせいか、思いやりの深い、年よりはませた、りこうな生れつきで、年の若いのにも似ず、何かとよく気がつくものでございますから、
すると何かのおりに、
ところがある日のこと、前に申しました良秀の娘が、お文を結んだ寒紅梅の枝を持って、長い御廊下を通りかかりますと、遠くの
が、若殿様のほうは、気負って駆けておいでになったところでございますから、むずかしいお顔をなすって、二、三度おみ足をお踏み鳴らしになりながら、
「なんでかばう。その猿は柑子盗人だぞ」
「畜生でございますから、……」
娘はもう一度こう繰り返しましたが、やがて寂しそうにほほえみますと、
「それに良秀と申しますと、父がご
「そうか。父親の命
不承不承にこうおっしゃると、楚をそこへお捨てになって、もといらしった遣戸の方へ、そのままお帰りになってしまいました。
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