起章

見ると、まだ二十代中盤の好青年・すずぜんすけが、左手の前腕から血を流して膝を着いている

足下には血がついた菜切り包丁が落ちている

パタパタと立ち去る足音が背後には聞こえている。

雪乃「きゃあっ! 血が……」

鈴木善之助「たいした傷ではござらん。大きな声を出されんでも……」

塙貴壱朗「善之助……鈴木善之助殿ではございませんか」

塙に声を掛けられた若侍、ギョッとした表情になる

が相手が塙と気づいて、安心した顔に

鈴木善之助「これは塙貴壱朗先生。とんだところをお見せして……」


赤面して顔を背ける鈴木を見て、事情を悟った塙

塙貴壱朗「何があったかは聞かないが……とにかく怪我の治療ですね。ちょうど鈴木殿に会いに行こうと思っていたときでした」

鈴木善之助「拙者に?」

要領が呑み込めず、困惑顔の鈴木



海坂藩屋敷の外観に重なる字幕『海坂藩下屋敷』

屋敷の中

二〇体ほどのさまざまなこけしが置かれた部屋

左手に包帯を巻いた鈴木と、それに相対する塙と雪乃

鈴木善之助「雪女……でございますか?」

塙貴壱朗「柳亭左團治の怪談噺が馬鹿に評判で。居候させてもらってる質屋の娘さんと、聞いてきたんだ」

雪乃「雪女って本当にいるんですかって、あたしが塙先生に聞いたんです」

塙貴壱朗「それで鈴木殿は確か、海坂藩のお方だった……と思い出しまして」

雪乃「海坂版って東北の藩ですよね? 雪女と関係があるの?」

※海坂藩は藤沢修平『蝉しぐれ』に出てくる、架空の東北の藩


塙貴壱朗「宗祇諸国物語という本には、越後で雪女が出たという話が載っているんだ」

宗祇諸国物語のイメージカット挿入

塙貴壱朗「東北各地に雪女の伝承があるようだから何かを知っているかもと思ってね」

鈴木善之助「確かに我が藩や庄内藩などでは、さような物怪もののけの話が、言い伝えられております」


そう言って、書物を探す鈴木

鈴木善之助「もっとも雪女というのは江戸風の言い方で、多くは『雪女郎』と呼んでおります」

雪乃「雪女郎?」

鈴木善之助「雪山の中を旅していると、白い肌着一枚の女性が子供を抱えて現れるんだそうです……」


※ここから鈴木のナレーションを交えた雪女郎の解説

蓑笠で歩く吹雪の中を歩く旅人

その前に出現する、赤ん坊を抱いた肌着一枚の女性

雪女郎「若い衆……この子を抱いておくれよ」

旅人「ひ……ひぃ!」

慌てて雪の中を走って逃げる旅人。

その背後から追いかけてくる雪女郎。

雪女郎「若い衆……この子を抱いておくれよ」

旅人「た、助けてくれぇ!」

雪女郎「若い衆……この子を抱いておくれよ」

薄ら笑いを浮かべて、旅人の背後から声をかけ続ける雪女郎のイメージ

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