承章
鈴木の話に、リアルにイメージして、怯える雪乃
雪乃「その赤子を受け取ると……どうなるのですか?」
鈴木善之助「赤子はどんどんと重くなり、ついにはその重さに押しつぶされるとか」
塙貴壱朗「子泣き爺と同じですね。重くなる赤ん坊というのは」
鈴木善之助「雪女郎はまた、紅い雪が降る時期に雪で小さな人形を作り、息を吹きかけて魂を吹き込み、子供にするともいいます」
鈴木の言葉に重なる、赤子を抱いた雪女郎jのイメージカット挿入
ゾクッとなる塙
塙貴壱朗「紅い雪……か。何だか怖いねぇ」
雪乃「それで雪女は本当にいるのですか?」
鈴木善之助「拙者の田舎でも何人か、見たことがあると言います。それに……」
塙貴壱朗「それに?」
鈴木善之助「拙者も見たことがあるのですよ」
驚く雪乃
雪乃「す…鈴木様、それ本当?」
鈴木善之助「ええ、何しろ子供の頃ですが、祖母の家に行ったとき、裏山で……」
雪が積もった笹の間から這い出し、顔を出す子供の鈴木
その視線の先に、月明かりの中赤子を抱いている女性の後ろ姿
足下には真っ赤な血のシミが
その様子に怯えた鈴木
逃げだそうとして笹の葉に積もった雪が落ち、ガサッ!と大きな音を出す
振り返る雪女郎
雪女郎「誰!?」
鈴木善之助「うわぁあああん」
泣きべそをかきながら、必死に走る鈴木
回想終わり
鈴木善之助「子供心にもただ恐ろしくて、泣きながら逃げたのです。どうやって家に帰ったかも覚えていないぐらいで」
苦笑する鈴木
鈴木善之助「ただ、確かにあの時、雪女郎の足下には紅い雪が降っていました」
おびえる雪乃
雪乃「やっぱり雪女は本当にいたんだ……」
塙貴壱朗「鈴木殿はなぜ、その時裏山に?」
戸惑う鈴木
鈴木善之助「え? そう言われても……なぜでしょうか。月明かりにでも誘われたのかな?」
曖昧な笑みを浮かべる鈴木
疑いの眼差しの塙
塙貴壱朗「ふぅ〜ん……」
誤魔化すように鈴木、こけしをひとつ棚から取って、
鈴木善之助「これ、雪乃殿にひとつ差しあげましょう」
雪乃「ええ! いいんですか? ありがとうございま~す」
嬉しそうな顔の雪乃
コケシを貸してもらい、しげしげと眺める塙
塙貴壱朗「ほぉ……鳴子のこけし、ずいぶんと良い品ですね。頂いてよろしいんですか? おもったより軽いんですね」
鈴木善之助「我が藩名産のこけしでして。母が好きで集めていましたから拙者もいつの間にかこんなに……」
そう言って照れ笑いする鈴木の、右手の包帯を、ジッと見つめる塙
藩邸からの帰り道
可愛いこけしを見て、嬉しそうな表情の雪乃
雪乃「えへへへへ〜」
塙貴壱朗「やっぱり女の子は人形が好きなんだねぇ」
雪乃「あらだってこのこけし、ずいぶんと綺麗な顔をしているから」
塙貴壱朗「子供の姿を象った物と言われているけどね。だから髪型もおかっぱ頭で幼子の姿をしている」
雪乃「そうなんだ~。そう思うと何だかかわいらしいわね」
『質屋 壱六堂』と染め抜かれた暖簾の前に到着した二人
番頭らしき男が二人に声を掛ける
番頭「お嬢さんに塙先生、お帰りなさいまし。ちょうど新しい椋鳥が入りましたんで、ご挨拶を」
五助「初めまして。おらぁ今日からこちらで世話になる、五助ち言います」
いかにも田舎物の季節労働者と言った風体の男、ペコリと頭を下げる
塙貴壱朗「椋鳥……ってなんです?」
番頭「あはははは、学者先生は世事に疎い。椋鳥というのは冬場に出稼ぎに来る者のことです」
雪乃「椋鳥も冬になると群れで現れるでしょ?」
塙貴壱朗「なるほど……知らなかったなぁ。田んぼ仕事がなくなる秋から冬にかけて
やってくるから、椋鳥かぁ」ひとしきり感心した塙
急に何かピンと来た表情
ブツブツと口の中で言葉を反芻する
塙貴壱朗「椋鳥……農閑期の出稼ぎ仕事……か」
雪乃「──塙先生、どうかしたの?」
ニコッと笑って、雪乃の頭を撫でる塙貴壱朗
塙貴壱朗「雪女の……雪女郎の正体、ひょっとしたらわかるかも」
雪乃「ええ?」
驚く雪乃と、その手に抱かれたこけしの顔アップ
背後から、塙に声を掛ける声
声「あの……」
塙が振り返ると、そこには二〇歳前後の美しい女性
雪乃「塙先生……この人、だぁれ?」
いぶかしげな表情の雪乃に、困った表情の塙
塙貴壱朗「いや、拙者も知らないんだが。どこかでお会いしましたかな?」
女「うわぁあああーっ」
急に泣き崩れる女
女から胸に抱きつかれ、困惑の表情の塙
それを見て、ムッとした顔の雪乃
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