紅い雪

篁千夏

序章

吹雪に揺れる山小屋・外観

小屋の中

消えた囲炉裏の火

その横で筵にくるまって寝ている親子。突然、音もなくスゥー……と開く小屋の戸

出現する白い着物の女

父親の上に覆い被さる女(このシーン自体、性行為のメタファー)

ただならぬ気配に気づく息子

横を見ると女に息を吹きかけられた父親

真っ白に凍り付く

驚いて飛び起き、後ろに這いずって逃げようとする息子

その息子に覆い被さる雪女

鼻先がくっつきそうな距離で、息子をジッと見つめる雪女

雪女「そなたの名は?」

息子「み、箕吉……箕吉です」

怯えながら答える息子の頬に、そっと手を当てる雪女

その手の冷たさにぞくっとする息子

雪女「そなたは……美しい目をしておる」

箕吉「え?」

雪女「だから命は取らぬ。見逃してやろう。しかし……この事を誰かにしゃべったら……」

雪女の瞳に、吸い込まれそうになる箕吉

箕吉「しゃべったら?」

雪女「その時は……そなたの命を必ず取りに行くぞえ」

雪の中に消えていく雪女


場面はそのまま寄席の舞台へ

雪女の話をしている柳亭左團治

めくりには柳亭左團治の文字

柳亭左團治「……箕吉はこの夜のことを誰にも語りませんでしたが、それから数年して……」


柳亭左團治の話を、怖そうな表情で聞いている十五歳ぐらいの娘・ゆきと、横に座っている三十代前半のさえない感じの男・はなわ壱朗いちろうの姿

舞台で熱演している柳亭左團治のイメージカット挿入

柳亭左團治「───こうして雪女は箕吉の元を去っていったのでした。怪談『雪女』の一席でございます」

ペコリと頭を下げる柳亭左團治

拍手している観客と塙と雪乃


寄席の外

二人で歩いている塙と雪乃

ひょろりと長身の塙と小柄な雪乃では、三十センチ以上の身長差

塙貴壱朗「さすが江戸で評判の柳亭左團治の怪談噺、面白かったねぇ~」

雪乃「ねぇねぇ塙先生、雪女って本当にいるのかなぁ?」

塙貴壱朗「う〜ん……いるかもしれないし、いないかもしれないなぁ。河童かっぱだってかわうそすっぽんの見間違いと言うからねぇ」

雪乃「あらだって塙先生は、そういうのを調べる学問をやってらっしゃるんでしょう?」


雪乃の子供っぽい言葉に、苦笑する塙貴壱朗

塙貴壱朗「国学は妖怪変化を調べる学問ではないんだがなぁ」

だが、まんざらでもない顔に

塙貴壱朗「でも面白そうだし、そっちに詳しそうな知り合いもいるし、ひとつ調べてみるかな?」

突然、前方から聞こえてくる言い争う男女の声。

女「もういい加減にしてっ!」

男「そうではないのだ……聞いてくれ……ウワッ!」

ただならない様子に、辻を曲がって駆け寄る塙貴壱朗

塙貴壱朗「おい、どうかしたのか?」

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