流行りの列車
立風館幻夢
流行りの列車
駅、そこには多くの人々がいる。
あっちへ行く人、こっちへ行く人、はたまた行く当てもなく彷徨う人。
ちなみに私はどれに分類されるかと言ったら、一番最後だ。
私は駅に着くや否や「ハイファンタジー」と書かれた発着番線へと足を止めた。
「次にハイファンタジーに参ります列車は、『追放ざまぁ』行きです」
追放ざまぁ……最近この行先の列車が増えている気がするな。
……あ、乗る人がいる、ちょっと聞いてみよう。
「すみません、この列車はどのような列車なのですか?」
「あぁ、これは今流行りの列車なんだよ、乗りたきゃ早く乗った方がいいぜ、乗り遅れたら一生乗れないからな」
流行りの列車か……ちょっと乗ってみよう。
……やはりたくさんの人が乗っている。
乗客たちは何かに期待しているようだ。
「今日も疲れたなー、早くいい景色が見たい」
「景色もいいけど、俺は気持ちよくなりたいな」
「あぁ……全て壊してしまいたい、早く行き先に着いてくれ」
乗客たちはそんな言葉を発していた……何か気味が悪いが、気にしない気にしない。
『まもなく発車いたします、ご利用のお客様、どうぞ終点までご乗車願います』
……車掌がアナウンスでそんなことを言う。
終点まで利用する客はそこまでいないだろう、どうせみんな望みが叶えば降りていく。
そんなこんなで、電車が発車した。
乗客たちは期待を胸に景色を楽しんでいた。
「次は、追放、追放です」
自動アナウンスが次の駅を知らせる。
すると、乗客が皆不快な表情を浮かべた。
「クソ……この駅で降りる奴なんていないんだから通過しろよ……」
「追放駅を利用する奴なんか全員くたばればいいんだ……」
「追放にいる奴なんてクソだな……」
……皆、まるで親の仇のように追放駅の暴言を吐いていた。
追放駅で降りる人はごく少数だった。
……列車はすぐさま発車し、自動アナウンスが次の駅を知らせる。
「次は、ざまぁ、ざまぁです」
その放送が流れた瞬間、車内はパーティ会場のようになった。
「よっしゃ! きた!」
「この時を待っていた!」
「もう最高!!」
酒を飲んだわけでもないのに、皆車内で踊り狂っていた。
……それが大体数十分くらい続き、皆徐々に落ち着きを取り戻した。
……さらに数十分、車内は異様な空気に包まれていた。
「クソ……まだ着かないのかよ」
「あぁ不快だ……同じ風景ばかり……」
「早くしろよ! おっせぇな! サービスの悪い列車だなぁ!」
皆駅に到着しないことに苛立ちを覚え始めた。
……そこから、一部がおかしくなり始めた。
「あぁクソ! 早く着かねぇなら、こんな列車降りてやる!」
そんなことを叫んで、一人が窓をぶち破って無理やり降りて行った。
「おい! まだ着かねぇのかよ! 早くしろよこのボケ!!」
先頭車両からそんな罵声が響き渡る。
確かに遅いの分かるが、ここまでイラつく必要があるのだろうか?
そんなことを考えていると、列車が減速を始める。
イラついていた一部の乗客の怒りが徐々に静まっていくのが分かった。
そして……列車が駅のホームに着いた。
「よおおおおおおっしゃ! やっと着いた! 最高の気分!」
「やっとこの列車からおさらばできるぜ!」
「クソ長かったけど駅に着いたからOK!」
……そんな言葉を聞くと同時に……8割方の乗客が下りて行った。
終点まで乗ってくださいと車掌さんは言っていたのに、ほとんどの乗客が下りて行った。
私は車掌さんの言う事を守り、終点まで乗ることにした。
「次は、終点、追放ざまぁ、追放ざまぁ」
なんと次の駅が終点らしい。
何とも長いような短いような……あっという間だな。
……と、最初は考えた。
だが、そんな放送が流れて数分後……。
「急停車します! ご注意ください!」
急にそんな放送が流れ、列車が文字通り急に止まった。
何事かと思った、次は終点なのに。
そんな疑問に答えるかの如く、車掌さんの声が響き渡った。
『ただいま、気が変わったため、当列車はここで運転を打ち切り致します、申し訳ございません、さようなら』
……意味が分からなかった、終点まで乗れと言ったのに……打ち切り?
他の乗客も私と似たような考えを持っているのか、不満そうな顔を見せている。
……仕方がない、窓から降りよう……駅まで歩くのはめんどくさいが、仕方がない。
☆
駅に戻った。
駅に戻ると随分様変わりしたように見えた。
……何故そう思ったかと言えば、「ハイファンタジー」に発着している列車が少なく見えたからだ。
代わりに、「異世界恋愛」と書かれているホームに沢山の列車が発着している……そのほとんどの列車が「たった1両ぐらい」の長さしかなかった。
その列車に乗ろうとしている人に話を聞いてみた。
「この列車はどこへ行きますか?」
「『婚約破棄ざまぁ』だよ、ちなみにあの列車は『冤罪ざまぁ』、あの列車は『断罪ざまぁ』、あの列車は『悪役令嬢ざまぁ』さ」
「……その違いは?」
「うーん……どの列車に乗っても終点はどっちみち同じじゃない? すぐに終点に着くから最近流行りの列車なんだよ、じゃあ私はこれで」
話しかけた人は、足早に列車に乗っていった。
列車を観察していると、短い編成の車両に人が大量に乗っていて、まるで人が圧縮されているようだった。
……あの人は終点はどっちみち同じと言っていたが……ならなぜ、人がたくさん乗っているのだろうか?
皆行き先が同じなのだろうか? それとも行く当てがないから乗っているのか?
どちらかは分からないが……私はとりあえず乗ってみようと思う。
……きっと終点に着いたところで、どっちみち同じだろうけど。
流行りの列車 立風館幻夢 @Zangetsu_Kureshima
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