結章
塙貴壱朗「急に婚儀の約定を、なかったことにして欲しいと、そう言い出したそうですが?」
鈴木善之助「あの女が嫌いになった訳ではなのです。ただ……婚礼の日が近づくにつれて、不安がどんどんつのって」
塙貴壱朗「不安?」
鈴木善之助「
鈴木が見た雪女郎の回想
雪女郎「誰!?」
振り返った雪女郎の顔アップが、鈴木の脳裏に浮かぶ
今度は細部がハッキリとしている
乱れ髪の女性の顔と重なる、島田髷の女性の顔
鈴木善之助「あれは……見てはいけない亡き母の秘密。今ハッキリと思い出しました。あの雪女郎は……母でした」
涙をポロポロとこぼして、ガクッと片手をつく鈴木
塙貴壱朗「小藩とはいえ鈴木殿は海坂藩国家老の家柄、なぜ母上は堕胎を?」
鈴木善之助「母は……父の屋敷に奉公に上がった百姓の娘で、その時にお手がついて」
屋敷の庭を掃いているまだ若い頃の鈴木の母
その様子を見ている鈴木の父の後ろ姿
鈴木善之助「しかしすでに跡取りがいたため、母の家でてて親のない子として拙者は八歳まで育ちました」
塙貴壱朗「やっぱり……。それであんなに百姓の暮らしに詳しかったんだぁ」
塙の言葉に、コクリとうなづく鈴木。
鈴木善之助「しかし父と嫡子が流行病で急死すると、顔も知らぬ本妻が突然現れ、明日からおまえは鈴木家の跡取りだ…と」
塙貴壱朗「──父も母も信じられず、それで婚礼の日が近づくと不安がつのった……か」
涙ぐむ鈴木
鈴木善之助「塙殿……実母はやはり身体を売って拙者を養っていたのであろうか?」
塙、鈴木の問いの答えず、隣の部屋に向かって声を掛ける
塙貴壱朗「そう言うことらしいですが、どうします?」
驚いた鈴木が声の方を向くと、襖を開いて、鈴木の婚約者が
鈴木善之助「聞いていたのか……それならば話は早い。拙者のことは忘れてくれ」
泣き崩れる女。
口を挟む塙
塙貴壱朗「鈴木殿はこけしの由来を知っておられますかな」
鈴木善之助「なんでも、間引きした子供の位牌代わりに姿を似せて作った物だと……だから、こけしは『子消し』だと」
塙貴壱朗「それは俗説ですよ。オシラサマを模したという説があります」
オシラサマのカットと説明ナレーション挿入
ナレーション『オシラサマの神体は一対の、桑の木で作った一尺程の棒の先に男女の顔や馬の顔を書いたり彫ったりしたものに、布きれの衣を多数重ねて着せたものである。』
ナレーション『農業神とも蚕の神とも、神が降りてくる依り代言われる。巫女であるイタコがオシラサマに神寄せの経文を唱えて、手に持って祭文を唱えながら踊る『オシラアソバセ』などの神事が今に残る……』
こけしの中から、もっとも古びて色が変色した者を取り出す塙
塙貴壱朗「これは?」
鈴木善之助「母がもっとも大切にしていた品です。拙者にも大事にせよと、遺言を」
塙貴壱朗「ふむ……」
塙がこけしの頭を、グイグイとねじると
キュポンという音を立てて、クビが外れる
こけしの胴体には、丸められた書き付けが入っている
鈴木善之助「それは……」
塙貴壱朗「最初に持ったとき、大きさのわりに軽いと思っていたのですが……やっぱり腹蔵のこけしでした」
書き付けを差し出す塙
慌ててそこの文面を声に出して読む鈴木。
鈴木善之助「海坂藩秋月村の娘スメが一子、善之助を国家老鈴木泰善に庶子として預け置く。善之助は余が実子にして後生のためにこれを書き記すものなり。
海坂藩藩主……柿崎斉実」
女「では善之助様は!」
塙貴壱朗「前藩主の御落胤にして当代の藩主の腹違いの弟と言うことになりますね」
呆然とした表情になる鈴木。女と顔を見合わせて、絶句する
鈴木善之助「なぜこのようなことが?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます